連載
#21 「見た目問題」どう向き合う?
23歳、124センチ。「小人症」の私は踊る。見せ物だっていいじゃない
身長124センチ。ちびもえこさん(23)は7歳児の平均とほぼ同じ背の高さです。「私は子どもではなく、小人(こびと)症です」と訴えています。極端に背が低いため、ジロジロ見られたり、日常生活に困ったりすることはありますが、「かわいそうとは思ってほしくない」と話します。スタイリストになる夢を追いかけ岩手から上京したものの、挫折を体験。いまは、ダンサーとして小さな体を生かした表現に挑んでいます。
マリリン・モンローの妖艶(ようえん)な曲が響き渡る中、セクシーなドレスを身にまとった、ちびもえこさんが登場すると、会場がわきました。2月中旬、東京都渋谷区の「KAWAII MONSNTER CAFE」。大きなケーキ形のピンク色の舞台の上で、ちびもえこさんは踊りながら腰をくねらせ、ドレスを大胆に脱いでいきました。
ちびもえこさんは、ここで月に1度「小人バーレスクダンサー」として活躍しています。「背が低いことは私にとって、ダンサーとしての強みになっています。登場するだけで、会場がわっとなってくれるので」と言います。
ちびもえこさんは、軟骨無形成症という骨の異常を抱えて生まれました。
「見た目の特徴としては、座高は健常者とあまり変わりませんが、手足が伸びません。足はO脚でお尻と太ももが大きく、腰が後ろにそっています。突然変異とされていて、根本的な治療法は見つかっていません」
低身長の原因の大半は、親の背が低いといった遺伝を含む本人の体質によるものです。ただ一部には、ちびもえこさんのように病気が原因で極端に背が低くなる人がいます。かつては小人症と呼ばれることもありました。
虎の門病院小児科の伊藤純子医師によると、その種類も成長ホルモンや甲状腺ホルモンの病気、染色体の異常、骨の病気など様々。ホルモンの分泌不全では不足しているホルモン投与でかなり改善が期待されます。一方で、他の病気ではホルモン治療の効果は限定的だといいます。
ちびもえこさんは背が低いことで、ちょっとだけ、生活で困ることがあると言います。自動販売機や、スーパーやコンビニの棚に手が届かないことがあります。服選びも大変です。
「胴体が大人サイズなので、子ども用は着られません。パンツ選びが大変です。ウエストはMサイズなのに、太ももやお尻はLサイズ。長さは切るか、折り曲げて調整します。靴はキッズサイズです。試着は絶対に必要なので、ネットでは買いません」
「ジロジロ見られることは気になります。顔は大人でこの体形なので、目立つことは仕方ないことですが……。同じ病気の友達と出かけているときに、小さい子に『あの人たち、気持ち悪い』って言われました。今は2人の間で笑い話になっていますが、子どもは悪気がないだけに『とうとう言われちゃったよ!』とグサッときました」
「初対面なのに、ため口でなれなれしく言葉をかけられることがあります。ため口だと距離が縮まるかもしれませんが、『小さいからなめられているのかな』って思ってしまいますよね」
自らの外見が普通とは違うと強く感じたのは、幼稚園のときでした。家族でショッピングセンターに行ったとき、ジロジロと見られました。
「自分の見た目が変なのかなぁ、と感じていました。幼稚園に入ると、周りの子たちと体形が違うので嫌でも意識しました」
学校は楽しく通っていたものの、恋愛は自分とは関係のない話と思うようになりました。
「小学校のときって、好きな子がころころ変わって、割とオープンに話題になるじゃないですか。そういうのを見ていると、男の子が好きな女性の顔や体形がわかってくる中で、私はそういう中には含まれないって感じていました」
中学校では、テニス部に。岩手県盛岡市の大会で、あと1勝すれば県大会に手が届くところまで勝ち進みました。
「親から『小人症だから運動は無理だろうから、勉強を頑張りなさい』と言われていました。私が劣等感をもたないようにという親なりの考えだったと思います。でも、『私だって運動できるんだ』ということを示したかった。やっぱり足は遅いし、手も短いので、テニスで不利と言えば不利でしたが、毎日3~4時間練習し、上達しました」
将来はスタイリストになりたいと思い、ファッションコースのある高校に進学。卒業後は、夢をかなえるために、東京の専門学校へ。上京3年後、厳しい現実に直面しました。
「自分の体形にあう服がなくて、これも着られない、あれも着られないという現実にストレスを感じていました。そんな中で、自分以外の人に、素敵な服を着せる側に回れば、自分が着飾るのと同じくらい楽しめるかなと思いました」
「専門学校の卒業が近くなり、まずはプロのスタイリストのアシスタントになろうと考えましたが、体が小さいことが壁になりました。たとえば、アシスタントとして、キャリーバッグ2台に、もう一つ大きなバッグをもつことができるかといえば無理でした」
結局、何も決まらないまま専門学校を卒業。どうしていいのかわからず月日が過ぎる中、ある日、インスタグラムで、「スタイリスト募集」という情報を見つけました。応募すると、人生を変える出会いがありました。
「アルバイトで、ミュージックPV撮影のためのスタイリストを務めました。その募集をかけていたのが、ポールダンサーや身体の一部が欠損している人などをキャスティングする会社の人でした。『小人だ!』と興味を持ったそうです。この出会いがきっかけとなり、ダンサーに挑むことになりました」
数カ月間、ポールダンサーのもとでダンスを特訓。2018年1月に「KAWAII MONSTER CAFE」での初舞台に立ちました。
「私はコンプレックスの塊のような人間で、人前に出るような人間ではないと思っていました。だから体のラインや短くて太い足も、服装で隠してきました。そんな私の踊りを見て、みんな笑顔になってくれました。ダンスをしている瞬間は、『この身体でもいいんだ』と自分を肯定できました。ダンスのおかげで、コンプレックスだった身体を生かす方法があるんだと気づきました」
「こういった体だと、どうしても『かわいそう』って見られがちです。そんなネガティブなイメージを変られるのは当事者しかない。小人でも『こんなこともできるんだぞ、楽しく生きているよ』って、ポジティブな情報を発信したいと考えました」
「美しく妖艶に踊ろうと心がけています。『私は美しいでしょ』って、どや顔です。なのに、体は小人です。このアンバランスさに滑稽さがあると考えています」
かつて、小人プロレスというエンタメがありましたが、「彼らを見せ物にするのは失礼だ」という声があり、衰退しました。こういった風潮に、ちびもえこさんは「負けてほしくない」と同士としてエールを送ります。
「小人プロレスの人たちは自分たちがやりたくてやっているのに、それを不謹慎というのは違うのではないでしょうか。やっぱり、私たちのような存在を表舞台から隠したいんだろうなって思います。嫌なら見なきゃいいだけなのに」
今は、会社の事務職として働きながら、月に1度のペースで、バーレスクダンサーとして活躍するちびもえこさん。インスタでも、積極的に発信しています。
「子どもが低身長で悩んでいる親が、私のインスタを見て、『勇気をもらいました』とメッセージを送ってくれました。私が人生を楽しんでいる姿を見て、少しでも子どもの将来に希望を見いだしてもらえたのなら、うれしいです」
中高生のみなさんを対象に、特徴的な外見のゲスト3人と交流し、見た目について考えるトークイベントを開きます。それぞれのリアルな体験や思いを語ってもらい、前向きに生きるためのヒントを探ります。参加は無料です。
■日程
3月23日(土)14:00~17:00(13:30開場)
■会場
朝日新聞メディアラボ渋谷分室(最寄り駅:JR渋谷駅 徒歩10分)
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目19-21
■定員
30人(事前申し込み制・先着順・高校を今春卒業の方もご参加いただけます)
■ゲスト
単純性血管腫の三橋雅史さん
37歳公務員。顔に大きな赤あざがある。高校生の時は友達がいなくて孤独だった。自転車の旅を転機に前向きになれた
アルビノの神原由佳さん
福祉施設で働く25歳。生まれつき肌や髪の毛が白い。ずっと外見に違和感があったが、少しずつ誇りに思えるようになった
トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん
26歳の筑波大大学院生。小さなあご、垂れ下がった目が特徴。中学時代、引きこもりを経験。小学校などで体験を発信している
■プログラム
・ゲスト3人のトーク
・参加者全員で意見交換&アンケート
■申し込み
朝日新聞社応募フォームより
2019年3月20日(水)23:00締め切りです
■持ち物
筆記用具
■注意事項
※イベント当日は記録用、HP掲載用などのために写真撮影をさせていただきますのでご了承ください
※withnewsのほか、朝日中高生新聞の取材が入ります
※会場までの交通費は自己負担でお願いします
■共催
朝日新聞社withnews/NPO法人マイフェイス・マイスタイル(MFMS)
■協力
朝日中高生新聞
■問い合わせ先
withnews編集部(担当・河原)withnews-support@asahi.com
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