地元
地方都市なのにレコード店多すぎ! 人口29万人の盛岡になぜ密集?
東北の中でも北に位置する盛岡へ赴任して1年が経とうとしています。レコード収集に情熱を注ぐ記者が街の中心部を歩くと、視界にレコード店が頻繁に入ってきます。人口29万人といわゆる「地方都市」の盛岡になぜ、こんなにレコード店が? 経営状況も気になります。店主らに話を聞き、その実情を探りました。
地元
東北の中でも北に位置する盛岡へ赴任して1年が経とうとしています。レコード収集に情熱を注ぐ記者が街の中心部を歩くと、視界にレコード店が頻繁に入ってきます。人口29万人といわゆる「地方都市」の盛岡になぜ、こんなにレコード店が? 経営状況も気になります。店主らに話を聞き、その実情を探りました。
東北の中でも北に位置する盛岡へ赴任して1年が経とうとしています。レコード収集に情熱を注ぐ記者が街の中心部を歩くと、視界にレコード店が頻繁に入ってきます。人口29万人といわゆる「地方都市」の盛岡になぜ、こんなにレコード店が? 経営状況も気になります。店主らに話を聞き、その実情を探りました。(朝日新聞盛岡総局・御船紗子)
奈良出身の記者にとっては、初めての東北での生活。入社2年目で、JR盛岡駅に降り立って最初に持った印象は「かなり落ち着いている」でした。土曜日の昼にもかかわらず駅前の広場は混雑もなく、なんだか記者の生まれ故郷を思わせる落ち着きぶりです。
そんな盛岡ですが、歩いてみると街の随所でレコード店が目にとまります。店に入ってみると、こぢんまりとした店内に所狭しとレコードの詰まった段ボールが並んでいます。いかにも掘り出し物が眠っていそうな雰囲気は、なんだかわくわく。試しに「ロック」のジャンルが集まった箱をのぞいてみると、ビートルズやオアシス、イエスといった有名バンドが次から次へと見つかりました。
思わず、ビーチ・ボーイズのアルバム未収録曲などを収録したコンピレーション盤を買ってしまいました。
楽しさは身をもって理解しましたが、そもそもなぜ盛岡なのでしょうか。
コレクターのバイブルを自称する「レコード+CDマップ2019」(編集工房球)によると、盛岡市内のレコード店は6店舗。同規模の県庁所在地と比べても、人口29万人の福島はゼロ、人口32万人の那覇は2店舗と、盛岡の多さが目立ちます。
盛岡に店を構える6店舗全ての店長に聞いてみたところ、各店舗の光る個性に気付きました。ソウルやクラブ音楽、パンク、ニューウェーブというような得意分野を持っていたり、映画音楽を専門に扱っていたりと「その店ならでは」の品ぞろえがあるのです。一つとして同じような店はありません。
さらに、レコードには「生演奏のように聞こえる」「針を落としてからの間がいい」などの理由から今でも一定数のファンがいます。独自性のある店長と買い支えるファンがいて、今の盛岡のレコード店事情が出来上がったようです。
多いのは分かりましたが、次に気になるのは経営面。最近は音楽配信サービスも浸透し、CDの生産も減少傾向にあります。アナログのレコードは大丈夫なのでしょうか。
「ディスクノートもりおか」(盛岡市大通2丁目)の店長・小原正史さん(47)の場合、大阪や仙台など全国各地で開かれる「レコードフェア」に参加したり、ネットオークションに出品したりして得る収益が全体の多くを占めるのだそう。他にも、高値が付くレア盤で勝負する店、イベントでの音響やレコーディングなど音楽全般の業務に対応する店など、各店が工夫を凝らしていることを教えてくれました。
盛岡に来て驚いたのはレコード店の多さだけではありません。市内で年2回あるというレコードフェアには県外からの出店もあり、会場内にはあらゆるジャンルのレコードが延々と連なっています。多くの人が掘り出し物を求めて集い、盛岡の「音楽都市」としての一面が垣間見える気がします。
記者がレコードを集めるようになったのは学生時代、大好きなバンド「Bring Me The Horizon」がレコードでも楽曲を発表しているのを知ったことがきっかけでした。小学生の頃はCDやMDで、大学生になってからはスマートフォンのアプリで音楽をストリーミングして聞いていましたが、レコードで聞く音楽はなぜか他の媒体で聴くよりも特別に感じました。
針が落ちてから音楽が始まるまでの間や、円盤の回転で微妙に引きずられる音の揺れなどはアナログならでは。「不便」と言ってしまえばそれまでですが、音楽を聞く前後でレコードや再生機の手入れをする時間は心がゆったりと落ち着いて、いつもより深く音楽を楽しめる気がします。
レコードを物色することを「掘る」という意味の英語「dig」にかけて「ディグる」と言うそうです。1枚1枚えり分けて探すしぐさが穴を掘る動きに似ているからだとか。いかにも若者言葉な語感ではありますが、探し求める1枚に出会うため妥協しないレコードファンの姿勢には、まさに「音楽の山を掘り進む」という表現がぴったり。
盛岡の街はディグり放題の、音楽ファンに優しい街なのかもしれません。
1/8枚