お金と仕事
フットサルとガソリンスタンド勤務を両立「引退後の不安は全くない」
/本人提供
お金と仕事
フットサル女子の日本代表として活躍し、昨シーズンは年間MVPを獲得したバルドラール浦安の江口未珂さん(31)。実は、車のコーティングコンテストで優勝経験があるのです。ガソリンスタンドでフルタイムで働いた後、21時からフットサルを練習するハードな日々ですが、ケガもほとんどないそうです。仕事とプレーを両立させる日々について聞きました。(ライター・小野ヒデコ)
江口未珂(えぐち・みか)。
江口さんがフットサルに出会ったのは中学生の時でした。小学校時代に所属していたサッカークラブの監督がフットサルも教えていて、「足回りの技術を高めるのに役立つ」だろうと始めたのがきっかけです。
週2回の練習が徐々に待ち遠しくなり、「サッカーよりフットサルの方が向いていることに気づいた」と話します。
「サッカーはフィールドが広いので、試合を通してほぼボールに触らないこともあります。その反面、フットサルはオフサイドがないので、自分次第でいくらでもゴールに関わることができるのが面白いと思いました」
中学生時代はサッカー、女子サッカー、フットサルでプレーし、全ての試合に出場していました。土日は試合をはしごして、「中学校の時が一番忙しかったです」と笑います。
将来はフットサル選手として活動していきたいと、大学2年生の時にフットサル一本に絞る決断をしました。フットサルのプロリーグ設立の目処はなかったため、働きながら競技を続けることが当然の認識だったといいます。
大学4年生の時にフットサルチームのアルコ神戸への入団が決まり、チームが仲介して食品工場に契約社員として就職しました。
一方で、雇用形態や収入に不安があった江口さん。当時はフットサルの練習が週2回だったため、何もない夜の時間帯に別の仕事をしようと考えました。
元々車が好きで、大学時代にアルバイトをしていたガソリンスタンドが自宅の近所にあったため、バイトの面接にいきました。
洗車や、車にコーティングして傷や汚れを防止する「カーコーティング」に必要な資格はすでに学生の頃に習得していたため、すぐに採用されたそうです。
競技とダブルワークの3本軸で活動していた江口さんに転機が訪れたのは、アルバイトを始めて半年が経った頃でした。
日本代表としてアジア大会に出場することをバイト先に報告したところ、「当時のENEOSウイングの社長から、『日本代表としても活躍しているスタッフで、カーコーティングも上手なのであればぜひ正社員に』と、直々にお声がけをいただきました」と江口さんは振り返ります。
2018年にENEOSウイングの正社員となった結果、日本代表選手としての遠征や大会はJFA(日本サッカー協会)からの派遣となるため全て「出勤扱い」となり、チームを転籍して拠点が変わる場合は、他店舗へ異動という形での対応になりました。
アルバイトやパートで働いていて、遠征などで仕事を休む際は、ほとんどが欠勤扱いで無収入になります。また、移籍で居住地が変わる場合は新たに職を探さないといけません。
そうした経済面や心理面での不安が減り、フットサルに集中できる環境に身を置けているため、「会社に感謝しています」と江口さんは頭を下げます。
ガソリンスタンドでの江口さんの強みの一つは、カーコーティングの技術力です。
素早く丁寧にムラなく塗布する仕事は、几帳面な性格の江口さんには向いていました。
会社が毎年開催している「カーコーティング技術力コンテスト」は、車の半面を使ってコーティングをし、そのスピードや品質面を競います。高校生のアルバイトも参加できる中、初出場で準優勝、翌年の2020年には全国の技術者の中で、江口さんが優勝しました。
「1年目はどんな感じか全くわからない状態で出場して準優勝だったので、来年は大丈夫かなと余裕を持って臨みました。店舗に帰ると更衣室一面に自他店舗のスタッフからのお祝いの言葉が貼られていて嬉しかったです」
しかし、他社も出場するさらに規模の大きな大会に出場した時には、「次元が違った」と振り返ります。
「自分がフットサルをこだわり続けているように、コーティングに命をかけているレベルの人たちばかりでした」
年々レベルも上がってきていて、昨年の社内大会では初めて入賞を逃し、悔しさを噛み締めました。「今年は必ず入賞します」と意気込みます。
仕事はシフト制で、夏と冬にある繁忙期は8時から17時まで洗車やコーティングをひたすら担当します。就業後に帰宅し、シャワーを浴びて夕飯を摂り、片付けや洗濯を済ませた後に21時からの練習に向かいます。
練習は23時まで。体が活性化しているため、なかなか寝付けないこともあるそう。
「だいたい午前1時過ぎに寝ます。職場は近いので、起きるのは7時過ぎです」
多忙でも自炊と掃除、ストレッチは欠かさず、生活を整えることを心がけています。休日は温泉などで心身ともに労わっているそう。
「20代前半に比べて疲労が残りやすくなりましたが、体調を崩したり、ケガをしたりすることはほとんどなくなりました」
多くのアスリートが現役引退後の未来に漠然とした不安を抱く中、正社員としてデュアルキャリアを築く江口さんは「引退後の不安は、全くないですね」といいます。
フットサルと仕事の日々が充実しており、今は引退や、結婚・出産といったライフプランのことも考えていないそうです。
「引退後は、『店舗マネージャーの職を目指したら』と会社から声をかけてもらっています。フットサルの遠征などでなかなか社内研修に参加できないので、仕事一本になったら積極的に受けていきたいです」と語ります。
フットサル以外の好きなものがあり、それを仕事にしていること。そして働く姿勢や努力して体得したスキルで会社に貢献していること。
江口さんのケースは、キャリアに悩むアスリートへのヒントになるのではないでしょうか。
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