連載
#1 #乳幼児の謎行動
全人類的に共通する愛おしさ! 赤ちゃんの謎行動集めた一冊
息子の1歳の誕生日に友人からプレゼントされた「いっさいはん」。開くと赤ちゃん用の絵本とは少し違ったテイストの絵本のようです。読めば読むほど、子育ての「あるある」が描かれていてうなずけるものばかりでした。「なんでこんな事しちゃうの?」とイラッとしてしまうような子どもの予測不可能な行動を的確に「かわいく」描けるのでしょうか。作者のminchiさんに話を聞きました。
――まず、minchiさんのおすすめの行動トップ3を教えてください。
ズボンの裾が片方だけ上がってくるのは、娘だけなのかな~と思っていたら、みんな「あるある」とおっしゃっていたので、「そうなんだ」と!
あと、ゴミを見つけては、「はい」と渡してくれるんですが、みんなやってますよね。
子どもの口にゴミが入ったら嫌だなと思ってめっちゃ掃除しているのに、なんで分かるのかな? 公園に行ってもちっちゃなゴミを集めてはみんな「はい」と渡していて(笑)
どういう法則なんでしょうね。
――わかります(笑)。私の息子も、家中の小さなゴミを見つけては「ゴミ!」と渡してきます。大人の目で気づかない小さな糸くずまで気づくのですよね。本の中イラストで我が子の「あるある」を探すのが楽しいです。そもそも、子どもの行動を絵に描いてみようと思ったきっかけはなんですか?
「いっさいはん」のモデルの娘は今10歳なんですが、娘が生まれてちょうど1歳半ごろの2010年にブログに絵を載せました。
結婚して引っ越してきた場所で子育てをスタートしましたが、昔からの友達もいませんでした。ママ友もいなかった。元々引っ込み思案の性格でしたが、近所で知り合いを作ろうと思っても、なかなか難しい。
ブログだったら同じ趣味の人と会話出来るんじゃないかなと思って仕事用ではなく、プライベートのブログで発信してみました。
当時は特に反響もなく、すぐにやめちゃったんですが。
――育児って孤独な戦いですよね。初めて直面する分からないことだらけで、誰に相談すればいいのかも分からない。私は誰かに少し話を聞いてもらえるだけでも安心しました。ブログは育児のストレス解消が強かったのですか?
元々インドアな性格なので、1人でも大丈夫な方ですが、育児に関しては1人だとしんどいですよね。
ずっと1人でみてなきゃいけない、トイレにまで付いてくる。料理もなかなか作れないしカップラーメンを食べようと思っても、わぁーっと泣かれて世話している間に気づいたら麺がのびのびになってしまっていたり……ご飯もゆっくり食べられない。
――そんな終わりのない毎日にしんどい、イラッとしてしまう事が多いと思います。「しんどさ」ではなくあえて「かわいい」イラストで描いたのは?
ドラマや映画でもドロドロしたものを見るのは好きじゃない。自分が発信する上でも裏っかわはあまり見せたくないと思いました。
――minchiさん自身、イラストを描くことで育児のストレスを発散できた?
そうですね。描くこと自体が楽しくて好きなので。子どもが寝てから動画を見たりして思い出しながら描きました。
――ツイッターの反響、絵本出版についていかがですか?
想定外でした。それまで絵本を出したことがなかったので、え、絵本?って。
――この絵本の対象は主に子育て中の親御さん向けですか?
絵本として出すからには子どもたちが見ておもしろいと思うものにしたかったです。「子どもの行動図鑑」のイメージです。赤ちゃんってこんなことしてるんや、って笑ってもらえるような、物心ついた子に見て欲しいです。
――「いっさいはん」のモデルの娘さんの反応は?
娘は年中ぐらいになると自分の小さい頃の話をすごく聞きたがりました。娘の友達の話を聞いていても、そのくらいになるとみんな興味があるみたいですね。
不思議なことにちょっと大きくなった子が見ると自分の事とは思わないんですよね。「あなたもこんな事してたよ」って言うと、ええ!となる。娘も絵本を見せると「こんなことしてたっけ」って言ってました。
年中くらいの年齢って大人から見ると、「いっさいはん」とそんなに違いは無いですが、本人は「自分はもう大人」だと思っているんですよね。
1歳半ぐらいの子供の行動 pic.twitter.com/fyp2sZVTs2
— minchi 原画展2/1~2/28(大阪) (@minchisan) 2015年2月5日
――育児で悩みを抱えている人もいると思います。そんな方々からの反響はありましたか?
「育児に疲れていて、これをみて見ていて笑っちゃった」という声がすごく多いです。
「うちの子だけじゃなかったんだ」ということは言われましたね。「みんな同じなんだ。そう思ったら気持ちが楽になったと」ツイッターとかで言ってくださる方が多かったですね。
保育士さんからも「あるあるだ」と言われました。おじいちゃん、おばあちゃん世代からも「すごくなつかしい」と言われました。
「いっさいはん」くらいの親御さんを想定していたので、上の世代の人たちに見てもらえると思っていなかったので、すごくびっくりしましたね。
――なぜ「1歳半」の時期に焦点を当てたのですか?
たまたまです。それまではおっぱい飲んでオムツ替えて忙しすぎて、「わ~っ」となっていた。赤ちゃんが生まれて長い一日が続いていて。たぶん1歳半のころ、ちょっとだけ寝るようになってきて楽になってきたのかな。それで描けるようになったのかな。
――育児をめぐる悩みは尽きません。以前より子育ての環境は良くなったと思いますか?
多少は良くなったけれど全体的には変わらないのかなと思います。ベビーカーが大きくて便利になっても、電車で「邪魔や」と言われるとか。
子供を育てることがこんなにしんどいのに、世の中の目がお母さんに対してだけものすごく厳しいなと感じましたよ。お母さんになったら急に「できて当たり前」になってしまう。
――子育て中の保護者さんにメッセージをお願いします
子供が何歳になっても親の悩みは尽きませんが、これからも一緒に頑張って行きましょう。
「いっさいはん」はウチの子の「あるある」ですが、絵本をきっかけに「あなたもこんなんだったよ」って会話が出来たり、親子で絵本を見てただただ楽しんでもらいたいです。
世の中がお母さんたちに冷たいのは、赤ちゃんがどんな行動をするのか知らない方が多いんじゃないかと思うので、「赤ちゃんってこんな困った事するんだ」と覚えておいてもらえるとうれしいです。
『いっさいはん』を担当した岩崎書店の編集者の堀内日出登巳さんは「1歳半ジャストが対象というのではなく、もう少し幅広く、小学校低学年くらいまでを対象にした作りになっています」と説明。
人気の理由について堀内さんは「大人向け絵本と言われることも多いですが、どちらかというと『大人も楽しめる子どもの本』という感じでしょうか。絵本を作っている間、私(子どものいない40代半ばの男性)もいちいちきゅんきゅんしていたので、これは『全人類的に共通する愛おしさ』なのではないかと感じています」と話しています。
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