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「チームラボ」猪子寿之が語る故郷 「阿波踊り」から生まれた作品
徳島市出身でアート集団「チームラボ」代表の猪子寿之さん(41)は、今も阿波踊りに毎年、来ているそうです。テクノロジーの最前線に立ちながら「近代以前の何か」にこだわる理由とは? デジタルでのアートの分野を切り開き、常設展示施設に約250万人の来場者を集めるパイオニアに、故郷への思い、次の時代に目指すものを聞きました。(朝日新聞徳島総局記者・佐藤常敬)
いろんな境界がなくなる世界をめざした。作品と自分の境界があいまいになっていく体験を通して、世界との境界を考え直したり、他者との連続性を感じたりするきっかけになる。
世界は本来、連続性の上で成り立っている。もともと世界には境界はない。連続性の上で成り立っている世界を作りたかった。
「ボーダレス」はこの世界が境界なく存在している世界で、作品が境界なく存在している世界を作りたかった。
「プラネッツ」では、はだしとなって、超巨大な作品空間に、他者と共に、身体ごと、圧倒的に没入する。身体と作品との境界を曖昧にし、自分と世界との境界の認識を揺るがす。水の作品に身体ごと入って、自分は世界の一部で、世界は自分の一部なんだと感じる。そういう体験を作りたかった。
「阿波踊り」は非常にプリミティブな踊り祭りだ。各自がおのおの踊る集団を作り、集団で楽器を奏でて街中で勝手に踊り歩く。各集団は好きなように奏でながら、好きなように踊り歩くのだが、なぜか街全体で音楽に調和が生まれている。
「秩序がなくともピースは成り立つ」は、徳島市中心部で生まれ、阿波踊りの中で育った自分が阿波踊りを通して感じたことや考えたことをチームで作品にした。
また、徳島市は、吉野川に育まれ、138もの川が流れる水の都であり、町の中心には「原生林」がある。この二つは他の街にない特長だと思う。
地方には素晴らしい地理的特性を持つ場所、歴史的背景を持つ場所、特異な文化を残す場所が多数ある。それらは深く知れば魅力的である一方、海外の人には少しわかりにくかったり、現代には少し退屈だったりする側面もある。
しかし、その場所の特性を生かし、新たな価値を付加し拡張することができたら、大都市にはない魅力的なスポットになりうるポテンシャルを持つと考えている。
「ボーダレス」と「プラネッツ」には、すでに約250万人が来てくれている。昨年、実施したアンケートでは来場者の4割が外国人。そのうち、半分がチームラボの作品を見るために日本に来てくれていることが分かった。世界中、国を問わず多くの人が興味を持ってくれている。
もっともっと世界中でいろんな展覧会を開き、「ボーダレス」のようなデジタルアートの美術館を作りたい。国内でも、九州・武雄温泉の大庭園「御船山楽園」で続けてきた展示会には14万人を超える人が来てくれるようになった。18年は四国の徳島や高知でも作品を展示する機会があった。地方での活動も継続していきたい。
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猪子寿之(いのこ・としゆき)徳島市出身。2001年東京大学工学部卒業と同時にチームラボ設立。チームラボは、アートコレクティブ。集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、デザイン、そして自然界の交差点を模索している、学際的なウルトラテクノロジスト集団。