連載
#14 未来空想新聞
目の動きで車いす操作「サイボーグマスク」開発者が挑む「精神論」
まったく手を使わずにパソコンや電動車いすを操作できる「サイボーグマスク」。開発したのはロボット研究者の吉藤オリィさんです。オリィさんが試みる人間の「サイボーグ化」と、それを阻む「精神論」について、話を聞きました。
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#14 未来空想新聞
まったく手を使わずにパソコンや電動車いすを操作できる「サイボーグマスク」。開発したのはロボット研究者の吉藤オリィさんです。オリィさんが試みる人間の「サイボーグ化」と、それを阻む「精神論」について、話を聞きました。
顔半分を覆うマスクには小型モニタが組み込まれ、そこに視線入力システムを導入。手を使わずにパソコンや電動車いすを操作できる「サイボーグマスク」を開発したのが、ロボット研究者の吉藤オリィさんです。代表作の「OriHime」は、寝たきりの障害を抱える人にもカフェ店員や書店員という雇用を生み出しました。オリィさんによる「人間のサイボーグ化」がもたらす未来、それを阻む「精神論」の乗り越え方とは――。
「まったく手を使わずにパソコンや電動車いすを操作する」ことで大きな話題を集めた動画があります。
サイボーグマスクに小型モニタと視線入力組み込んで、全く手を使わずPC操作できるようにした。
— 吉藤オリィ@新著書「サイボーグ時代」発売中 (@origamicat) 2019年2月12日
まだちょっと調整難しいがALS患者の友人らもこれなら目の前にPC置けない着替え時や車椅子で移動中に文字入力できるだろう。
首に不随意運動ある人もこれなら使えるかもしれん#サイボーグ時代 pic.twitter.com/IGoPT5SewX
サイボーグマスクを改良して、目の動きだけで車椅子を操作できるようにした!
— 吉藤オリィ@新著書「サイボーグ時代」発売中 (@origamicat) 2019年2月28日
左目に内蔵されたモニタで地図や、バックカメラで後ろの様子も見える。
スポンサー集めて台数用意すれば、例えばサイボーグ化したALS患者さん達による視線入力車椅子サッカー大会も企画できるだろう#サイボーグ時代 pic.twitter.com/px0HLxnR4x
顔半分を覆うマスクに小型モニタを組み込み、そこに視線入力システムを導入した「サイボーグマスク」。これにより、目の動きだけでパソコンや電動車いすを操作することを可能にしています。
開発者のオリィさんは、サイボーグマスクのようなテクノロジーと人間との関係を、こう表現しました。
そんな状況で「自分は無能」と思い込んでしまう人の目を、オリィさんはこう覚まさせます。
「努力と根性と我慢」といった精神論により解決を図ろうとすると思考停止を招き、むしろ目的の達成を妨げてしまう、とオリィさん。
代表作の分身ロボット「OriHime」など、これまでの発明を振り返りながら、今後の目標だという「人間のサイボーグ化」がもたらす未来について、話を聞きました。
2018年冬、東京都港区赤坂に期間限定で、少し変わったカフェがオープンしました。名前は「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」。店員をするのはなんとロボットです。
「分身」として、自分がいない場所の様子をカメラやマイクで把握したり、スピーカーで人と会話したりできるロボット「OriHime」を活用したものでした。
ロボットを操作する「パイロット」は難病や障害により外に出られない人たち。自宅や病院から遠隔で接客をします。
通常のOriHimeは手のひらに乗るサイズですが、カフェに登場したのは大型(120cm)の「OriHime-D」。移動式で、簡単な物の持ち運びができるアームを装備しています。
このOriHIme-Dがあれば、例えば「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」という徐々に運動機能が失われていく難病の患者さんでも、寝たきりのまま来客に「お茶を出す」ことができるようになるのです。
たぶん世界初
— 吉藤オリィ@新著書「サイボーグ時代」発売中 (@origamicat) 2018年6月16日
寝たきりの患者が分身ロボットで来客に珈琲を出す事に成功!
ALS患者の岡部さんが唯一動かせる眼で視線入力し、120cmOriHimeの視界を見ながら操作。部屋を走り回り、人を出迎えたり飲み物を配った
未来では自分の身体を自分で介護できるかもしれない。研究は続く#orihime#orihimeeye pic.twitter.com/2UMSf0OHbC
ALSや難病の人向けに開発した視線入力ソフト「OriHime eye」、画面が動くのが最大の特徴で、約1秒真ん中を見ればクリック。人の視線は結構ブレるため、ボタンを大き表示する事で操作性が向上、かつシンプルでPCが苦手な人でも使える。入力速度の追求よりも、誰でも簡単に使える事が大切。 pic.twitter.com/jEFGFGOE41
— 吉藤オリィ@新著書「サイボーグ時代」発売中 (@origamicat) 2017年12月13日
しかし、これらのテクノロジーだけでは解消できないのが「役割」の不足だった、とオリィさんは考えます。
OriHimeを使って、より直接的に、外に出られない人を支援するプロジェクト。それが「分身ロボットカフェ」でした。
これにより「働きたいけど働けない」と悩んでいる人たちに雇用を生み出し、「外に出なくても接客などの仕事ができる」ことがイメージしやすくなる、と言います。
2019年2月から3月にかけては、代官山の蔦屋書店に、OriHimeが書店員をするコーナーも設置されました。パイロットは同様に、外に出られない人たち。
テクノロジーが社会に役割を創造したのです。
今後、オリィさんが取り組んでいくのは人間の「サイボーグ化」。ここでのサイボーグ化とは「テクノロジーが人生となめらかに融合する」状態のことを指します。
例えば最近、オリィさんは有志とこんな「サイボーグ腕」を開発しました。
サイボーグと言っても、必ずしも難しい最先端技術というわけではありません。
脊髄性萎縮症 (sma)の小学3年生さほさん
— 吉藤オリィ@新著書「サイボーグ時代」発売中 (@origamicat) 2019年1月6日
学校でクラスメイトや先生とジャンケンできないのは仲間外れ感があるという事で、有志メンバーとスイッチ1つでジャンケン(&握手とか)できるサイボーグ腕を作った。
明日以降、学校でさっそく実践へ#sma#サイボーグ時代 pic.twitter.com/SnRAk6VH7d
オリィさんが開発したのは、難病で手をわずかしか動かせない小学生でも、スイッチ式でじゃんけんができるようになる腕。
子どもの「友だちとじゃんけんができない」という悩みを、テクノロジーにより解消するためのものです。
ゆるやかな人間のサイボーグ化により、オリィさんは「“障害”はなくしていくことができる」と話します。
「私が使う“障害”という言葉は、“やりたいのにできないハードル”のことを意味しています」
これを障害と定義すると、誰もが障害を持っている、とオリィさん。例えば、友だちの結婚式に招かれたのに、海外に出張していて参加できない。これは物理的距離による障害です。
「でも、OriHimeを使えば分身がその結婚式に参加できる。最初から無理だと諦めることを減らし、どうすればできるかと考える方にシフトすれば、障害はなくしていけると思うのです」
それを阻んでしまうのが、冒頭の例え話にもある「努力と根性と我慢」のような精神論です。
「がんばった人ほど、がんばることが好きすぎる」とオリィさん。
目が悪くなったらメガネをかけることに何の違和感も覚えないように、「やりたい」と「できない」の間のハードルを、その発明によって軽やかに超えていきます。
心臓の病で車椅子ユーザーの13歳インターンの為に、皆でNintendo labのバイクキットで操作できる車椅子を作った。
— 吉藤オリィ@新著書「サイボーグ時代」発売中 (@origamicat) 2018年5月1日
バイク感覚で操作できて楽しい。 pic.twitter.com/MGvN2H3qH9
車椅子での外出はあまりに寒いので、歩行者も羨む車イス、車コタツを作ってみた。
— 吉藤オリィ@新著書「サイボーグ時代」発売中 (@origamicat) 2018年1月23日
ベースの車椅子はリクライニングとティルトが可能で、そのままフラットに寝れる。
ポータブル電源を搭載しPCも使いたい放題だ。
人類はついにコタツから出ずに外出する術を手に入れたのだ。 pic.twitter.com/hH8CyibTfc
冒頭のサイボーグマスク以外にも、ニンテンドースイッチで操作できる車いす、そして「こたつ」と一体化した車いす……。
既存の概念を打ち破るようなオリィさんの発明は、当事者の悩みにしっかりと寄り添いながらも、遊び心に満ちています。
それはSNSなどにより拡散していき、たしかに見る人の意識を変革しているようです。
オリィさんによれば、今、私たちが生きているのは「今年できなかったことが、来年にはできるようになっている世界」。そしてその中では、目の前の障害は「仕方ないこと」「諦めるべきこと」ではない、と続けます。
「それは、“人類あるいは自分がまだ乗り越え方を知らないハードル”に過ぎないのではないでしょうか。そう考えてみると、大切なのはテクノロジーそれ自体ではないことがわかります」
では、何が大切なのでしょうか。オリィさんは「大切なのは“自分”のアップデート」とします。
「自分が何をやりたいのか考え、その役に立つ適切なツールを発見したり、時には自分で工夫して開発したりしながら、生活の一部に取り入れること。そしてそれが当たり前であると心から思えるようになること。人間のサイボーグ化によって、引き続きこのアップデートを支援していきます」
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