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2019年03月07日

あざの顔、見るのは仕方ない? 「自意識過剰」で片付けられない問題


  • 201546

あざのメイクをした筆者=河原夏季撮影

あざのメイクをした筆者=河原夏季撮影

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 顔の変形やあざ、まひ、傷の痕……。人とは違う外見の人たちが学校でいじめられ、就職や結婚で差別にあう「見た目問題」。中には、ジロジロ見られたり、逆に無視されたりする人たちがいます。当事者の親として取材を続けてきた私が、他者から向けられる視線について考えたいと、顔にあざの特殊メイクをして、街に出ました。

あざメイクで街へ出た記者=山本哲也撮影

心に引っかかっていた問い

 私は自分の長男(8)が生まれつき右顔の筋肉がなく、笑うと顔がゆがみます。見た目問題に強い関心を持ち、これまで20人ほどの当事者にインタビューをしてきました。

 あるとき、顔にあざのある男性が私にこう語りました。

 「『見た目の悩みなんてたいしたことではない。大切なのは、顔よりも心だ』という言う人がいます。ならば、顔に赤いペンキを塗って外を歩けますか」

 この問いかけが、私の心にずっと引っかかっていました。当事者の痛みを頭では理解していても体感していない私に、投げかけられていると感じたためです。

 もちろん、顔にあざのメイクをしたところで、しかも短時間だけ街を歩いたところで、当事者の本当の思いを理解できると考えるのは、おこがましいでしょう。私がメイクをすることに当事者が不快な思いをしたり、「悪ふざけだ」と批判を受けたりする恐れもあります。

 それでもやってみることで、見えてくることもあるのではないか。ありとあらゆる方法で理解しようとすることが、より誠実な対応ではないだろうか。葛藤する中で数人の当事者に相談すると、「やってみてはどうでしょうか。でも、どうせやるなら中途半端ではなく、リアルにやって下さい」と背中を押されました。

 見た目問題の解決を目指すNPO法人「マイフェイス・マイスタイル」(東京都墨田区)にも協力を依頼。マイフェイス・マイスタイル監修のもと、赤いあざのある男性をモデルに、映画などの特殊メイクが専門のメイクアップアーティスト・向井伸貴さんに再現してもらいました。

単純性血管腫の三橋雅史さんの写真を参考にしながらメイクを進めました

単純性血管腫の三橋雅史さんの写真を参考にしながらメイクを進めました

1時間半かけたリアルなメイク

 2月中旬の休日、マイフェイス・マイスタイルの事務所でメイクは始まりました。向井さんが手際よく、私の顔にメイクしていきます。少しずつ、少しずつ、1時間半かけ、私の顔に赤あざが描かれていきました。


 色だけでなく、肌の隆起までリアルに表現していきました。マイフェイス・マイスタイルの外川浩子代表が「ぱっと見では、メイクとはわからない精巧さです」と感心するほどです。

 メイク中、同席していた同僚が「見ているだけで緊張してくる。私がメイクをされたら、ジロジロ見られるのが怖くて外に出られないかも」と話しました。私はというと、メイク中も終了後も心に動きはありませんでした。すごい技術だなぁと思った程度です。事務所にいるのは知り合いばかり。まだまだ冷静でした。

いずれも河原夏季撮影

いずれも河原夏季撮影

一歩外に踏み出してみると

 しかし、外に足を踏み出すと、気持ちが揺れ動きました。「人に好奇な目で見られるんじゃないか」という不安です。少し離れた場所にいたガードマンが私のほうを向きました。「ひょっとして、あざが気になったのか」とモヤモヤした気持ちになりました。

 「赤あざ」のある私は、外川さんとともに電車に乗り込みました。当事者の多くから「電車の中が特に見られる」と聞いていただけに、緊張しました。

 でも、ほとんどの人が下を向いていることに気づきました。手元のスマートフォンを見ているためです。ある当事者が、「スマホのおかげで、生きやすくなりました」と、とつとつと語っていたことを思い出しました。

 目の前の席に座る中年の男性が、ふとスマホから目を上げて私の顔を見ました。目が合うと、さっとスマホに顔を戻しました。直後に外川さんが「ドア付近で立っている女の子、見ているよ」と声をかけてくれました。3、4歳の子でしょうか。私の顔が気になるのか、何度もこちらに視線を向けました。

画像はイメージです

画像はイメージです

出典: PIXTA

素直な反応に思わず……

 墨田区内のある駅に降りて、人混みを歩きます。目的地は公園です。「反応が素直な子どもが苦手」という当事者が多いためです。

 公園へ向かう数百メートル、すれ違う人の大半が私の顔には気づいていないようでした。歩くとき、他人の顔には、さほど注意はいかないものなのかもしれません。ただ、私の顔に気づいた人たちの中には、数秒間、目で私の顔を追いかける人も。視線が私の体にまとわりつくような感覚に、当事者が「見られていることを肌で感じる」と言っていた意味が、少しわかりました。

 公園に到着。子どもと一緒に来た親たちに交ざって、遊具のそばに20分ほど立っていました。

 遊具で遊んでいる小学校低学年の女の子と目が合いました。

 私の顔をまじまじと見ながら、遊具を上っていきます。そして、隣にいた友達の肩をたたき、私に向け指をさしました。女の子は手のひらで自分のほおを2回たたきました。声は聞こえませんでしたが、そのしぐさに私は眉をひそめてしまいました。女の子が「ねぇねぇ見て。あそこに、顔が赤い人がいるよ」と友達に伝えたのだろうと感じ、いい気持ちがしませんでした。

 あざのある人が子どもを連れて公園に遊びに来たら、こうした反応を受けるのは日常茶飯事なのでしょう。子どもが見慣れぬものに好奇心を持つのは仕方ないかもしれませんが、好奇を向けられる当事者はストレスを感じるだろうと思います。

20分ほど公園の遊具のそばに立っていました=山本哲也撮影

20分ほど公園の遊具のそばに立っていました=山本哲也撮影

「私の顔を見て、どう思いましたか?」

 次に、公園内を歩いている人たちに道を尋ねてみました。「人間にとって顔とは何か」(レイ・ブル、ニコラ・ラムズィ著、1995年)という本で、「見た目に症状がある人は人から親切にされない傾向がある」との海外の研究結果が紹介されていたためです。実際、当事者の中にも「私と関わりたくないことを態度で示す人はいる」と語った人がいます。

 1時間で10人ほどに声をかけましたが、大半の人が「じっと見つめない、でも無視もしない」という対処をとってくれました。

 丁寧に道を教えてくれた2人組の男性に、「私の顔を見て、どう思いましたか?」と尋ねました。

 男性の一人は「大きなやけどの痕かと思ってびっくりしました。言ってしまえば、普通じゃないので。だから、紫っぽい顔が見えて、思わず視線がいってしまいました。ただ、見ちゃダメって思いもあったので、見ないふりをして見ました」。

 もう一人の男性も「特徴があるので、目が自然といきました。声をかけられて、ご本人も気にしているところだと思うので、失礼のないように対応しようと思いました」と話しました。

公園を歩く岩井記者=山本哲也撮影

公園を歩く岩井記者=山本哲也撮影


 同じような症状の人に出会ったことがあるという高齢の女性もいました。「私が子どものころ、先生の顔にあざがありました。だから気になりませんでした」

 声をかけた中には、私の顔を見て、逃げるように去っていった若い女性2人組もいました。もちろん、知らない男性に声をかけられてびっくりしただけで、あざは関係なかったかもしれません。ただ、私の中では「冷たい対応をされたのは、ひょっとしたらあざが原因では?」との思いがよぎりました。他人に道を尋ねて断られた経験がなかっただけに、少しショックでした。

 「被害妄想かもしれないけど、人から冷たくされると、症状のせいかもしれないと考えてしまう自分がいました」と私に語った当事者の言葉が思い出されました。

 マイフェイス・マイスタイルの外川さんに私の思いを告げると、「子どものころにいじめや差別を受けたことによって、当事者が他人の言動を自分の見た目と関連づけて意味づけしてしまう場合がある」と説明してくれました。

NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」の外川浩子代表=河原夏季撮影

NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」の外川浩子代表=河原夏季撮影

「自意識過剰でしょう」

 公園周辺に2時間ほど滞在した後、私は外川さんと別れて1人で電車に乗り、新宿を歩き回り、夜に帰路につきました。

 電車の中で、いったん視線をそらして、また見る男性がいたので声をかけると、「見ていませんよ。自意識過剰でしょう」と叱られました。この男性の言う通り、私の勘違いだったかもしれません。ただ、ある当事者の人が言っていた「他者の視線に非常に敏感になってしまう」との言葉が腹に落ちました。

 家に着くと、この日の取材を知らない長男(8)と次男(4)は、「どうしたの? やけどしたの?」と心配してくれました。

 「どう感じる?」と尋ねると、2人は「怖い」と言いました。それに対し、私は「病気でこういう人もいるんだよ。見た目だけで好き嫌いを判断せず、仲良くしようね」と子どもたちに伝えました。私は普段から、「いろんな見た目の人がいるんだ」と家で話しているので、長男は「髪の毛が生まれつき白い人(アルビノ)もいるもんね」と納得している様子でした。

 メイク落としを妻に借り、洗面所で10分かけてあざメイクを落としていきました。あざのない素顔を鏡で見つめると、緊張が解けているのがわかりました。

画像はイメージです

画像はイメージです

出典: PIXTA


 今回、私が街を歩いたのは、わずか5時間ほどです。シチュエーションや都市部か地方によっても、人々の対応は変わるでしょう。それでも私は見られる恐怖心を抱き、実際に視線を浴びればイライラしました。

 しかし、当事者の痛みを十分に感じたわけではありませんでした。視線を受けても、「素顔の私に向けられたものではない」との気持ちがどこかにありました。私にとってあざはメイクであり、顔を洗えばあざのない顔に戻るためです。あくまで仮の姿に過ぎませんでした。

あざメイクに使った道具=河原夏季撮影

あざメイクに使った道具=河原夏季撮影

見てしまうのは仕方ないこと?

 人の視線に敏感になっている当事者がいます。では、街で外見に症状がある人たちと出会ったとき、私たちはどう対応をすればいいのでしょうか。「驚いて見てしまうのは仕方ない」「美人やイケメンを見たら、思わず見るのと同じだ」と考える人もいるかもしれせん。

 マイフェイス・マイスタイルの外川さんはこう言います。

 「はじめて当事者に会ったら、思わず見てしまうと思います。そのことを『仕方がない』ととらえる当事者もいます。でも、見る側が『仕方ない』と開き直るのは違うと思います」

 「そうした人と街ですれ違い、驚いて思わず見てしまったら、当事者の多くが視線を感じ取っていることを思い出して下さい。そして、頭の片隅でいいので、世の中にはいろんな外見の人がいるんだと覚えていてほしい。そうすれば、次に会ったとき、自然な振る舞いができるようになると思います」

岩井記者(左)と外川さん=河原夏季撮影

岩井記者(左)と外川さん=河原夏季撮影


 取材の中で、私が道を尋ねた高齢の女性が「かつて先生に同じようなあざがあったから気にならなかった」と言っていたのが印象的でした。取材に同席した同僚も、「時間が経つにつれ、あざのある顔に慣れてきた」と語りました。

 確かに、初めて当事者を見れば驚くかもしれませんが、顔には慣れます。いろんな見た目の人がいることを知ってもらえるよう、今後も取材を続けていきます。

「見た目問題」トークイベントを開きます


 中高生のみなさんを対象に、特徴的な外見のゲスト3人と交流し、見た目について考えるトークイベントを開きます。それぞれのリアルな体験や思いを語ってもらい、前向きに生きるためのヒントを探ります。参加は無料です。

■日程
3月23日(土)14:00~17:00(13:30開場)

■会場
朝日新聞メディアラボ渋谷分室(最寄り駅:JR渋谷駅 徒歩10分)
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目19-21

■定員
30人(事前申し込み制・先着順・高校を今春卒業の方もご参加いただけます)

■ゲスト
単純性血管腫の三橋雅史さん
37歳公務員。顔に大きな赤あざがある。高校生の時は友達がいなくて孤独だった。自転車の旅を転機に前向きになれた
アルビノの神原由佳さん
福祉施設で働く25歳。生まれつき肌や髪の毛が白い。ずっと外見に違和感があったが、少しずつ誇りに思えるようになった
トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん
26歳の筑波大大学院生。小さなあご、垂れ下がった目が特徴。中学時代、引きこもりを経験。小学校などで体験を発信している

■プログラム
・ゲスト3人のトーク
・参加者全員で意見交換&アンケート

■申し込み
朝日新聞社応募フォームより
2019年3月20日(水)23:00締め切りです

■持ち物
筆記用具

■注意事項
※イベント当日は記録用、HP掲載用などのために写真撮影をさせていただきますのでご了承ください
※withnewsのほか、朝日中高生新聞の取材が入ります
※会場までの交通費は自己負担でお願いします

■共催
朝日新聞社withnews/NPO法人マイフェイス・マイスタイル(MFMS)

■協力
朝日中高生新聞

■問い合わせ先
withnews編集部(担当・河原)withnews-support@asahi.com


「見た目問題」記者 1時間半かけ「あざメイク」ができるまで
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