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アカデミー賞に現れた「超骨太作品」の正体 70年代の暗黒部を……
第91回米アカデミー賞では、「クイーン」を描いた「ボヘミアン・ラプソディ」が注目を集めていますが、「骨太作品」として見逃せないのが「ビール・ストリートの恋人たち」です。1970年代のアメリカ社会を描いた作品ですが、監督・脚本を担当したバリー・ジェンキンスさんからは「今、アメリカで何が起きているのか……」という言葉がでてきました。骨太作品がそろったアカデミー賞候補からは、人種差別、格差社会の現実が見えてきます。
「ビール・ストリートの恋人たち」の原作者であるジェイムズ・ボールドウィンは、1924年生まれで87年に亡くなった、ニューヨーク州のハーレム出身の小説家、劇作家です。
この映画の原作は、70年代半ばに出版された小説ですが、この時代の社会状況をリアルに描いたものと言われてきました。
そんな作品を映画にしたのが、79年に生まれてマイアミで育ったジェンキンス氏です。2年前のアカデミー賞で作品賞を受賞した「ムーンライト」の監督です。
映画は、70年代のニューヨークのハーレムが舞台です。
少女ティッシュ(19)が、幼なじみのファニー(22)の子どもを身ごもります。ファニーは身の覚えのない罪を着せられてしまい、収監されてしまう。無実を証明しようと、ティッシュや両家の父親らは陰に陽に奔走します。ティッシュとファニーの甘く甘くせつない恋愛を描いていると同時に、70年代の人種差別、階層社会、不条理さが描かれています。
2人の新居を貸してくれる不動産業者がなかなか見つからない中、ユダヤ系と思われる不動産業者の男性が工場跡のフロアを好条件で貸してくれるシーンがあります。
——ティッシュとファニーの2人からは、アメリカ社会に横たわる「高い壁」が伝わってきます。
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
映画の中盤、ファニーが心を許せる友だちのダニエルと久しぶりに会って、ファニーの家で話し込むシーンがあります。とても長いシーンですが、日常的な会話を積み重ねたうえで実はダニエルが無実の罪で刑務所に収監されていたことを告白するシーンです。
とても不条理なことですが、映画の中の2人は抑制的に会話をしていると感じました。ダニエルの最後の方のセリフに「マルコムXの主張がよく分かった」という言葉がありました。65年に暗殺された公民権運動活動家です。
——10分を超えるシーンに込めた思いとは?
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
——以前の発言で「この小説は、1974年に出版されているが、現代に起きていることにもとても通じている」と指摘しています。どんな部分が通じているのでしょう?
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
——今年のアカデミー賞でも、1960年代や70年代のアメリカ、アフリカ系アメリカ人の社会を描いたものが多くノミネートされています。人種差別や公民権運動というテーマが、繰り返し映画になり続けるのはなぜでしょう?
ジェンキンス監督
ジェンキンス監督
ジェンキンス氏の言葉からは、映画や小説で何を感じるのかは、見たり読んだりする人を培ってきた環境が大きな影響を与えるとうことです。
移民大国であるアメリカは今、メキシコとの国境に壁を設けようとしています。ヨーロッパでは、地中海を渡ったり、陸路で流入したりするヨーロッパの難民受け入れの問題もからみ、国家間の不協和音が少しずつ高まり、イギリスのEU離脱が迫っています。
日本もここ数年、ビザの緩和で外国人旅行客が増え、働く外国人があちこちで見られるようになりました。2020年の東京オリンピックが近づき、様々な競技で、「日本人選手」「日本チーム」の国際試合での成績がスポーツニュースを中心に報じられています。競技によってルールは違うことがありますが、外国にルーツがある選手であっても、区別なく応援する社会の雰囲気は少しずつ普通のこととなりつつあると思います。
この映画を見て、ジェンキンス氏にインタビューして感じたのは、強いメッセージを感じるとともに、このような映画がどんどん世に出てきて、こういう映画を世に出すための仕組みがまだ社会の中に存在しているということ。そして、差別や偏見が社会のシステムに裏付けされてしまうと、変えることがなかなか難しくなり、その闘いも長い闘いであるということに気付かされました。
日本でも、「インクルーシブ」や「ダイバーシティー」といった言葉が、日常的に使われる時代になりました。一方、多様性に不寛容な社会もまだまだ残っています。
分断社会を乗り越えるためには、どうしたらいいのでしょうか。
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