連載
#5 教えて!マニアさん
「サザエさんじゃんけん」戦いを挑み続ける男 27年の研究、勝率は
さ~て、今週のサザエさんじゃんけんは!?
1969年10月5日に放送が始まり、49年以上続く国民的アニメ「サザエさん」。そして定番なのが、次回予告の後にある「じゃんけん」のコーナーです。「じゃんけんぽん!」のかけ声とともに、サザエさんが出す「グー・チョキ・パー」のパネルに応戦したことがある人は多いのではないでしょうか。実は、1991年にこのコーナーが始まってから27年間、サザエさんの出す手を分析し続ける男性がいます。一体、どうしてなのでしょうか。
イベント自体はさまざまなメディアが集まっており、テレビクルーたちが数人で出展団体を取り囲むなか、単身で取材していた私はおどおどしながら会場を回っていました。高木さんのブースは正直、他のブースとはまた異なる「沈黙」の空気をまとっていたため、やや近寄りがたく、5回程度は素通りしました。
勇気をふりしぼって話しかけてみると、販売していたのは、これまでの「じゃんけん」データを蓄積し、まとめた「研究報告」。聞くと27年かけた研究成果をたったの200円で売っているといいます。
中身を読むと、これまでの1,371回分の戦績や出る手の傾向分析、特定の条件下で起こるパターンなど、事細かにまとめられていました。しかも、2018年の勝率は80.5%(引き分けを除く)。「ちょっと強い」なんてもんじゃない、すさまじい高さです。
この人は一体何者なのだろうか、「サザエさん」のなにがこの人を突き動かしているのか、もっと詳しく話を聞きたくなりました。後日、改めて「一緒にサザエさんを見てください」と取材を申し込みました。すると間もなく、快諾の返信が。とある日曜日、弊社で取材をすることになりました。
そして、その日がやって来ました。
野口
高木さん
やっぱり、寡黙な感じはするけど、弊社まで来てくれるくらいだから、きっと優しい方のはず……。全然関係ないですけど、「これが入館証です」と手渡したら、「ゲストカードですね」とちょっとかっこよく言い直されて、「次からは『ゲストカード』って言おう」と心に決めました。
さて、昨年は80.5%の勝率を上げている高木さんですが、「サザエさんじゃんけん」の分析手法とはどのようなものなのでしょうか。
高木さん
たとえば、2019年2月版の「サザエさんじゃんけん白書」によると、前々回が「グー」、前回の手が「グー」の場合、その次週に「グー」が出たのは0回、チョキが出たのは4回、パーが出たのは5回です(2016年1月以降の傾向)。ここから、サザエさんが出す手を予想し、勝てるように自分の手を決めます。
野口
高木さん
野口
高木さん
高木さん
野口
高木さん
そもそも、高木さんはどうして「サザエさんじゃんけん」に挑もうと思ったのでしょうか。そしてなぜ27年間も続けているのでしょうか。
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
野口
高木さん
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
高木さん
野口
高木さん
野口
野口
高木さん
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
ちなみに、高木さんの平日の姿はIT関連会社に勤める会社員。サザエさんが放送される日曜日は、買い物などをして過ごすそう。でも、必ず18時半に間に合うよう自宅に帰宅するといいます。
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
サザエさんが始まるまで少し時間があったので、高木さんにサザエさんの豆知識をいくつか教えていただきました。
ちなみに、高木さんに「サザエさんの好きなところはどんなところですか?」と聞くと、「何人かいる脚本家の方の個性が、それぞれストーリーに出ていて面白い」と言われました。なかでも一番好きな脚本家は、ベテランの雪室俊一さんという方だそうです。もう、キャラクターとかじゃないんだ……。
だんだん放送開始の18時半が近づいてきました。高木さんはパソコンで予想と自分の出す手を宣言するツイートの準備を始めます。この日、高木さんが予想したサザエさんの手は「グーまたはパー」。負けないために、高木さんは「パー」を出すことに決めました。
野口
高木さん
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
サザエさんは前々回にチョキ、前回にチョキを出しました。2016年以降の実績ではチョキ→チョキの次に出た手はグー6回、チョキ0回、パー6回であるため、グーまたはパーが出る可能性が高いと予想して自分の手はパーにします。また、次回予告担当の予想はタラオです。
— ΗΚΝ@サザエさんじゃんけん研究所 (@jq1hkn) 2019年3月10日
そして、18時半。おなじみの「サザエでございまーす!」のかけ声で放送が始まりました。
「あれが雪室さんですよ」と指を差すのは、1話目のタイトル映像。確かに、脚本として雪室さんの名前があります。高木さんは「ずっとサザエさんの脚本をやられている方なんで……」と感慨深げ。聞くと、雪室さんが脚本を担当するときだけ登場する、原作にはないオリジナルキャラクター「堀川くん」が不思議な性格で、すごく好きなのだそうです。
これは邪魔してはいけないと思い、私も黙ってテレビを見つめます。高木さんと2人で「サザエさん」を見る。普段はせわしない新聞社ですが、私たちの周りにはゆったりとした和やかな空気が流れます。
高木さん
話の展開に、高木さんからも思わず笑みがこぼれます。その声に反応して高木さんを見て気づきました。
やっぱりこれが国民的アニメのすごさです。見ていると、自然と顔がほころぶ。マニアフェスタでお会いしたときに近寄りがたかった高木さんとの距離が、ぐっと近付いた気がしました。
そうこうしているうちに、3話目も終わり、次回予告が始まります。和やかだった空気は一変、緊張が高まります。高木さんが出すと決めたのは、「パー」。一体、どうなる……。
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
野口
これが、高木さんにとっての1,375回目の「サザエさんじゃんけん」でした。2019年の戦績は、6勝3敗1引き分けで、勝率66.6%(2019年3月10日時点、引き分けを除く)となりました。
野口
高木さん
野口
高木さん
高木さん
野口
高木さん
野口
高木さん
高木さん
野口
「一生、やり続けることは決めている」ーー、これからのことを聞くと、高木さんはそう答えました。「サザエさんじゃんけん」にかける高木さんの情熱とストイックさ、そして何よりも27年間続けるという信念。ひとつのものを極めるということが、こんなにもかっこいいものなのだと感じました。
最後に、少し距離が縮まった高木さんに、ひとつお願いをしてみました。
野口
高木さん
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