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2019年03月17日

「サザエさんじゃんけん」戦いを挑み続ける男 27年の研究、勝率は


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「サザエさんじゃんけん」を27年間研究し続けている高木さん

「サザエさんじゃんけん」を27年間研究し続けている高木さん

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1969年10月5日に放送が始まり、49年以上続く国民的アニメ「サザエさん」。そして定番なのが、次回予告の後にある「じゃんけん」のコーナーです。「じゃんけんぽん!」のかけ声とともに、サザエさんが出す「グー・チョキ・パー」のパネルに応戦したことがある人は多いのではないでしょうか。実は、1991年にこのコーナーが始まってから27年間、サザエさんの出す手を分析し続ける男性がいます。一体、どうしてなのでしょうか。

福岡市早良区の西新商店街連合会が持つ「サザエさん」関連の着ぐるみ=2015年

福岡市早良区の西新商店街連合会が持つ「サザエさん」関連の着ぐるみ=2015年

出典: 朝日新聞

売り物は「研究報告」

その男性に出会ったのは、2月中旬に行われたイベント「マニアフェスタ」(別視点運営)。鮮やかなブースが並ぶなか、とりわけ簡素なそのブースに目が行きました。それが「サザエさんじゃんけん研究所」の「所長」という高木啓之さん(51歳)との出会いでした。

「サザエさんじゃんけん研究所」として出店していた高木さん

「サザエさんじゃんけん研究所」として出店していた高木さん

出典:マニアフェスタで会った強者たち 顔ハメ姿を後ろから撮るマニア

イベント自体はさまざまなメディアが集まっており、テレビクルーたちが数人で出展団体を取り囲むなか、単身で取材していた私はおどおどしながら会場を回っていました。高木さんのブースは正直、他のブースとはまた異なる「沈黙」の空気をまとっていたため、やや近寄りがたく、5回程度は素通りしました。

勇気をふりしぼって話しかけてみると、販売していたのは、これまでの「じゃんけん」データを蓄積し、まとめた「研究報告」。聞くと27年かけた研究成果をたったの200円で売っているといいます。

高木さんが販売していた「サザエさんじゃんけん白書」

高木さんが販売していた「サザエさんじゃんけん白書」

中身を読むと、これまでの1,371回分の戦績や出る手の傾向分析、特定の条件下で起こるパターンなど、事細かにまとめられていました。しかも、2018年の勝率は80.5%(引き分けを除く)。「ちょっと強い」なんてもんじゃない、すさまじい高さです。

この人は一体何者なのだろうか、「サザエさん」のなにがこの人を突き動かしているのか、もっと詳しく話を聞きたくなりました。後日、改めて「一緒にサザエさんを見てください」と取材を申し込みました。すると間もなく、快諾の返信が。とある日曜日、弊社で取材をすることになりました。



そして、その日がやって来ました。

弊社まで来てくれた高木さん

弊社まで来てくれた高木さん

 

野口

今日はよろしくお願いします

 

高木さん

よろしくお願いします

やっぱり、寡黙な感じはするけど、弊社まで来てくれるくらいだから、きっと優しい方のはず……。全然関係ないですけど、「これが入館証です」と手渡したら、「ゲストカードですね」とちょっとかっこよく言い直されて、「次からは『ゲストカード』って言おう」と心に決めました。

じゃんけんの攻略法とは

さて、昨年は80.5%の勝率を上げている高木さんですが、「サザエさんじゃんけん」の分析手法とはどのようなものなのでしょうか。

 

高木さん

サザエさんが出した直前2回分の手と、蓄積したデータを照らし合わせて、最も出やすい手を予想しています

たとえば、2019年2月版の「サザエさんじゃんけん白書」によると、前々回が「グー」、前回の手が「グー」の場合、その次週に「グー」が出たのは0回、チョキが出たのは4回、パーが出たのは5回です(2016年1月以降の傾向)。ここから、サザエさんが出す手を予想し、勝てるように自分の手を決めます。

過去2回分の手から次の手を予想する(イラストはいらすとやより)

過去2回分の手から次の手を予想する(イラストはいらすとやより)

出典: 「2019年2月版サザエさんじゃんけん白書」のデータ

 

野口

もしも2つの手が出る確率が同じくらいだったらどうするんですか?

 

高木さん

その場合は、確実に「負けない手」を選びます

 

野口

負けない、とは?

 

高木さん

たとえば「グー」→「グー」の場合、次も「グー」の確率は極めて低いため、次のサザエさんの手は「パー」か「チョキ」にしぼられます

 

高木さん

もしサザエさんが「チョキ」を出すと予想し、自分が「グー」を出した場合、もうひとつの候補の「パー」が出ると負けてしまいます。なので、勝てなくても「引き分け」にできる「チョキ」を出します

最も有利な手を出すという(イラストはいらすとやより)

最も有利な手を出すという(イラストはいらすとやより)

 

野口

おおお、なるほど、そうすれば「負けることはない」ですね……!

 

高木さん

こういった「思考の余地」があるのが、面白さでもあります

パソコン通信のあの時代……

そもそも、高木さんはどうして「サザエさんじゃんけん」に挑もうと思ったのでしょうか。そしてなぜ27年間も続けているのでしょうか。

 

野口

研究を始めたきっかけはなんだったんですか?

 

高木さん

「サザエさん」の次回予告の後のコーナーとして、「じゃんけん」が始まったのは1991年のこと。当時「パソコン通信」の時代で、アニメのファンが集まる掲示版があり、突然始まった「じゃんけん」が話題になっていました。

 

野口

現在であれば、Twitterで盛り上がりそうですね

 

高木さん

私もその掲示版で普段から書き込みをしていたのですが、常連たちの中で、誰が一番サザエさんのじゃんけんに勝てるか、競争が始まったんです

 

野口

サザエさんというか、常連たちとの戦いだったんですね……!

「サザエさんじゃんけん」は攻略可能なのか

「サザエさんじゃんけん」のデータ蓄積は1991年11月10日から始まっている。ちなみにサザエさんじゃんけんが始まったのは1991年10月20日だが、最初の3回の手は掲示版のログが残っておらず、「不明」らしい。

「サザエさんじゃんけん」のデータ蓄積は1991年11月10日から始まっている。ちなみにサザエさんじゃんけんが始まったのは1991年10月20日だが、最初の3回の手は掲示版のログが残っておらず、「不明」らしい。

出典: 「2019年2月版サザエさんじゃんけん白書」より

 

野口

その「サザエさんじゃんけん」の乱は、どんな戦況だったのでしょうか

 

高木さん

他の人がどう予想していたかは詳しくはわからないですが、例えばAさんが「グーを出す」と言えば、別のBさんは「パーを出す」と言う。駆け引きの要素が強かったと思います

 

高木さん

そこで私は、サザエさんの傾向を調べたら勝率を上げられるんじゃないかと考えました

 

野口

頭脳派!!!

 

高木さん

でも、考えてみてください。仮にサザエさんの出す「手」がサイコロで決められているとすると、予想はできません

 

野口

どういうことですか?

 

高木さん

完全なランダムだからです。それぞれの「手」が出る回数や前後の「手」の関係はまったくないので、傾向を分析しようがないのです

 

野口

ああ~、毎回すべての手が出る割合が「1/3」になっちゃうんですね

 

高木さん

ですので、まずは「サザエさんじゃんけん」が攻略可能なものなのかどうかを検証しました

27年前「まずは、じゃんけんが攻略可能なものなのか考えた」という高木さん

27年前「まずは、じゃんけんが攻略可能なものなのか考えた」という高木さん

 

野口

前提条件を疑う、この人「研究者」や……

 

高木さん

完全なランダムの場合、サンプル数が多ければ多いほど、それぞれの「手」が同じ回数に近付いていくはずです。でもデータをとり続けていると、どうやら偏りがありそうだ、ということがわかってきました

 

高木さん

恐らく人間が決めていて、その人の「クセ」がじゃんけんの「手」に出ているということですね

 

野口

おお、これは攻略しがいがありますね! ちなみに、そこまでどれくらいかかったのでしょうか?

 

高木さん

10カ月くらいですかね……

 

野口

子どもがひとり生まれてしまう

何でどうしてそこまで「じゃんけん」

 

野口

掲示版での競争は、どうなったのでしょうか

 

高木さん

しばらくは続いていたのですが、次第にパソコン通信が下火になっていくにつれ、だんだんなくなっていきました

 

高木さん

パソコン通信は会員制で、常連同士は認識できていました。でも、インターネットに移行すると、前週に書き込んでいる人が今週と同じ人なのか、わからなくなってしまったんです

 

野口

なるほど、パソコン通信の衰退とともに競争は収まっていったんですね

 

高木さん

そうして、私ひとりだけが残ったんです

「ひとりだけ残ってしまった」という高木さん

「ひとりだけ残ってしまった」という高木さん

 

野口

そんな……ひとりになっても、どうして研究を続けるんですか?

 

高木さん

うーん、そうですねぇ……

 

野口

「サザエさんじゃんけん」をより多くの人に広めたいとか?

 

高木さん

いや、そんな大そうなことは考えてないです

 

野口

じゃんけんでもらえるプレゼント(※)に応募したいとか?
※サザエさんではデータ放送画面で、自分の出す手を登録すると、勝敗によってスタンプがもらえる。スタンプを集めると、プレゼントに応募するためのキーワードが表示される。

 

高木さん

いえ、応募しません。個人情報を渡すことなるので

 

野口

やめようと思ったことは?

 

高木さん

一度もないです

 

野口

じゃあ、どうして……

 

高木さん

途中で中断してしまうと、たとえ再開したとしてもその間のデータはもう取り戻せません。データとしての完全性を保ち続けることが重要なのです

 

野口

ストイックの権化

ちなみに、高木さんの平日の姿はIT関連会社に勤める会社員。サザエさんが放送される日曜日は、買い物などをして過ごすそう。でも、必ず18時半に間に合うよう自宅に帰宅するといいます。

 

野口

どうしても外せない用事とかが日曜日に入った場合はどうするんですか?

 

高木さん

スマホに搭載されているワンセグで見ます。それでも見られない場合は録画対応になりますが、必ずサザエさんの出す手の予想と自分が出す手はあらかじめTwiterで宣言しておきます

 

野口

さすがにズルは疑わないと思いますが……

 

高木さん

まあ、エビデンスになりますので

 

野口

ちなみに、日曜日の夜に飲み会に誘われたらどうします?

 

高木さん

行きます

 

野口

(割とフットワーク軽めだ……!)

 

高木さん

でも、Twitterで先に出す手を宣言します

 

野口

(すごい執念だ……!!!)

クールの初回はだいたい「チョキ」

サザエさんが始まるまで少し時間があったので、高木さんにサザエさんの豆知識をいくつか教えていただきました。

・クールの初回(1月、4月、7月、10月の初回)はほとんど「チョキ」を出す。
・サザエさんの隣には、現在は伊佐坂先生一家が住んでいるが、以前は浜さんという一家が住んでおり、その前は”外見の違う”伊佐坂さん宅だった。
・過去にはサザエさんを週2回放送していた時期があり、うち1回は過去回の再放送だったため、同じ週の放送でも隣人が違うという状態になっていた。
・一時期ネットで「サザエさんの最終回」とされる画像が出回ったが、ガセ(原作には特別な最終回はない)。
・2018年4月のスポンサー交代でCMの尺が変わり、1話あたり8秒短くなっている。

ちなみに、高木さんに「サザエさんの好きなところはどんなところですか?」と聞くと、「何人かいる脚本家の方の個性が、それぞれストーリーに出ていて面白い」と言われました。なかでも一番好きな脚本家は、ベテランの雪室俊一さんという方だそうです。もう、キャラクターとかじゃないんだ……。

いよいよ放送開始

だんだん放送開始の18時半が近づいてきました。高木さんはパソコンで予想と自分の出す手を宣言するツイートの準備を始めます。この日、高木さんが予想したサザエさんの手は「グーまたはパー」。負けないために、高木さんは「パー」を出すことに決めました。

ツイートの準備をして……

ツイートの準備をして……

ひたすら待機

ひたすら待機

 

野口

いつも放送のときって何を考えているんですか?

 

高木さん

放送前はツイートしたり、放送中もおもしろいことがあると実況したりしているので、他のことを考える余裕はないですね

 

高木さん

あと、やはり「じゃんけん」の時間が近付くにつれて緊張が高まってきますね

 

野口

27年間やっていても、緊張するんですね

 

高木さん

実際にこの目で見るまでは不確定なものですから

 

野口

緊張感を毎週味わっているなんて、刺激的ですね

 

高木さん

Twitterで宣言した私の予想をもとに、出す手を決めている人もいるようなので、結構責任重大なんですよ

 

野口

高木さん……

 

高木さん

なんですか?

 

野口

出す手、変えてもいいですよ

 

高木さん

変えません



出典:高木さんが所長を務める「サザエさんじゃんけん研究所」のTwitter。特に何もなければ18時半の放送開始とともに、予想と自分の出す手を宣言する

そして戦いの火ぶたは切られた

そして、18時半。おなじみの「サザエでございまーす!」のかけ声で放送が始まりました。

険しい表情で見守る高木さん

険しい表情で見守る高木さん

「あれが雪室さんですよ」と指を差すのは、1話目のタイトル映像。確かに、脚本として雪室さんの名前があります。高木さんは「ずっとサザエさんの脚本をやられている方なんで……」と感慨深げ。聞くと、雪室さんが脚本を担当するときだけ登場する、原作にはないオリジナルキャラクター「堀川くん」が不思議な性格で、すごく好きなのだそうです。

これは邪魔してはいけないと思い、私も黙ってテレビを見つめます。高木さんと2人で「サザエさん」を見る。普段はせわしない新聞社ですが、私たちの周りにはゆったりとした和やかな空気が流れます。

 

高木さん

ふふっ

話の展開に、高木さんからも思わず笑みがこぼれます。その声に反応して高木さんを見て気づきました。


めちゃくちゃやさしい顔になってる




やっぱりこれが国民的アニメのすごさです。見ていると、自然と顔がほころぶ。マニアフェスタでお会いしたときに近寄りがたかった高木さんとの距離が、ぐっと近付いた気がしました。

そうこうしているうちに、3話目も終わり、次回予告が始まります。和やかだった空気は一変、緊張が高まります。高木さんが出すと決めたのは、「パー」。一体、どうなる……。




「じゃん」






「けん」






「ぽん!」

自分の手は出さないスタイル!






 

高木さん

サザエさんが出した手は「グー」です

そして安心の指さし確認!






 

野口

こ、これは……

 

高木さん

私の勝ちです

 

野口

おめでとうございます!

 

高木さん

ありがとうございます

 

野口

勝者としてコメントをいただけますか

 

高木さん

今回の予想の難度はそこまで高くなかったので、まず負けないだろうと思っていました

 

野口

さすがの手練れ感です

これが、高木さんにとっての1,375回目の「サザエさんじゃんけん」でした。2019年の戦績は、6勝3敗1引き分けで、勝率66.6%(2019年3月10日時点、引き分けを除く)となりました。

「負けることにも意味がある」

 

野口

負けたときって、気分が落ち込むこともあるんですか?

 

高木さん

いえ、負けることにも意味がありますので

 

野口

どういうことですか?

 

高木さん

「サザエさんじゃんけん」の傾向は、これまで何度か変わっています。これまでのデータをもとにやり続けても、勝率が下がってくるんです

 

高木さん

そうなると、傾向が本当に変わっているかの検証と、傾向が変わった時期の特定、そして再度データの取り直しが始まります

 

野口

ちなみに「傾向の変化」というのは……?

 

高木さん

おそらくですが、「サザエさんじゃんけん」を考えている担当者が変わっています

 

野口

人事異動までまるわかりだ!

 

高木さん

なので、負けることで傾向の変化にも気づきやすくなります

 

高木さん

「負け」は未来の「勝ち」につながっているんです

 

野口

これを聞くために、今日ここに来た気がする……

「一生、やり続けることは決めている」ーー、これからのことを聞くと、高木さんはそう答えました。「サザエさんじゃんけん」にかける高木さんの情熱とストイックさ、そして何よりも27年間続けるという信念。ひとつのものを極めるということが、こんなにもかっこいいものなのだと感じました。



最後に、少し距離が縮まった高木さんに、ひとつお願いをしてみました。






 

野口

高木さん、じゃんけんしませんか?

 

高木さん

いいですよ





「じゃーんけーん!」





「ぽん!」

勝った




※高木さんが研究しているのは、あくまで「サザエさんじゃんけん」の「中の人」の傾向なので、平場だと普通に負けます。


高木さんは、今週も「サザエさんじゃんけん」を予想しています。詳しくは、高木さんが「所長」を務める「サザエさんじゃんけん研究所」のTwitterか、研究所の公式ウェブサイトまで。

高木さん、本当にありがとうございました!

さ~て今週のサザエさんじゃんけんは!? 結果が見逃せません!

 

withnewsでは、平成が終わりを迎えるにあたって、平成を象徴しているのに普段は忘れられがちなアイテムや出来事を「平成B面史」と名付けました。みなさんの中で「そういえば……」とひらめいたものをハッシュタグ「#平成B面」をつけてツイートしてくれませんか? 編集部が保存に向けた取材にかかります。

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