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神輿担いで食っている「お祭り男」異色映画描く「時代の乗り切り方」
「神輿以外、やることがない」。パリ、ベルリン……日本だけでなく世界で神輿を担ぐ「お祭り男」の映画を撮った監督がいます。「神輿を担げば食っていける」。閉塞感の漂う社会、孤独に悩む人が多い中、「お祭り男」の生き様を通して訴えたかったのは「この時代の乗り切り方」でした。たかが神輿と思いきや、そこには現代を生き抜くヒントがありました。
映画『 MIKOSHI GUY 祭の男』は、神輿職人の祖父を持つ宮田宣也さん(32)が、全国そして世界各地の祭りで神輿を担ぎ続けている姿を追ったドキュメンタリー作品です。
そして、彼は私の大学の同級生でもあります。
監督のイノマタトシさんは2016年夏、日本各地の「職人」の姿を作品にするための取材の中で、宮田さんに出会ったそうです。
「『神輿職人だったおじいちゃん』『東日本大震災』『衰退していく神輿文化に対するムーブメント』……彼のストーリーがおもしろくて」と、イノマタさん。宮田さんの映画を撮ることを決めました。
当初は、宮田さんの祖父がつくった神輿がベルリンの移民祭でも上がるというストーリーを軸に、半年ほどの撮影期間を予定していたといいます。
しかし、撮影を続けるうちに、「宮田宣也の周りに若者が集まってきて、日本を元気にするようなムーブメントになりつつあるということに気づいた」そうです。
「彼に関わる人を取材するうちに、群像劇にになっていった」と、気づけば撮影期間は2年半に及んでいました。
宮田さんは大学院生だった2011年、東日本大震災の被災地にボランティアに行ったことをきっかけに、どっぷりと神輿の世界にはまっていきます。
それまでは、ほぼ無縁だった神輿。
しかし、被災地で祭りを復活させるための神輿を、神輿職人の祖父の力を借りながらつくったことで、宮田さんは少しずつ神輿、そして祭りの魅力にとりつかれていきます。
イノマタさんは、「彼は最初はただ祭りが好きで、おじいちゃんが好きで……という青年だったけど、東日本大震災がきっかけで、祭りや神輿に社会的な意味を見いだしていったのではないか」と話します。
映画でも、宮田さんは東日本大震災以前の自分は「孤独だった」と話しています。
「孤独で、閉塞感を感じていた彼がなんだかわからないけど被災地に行き、ボランティアをし、そして祭りに関わることになった。そして、被災者たちが『祭りというより祈りに近い』という感想を話したりするのを聞く中で、新しい復興の形が神輿を通して見えたのだと思う」(イノマタさん)。
宮田さんは今も被災地の祭りに神輿を担ぎに行くなど、被災地との関わりを続けているそうです。
映画では、宮田さんを慕い、彼と同じように祭りに魅了されていく仲間たちがたくさん登場します。
宮田さんと一緒に神輿を担いだことで故郷スロベニアでも神輿を上げた留学生、神輿をテーマにした卒業論文を書き大学を卒業した弟子の女性、宮田さんとともに東北の神輿の修復に携わったことで、海外でも一緒に神輿をあげるようになった彫刻師――。
イノマタさんは「一人一人はいろんな考え方や個性を持っているけど、神輿は一人じゃあげられないから、神輿をあげるときはひとつにつながる。それがおもしろい」と話します。
「『神輿バカ』がちょっと社会を変えているんです」
映画の最後、宮田さんがインタビュアーに「神輿以外にやりたいことは?」と問われ「神輿以外特にないっすね」と語る場面がおさめられています。
「本当はあの言葉の前後に、『神輿をやっていればうまいものも食えるし、いろんな人に出会える。神輿やっているだけで充実している』という話をしてくれていました」とイノマタさん。
「宮田さんにとっての神輿は、僕にとっての映像。ひとつのことを極めるという意味では同じなんです」
映画を通じて「宮田さんにとっての神輿は、あなたにとってのなんですか」という問いを投げかけています。
宮田さんは映画公開にあたり、以下のようなコメントを寄せています。
「祭の本質を探求して、その力でこの時代を乗り切る方法を見つけられる。この映画を通じて僕の挑戦を見ていただき、共に考えるきっかけになれば幸いです」
イノマタさんは取材で、「宮田宣也の周りに若者が集まってきて、日本を元気にするようなムーブメントになりつつあるということに気づいた」と話してくれました。
以前、宮田さんを取材した時のこと。
当日はあいにくの大雨でしたが、彼は、引き連れてきた「祭り仲間」、そして地元の方々と共に神輿をあげ、町を練り歩きました。沿道には多くの人たちが訪れ、声をかけたり拍手をしたり。
地元の人たちの喜ぶ人たちの顔を見て、宮田さんと「巻き込まれた仲間たち」によって起きる「元気にするムーブメント」を感じました。
人手不足により廃れてしまう祭りも少なくないと聞きます。そんな中、場所を問わず、呼ばれた祭りを全力で盛り上げる宮田さんたちのような存在は、地方の活力になり、祭り文化を守っています。
「孤独で、閉塞感を感じていた」若者から「お祭り男」になった宮田さん。
一見、行動力のある特別な人のよう見えますが、そこには、今の時代ならではの動きがあるようにも感じます。
祭りでつながった人たちには、時に「しがらみ」と受け止められがちな古い人間関係とはちょっと違う風通しの良さがありました。
自分たちで生み出す「ほどよいつながり」。「お祭り男」宮田さんは、そんな新しい価値を生み出しているのかもしれません。
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