連載
#6 東日本大震災8年
エアコン付き体育館、もう一つの「使い道」首都圏で本気の取り組み
東京都内の公立学校で、エアコン付き体育館が急増しそうだ。都教育委員会のまとめでは、エアコンのある体育館は全体の9%で、33区市町村はゼロというのが現状のため、都が新たに設置費用補助の案を決めた。近年の猛暑対策に加え、公立学校の体育館が大規模災害時の避難所となる場合が多いためだ。
「猛烈な暑さで子供の健康が損なわれることのないよう、環境整備をしっかりと進めたい」。小池百合子知事は昨年11月の記者会見で、エアコン設置を急ぐ方針を示した。2021年度までに外郭団体を通じて538棟分のエアコン設置費を区市町村に補助する考え。18年度の補正予算案にこの経費約81億円を計上した。
ここ数年、夏には連日の猛暑が続き、熱中症患者が急増しているため、2020東京五輪・パラリンピックでも暑さ対策の実施が急務となっている。
23区のある区長は「その足元の東京で、子どもらが学ぶ施設の暑さ対策が進んでおらず、健康被害の可能性も高まっている。子どもたちだけでなく地区住民の大規模災害発生時の安全に備えるためにも、こうした補助の予算化は重要だ」と話す。
都教委によると、公立小中学校の体育館2115棟(武道場など含む)のうちエアコンがあるのは195棟(9.2%)で、全校設置は中央区、文京区、福生市のみ。
普通教室は都内全校の全室で設置済みだが、猛暑だった昨夏、「エアコンのない体育館では終業式を避けて」と異例の通知を出す事態になったこともあり、体育館でも設置を進めることとした。確実に進むよう、区市町村の設置計画を調べて予算規模を決めたという。
補助は、断熱措置や電源整備などの工費も含む経費が対象。都が試算したところ、平均的な広さの体育館では1棟あたり最大約3千万円の補助になるという。
世田谷区は昨年11月、21年度までに約24億3千万円をかけ、区立の全小中90校にエアコンをつける計画を公表した。エアコンのある体育館は今はゼロ。「猛暑で、運動場も体育館もプールも使えない。体育の授業ができない」と区教委の担当者は嘆く。
荒川区も全34校のうちエアコンのない30校で19年度中の設置を検討している。「全校が災害時の避難所で、以前から要望も多い。一気に進めるべき課題」(区教委の担当者)という。
新宿区も昨年11月、20年度までに全校に設置する考えを明かした。調布市や武蔵野市も設置を進める方針を示している。
文京区は全30校のうち、エアコンのなかった24校に16年度から2台ずつリースする形で全校に設置した。2台のリース代が5年間で約700万から800万円と、経費は比較的安い。体育館の構造上、効きが悪い学校は台数を増やしてきたが、猛暑の昨夏は増設要望が多かったという。
区教委の担当者は「昨年の暑さが異常なのか常態化するのか見通せないが、状況をみて、さらに台数増を検討したい」と話した。
福生市は、米軍横田基地の騒音対策として全10校で1997年度までにエアコンをつけた。設置費は約11億5200万円。ただ、電気料金を抑えるため、使用は校長が必要と判断した時や式典に限り、授業や部活動では原則使わないという。
一方で、今年北海道で発生した最大震度7の内陸直下型地震では、一斉に広域停電する「ブラックアウト(全系崩壊)」が起きて、都市機能がマヒし大混乱に陥った。
道路信号、病院の医療機器など、ライフラインの中で止まると一番影響が大きいのが電気とされる。冷暖房として使用できるエアコンも、こうした大規模停電で電力の供給を失えばその機能を果たせないことが改めてクローズアップされた形となった。
北海道電力の最大の火力発電所「苫東厚真火力発電所」(北海道厚真町)が被害を受けたことで、電力の需給バランスが崩れて、ほかの発電所も相次いで停止。一時は道内のほぼ全域の約295万戸が停電するという前代未聞の事態に陥った。
くしくも、近畿では台風21号の影響で延べ218万戸が停電し、大混乱したばかりだった。
多摩地区の市長は「通常の授業などと違って災害時に避難所として体育館を使う場合は、ライフラインの状態でエアコンの使用が左右される場合がある。
停電の長期化なども想定した場合、緊急時の予備電力電池や発電装置など、エアコン設置だけでなく電力を確保するための設備も考えていかなければならず、想定以上に費用はかかるのではないか」と指摘する。
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