連載
#32 夜廻り猫
「明日、息子が家を出るんだ」父のバター干し芋 夜廻り猫が描く門出
「つらいことの後には幸せがくる」。そう言って送り出してくれた父親。自分も息子を送り出す立場になった男性が感じたのは……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「門出」を描きました。
きょうも街を夜廻り中の猫の遠藤平蔵は、キッチンに立つ男性に声をかけます。
「もし そこなおまいさん泣いておるな?心で どうした?」
男性は、自分が18歳で家を出たときの思い出を振り返ります。
硬くなった干し芋をバターで焼いてくれた父は、「人生は捨てたもんじゃない。つらいことの後には幸せがくる」と言って送り出してくれました。
あれから数十年、男性もだんだんとそう感じるようになっていきました。
明くる日は、自分の息子が旅立つ日。男性は「苦労しないわけがない だから俺もバター干し芋とあの意見で送り出そうかと」と笑います。
遠藤たちも、新しい門出を迎える人たちに「どうか幸せに」とエールを送るのでした。
都内に住む作者の深谷かほるさんは、近所の不動産屋さんで何気なく物件の貼り紙を見ていたそうです。
「やはり家賃の相場は1畳1万円だな……」と思っていたところ、まだ子どものような金髪の若者が中へ入って行きました。
「この辺で、アパート探してるんですけど」
「予算はいくら?」
「2万円です」
そのやりとりを聞いて、「……そうか! がんばれ! いいご縁がありますように!」と心の中で叫んだそうです。
春から新しい生活を始める人たちにも、希望の未来がありますように。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。単行本5巻(講談社)が4月23日に発売予定。
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