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ハマ弁からの「昼食15分問題」+5分だけでも「大きな一歩」の理由
「15分って軍隊みたい」「どう考えても不健康でしょ」。横浜市の市立中学校で給食代わりに利用されている配達弁当「ハマ弁」。その試食会で硬いハンバーグを食べようとし、箸が折れた記事を配信しました。すると、ハマ弁への突っ込みに加え、「昼食時間が15分」に多くのコメントが来ました。実はこの問題は横浜市議会やネットで度々話題になっており、先日の市議会でも質疑がありました。(朝日新聞横浜総局・高野真吾)
「余裕のない時間配分になっている」
19日午前、横浜市の本会議場壇上。かっぷくの良い横山正人市議(自民党)が声を張り上げました。仲間の自民党市議席から「そうだ」のかけ声が出ます。
横山市議は、ハマ弁が当日注文の全校実施で「より一層の普及が見込まれる」と述べる一方、「昼食時間については一考の余地がある」と前振り。そして、いわゆる「昼食15分問題」に切り込んで行きました。
熱弁が続きます。
「よくかんで食べることの大切さなど、食育の重要性が高まっている今、改めて中学生に余裕のある昼食時間の設定することは、大きな意味があると考えます」
再度、最初よりも大きな声で「その通り」「そうだ」のかけ声が議場に響きました。本会議場の議員たちは横山市議以外、ほぼ口を開いていません。それだけに、こうしたかけ声は目立ちます。
横山市議は「中学校昼食の推進」に関する質疑を次のように切り上げました。
「昼食時間の延長について(中略)教育長の見解をお伺いします」
横山市議の質疑が終わった後、指名された鯉渕(こい・ぶち)信也教育長が同じ壇上に立ちました。淡々とした口調で「見解」を述べます。横山市議との熱量の違いが印象的です。
「食育の観点からも、ゆとりある食事時間を確保することは大切です」
横山市議の問題意識に呼応した答えです。さらに市内で具体的な検討が進んでいることを明らかにしました。
「適切な時間配分について学校長に対し要請を行い、青葉区や磯子区、金沢区などでは区内の学校で昼食時間を伸ばす検討をしていると聴いております」
市教委によると過日、校長たちを集めた全体校長会で、市教委から昼食時間の延長を考えるよう校長たちにお願いしたそうです。学校の始業、終業や昼食時間などの日課表は、学校ごとに校長が決めていることが背景にあります。
市教委からの要請に応じ、青葉区、磯子区、金沢区の複数の校長が4月から昼食時間を5分延ばし20分にする検討をしているとのことです。昼食時間を5分延長した分は、始業や終業時間を変えるなど全体の時間割を調整して、時間を確保すると言います。
休憩時間に取材に応じた横山市議は次のように語りました。
「昼食時間の延長は3区の学校から始まり、市内の全18区に広がっていくことになるでしょう」
教育長から具体的な区名を引き出すのに、横山市議はかなり注力したとのこと。それだけに、今後の広がりの可能性を語る表情は充実していました。
こう書くと、読者は「えっ、わずか5分の延長じゃん」「20分になるだけでしょ」「小さな変化すぎる」と突っ込むかもしれません。
それでも記者も「大きな一歩」だと考えています。ゼロ回答だった時もあるからです。
2017年9月13日の議会でも、ある議員が横山市議と同様に昼食時間を取り上げました。共産党の古谷靖彦市議です。議事録をめくりお伝えします。
古谷市議は質疑で「中学校の昼食時間が15分しかないという問題について伺います」と切り出しました。
「そもそも昼食を15分で食べるというのは余りにも短すぎると思いますが、これで食育を図るにも健康面でも十分な食事時間だという認識なのかどうか、伺います」
また、生徒の健康面や食育の観点だけでなく、教師の労働環境の側面からも質問しています。2013年に教職員の実態調査をした際、休憩時間が「10分程度という回答」だったそうです。
「その後休憩時間を法定どおりに取らせていないことに対して何らかの改善策を講じられたのかどうか、伺います」と続けました。
当時の教育長は以下のように答えています。
「昼休み時間を延ばすためには、決められた授業時数や勤務時間をもとに、始業時間を早める、終業時間をおそくする、あるいは夏休みを短縮するなどの調整が必要となります」
議事録には「『で、どうなるの』と叫ぶ者あり」との記述があります。確かに、教育長のスルーの答えには、だからどうするのか聴きたくなります。
食事時間に関しては「食育や健康面において昼食時間が大切だということは十分認識しています」とし、「引き続き、しっかり食べることを指導していきます」と述べました。
教師の休憩時間については、「業務改善の支援や人員配置の充実等の取り組みを実施してきました」が「具体的な改善策には至っておりません」と引き取りました。
この時の教育長の回答と比較すると、19日の現教育長の回答は具体的です。
古谷市議には男4人の子どもがいて、うち1人は市内の公立中学校に通っています。2011年に市議に初当選して以降、昼食問題に積極的に取り組んで来たそうです。
取材に対し、古谷市議は以下のように話しました。
「ハマ弁自体の問題は別にし、昼食時間を伸ばすことは賛成です。最近は、市側と話しても『(親が作る)愛情弁当がうんぬん』とは言わなくなってきました。だいぶ路線が変わってきたと感じています」
この昼食時間問題では、ある著名人のつぶやきがネットを賑わせたこともあります。横浜市立中を卒業した俳優の「はるかぜちゃん」こと春名風花さんです。
春名さんは2017年7月、次のようにツイッターでつぶやいています。
「ぼくは食べるのが遅いので中学校三年間ずっとおなかがすいていました。部活のある日は家に帰るまでおなかが持たなくて倒れそうでした」
「今は高校に売店があるので、授業も落ち着いて聞けます」
そして、こう続けています。
「中学生がゆっくりお昼ごはんを食べられる横浜になってほしいです」
ぼくは食べるのが遅いので中学校三年間ずっとおなかがすいていました。部活のある日は家に帰るまでおなかが持たなくて倒れそうでした。今は高校に売店があるので、授業も落ちついて聞けます。中学生がゆっくりお昼ごはんを食べられる横浜になってほしいです。 pic.twitter.com/7IgFqz54vy
— 春名風花 official (@harukazechan) 2017年7月30日
記者(42)は埼玉県川越市の公立中の出身です。30年ほど前、その公立中で給食を食べていました。クラスメイトと話をしながら、のんびりと給食を食べた楽しい思い出が、四半世紀を過ぎても残っています。
食が細くなっている、いまの倍は食べたでしょうか。今の体重65キロに足すこと15キロ、80キロ近い体格だったので、よくおかわりをしたものです。
食育という言葉は知らない田舎の中学生でしたが、はるかぜちゃんのようにおなかを空かせることはありませんでした。ずっと「ふつー」と感じていましたが、もしかしたら恵まれていたのかもしれません。
横浜市内3区の昼食時間延長は、外から来た者が持っている「ふつー」が、ここ横浜に来る一歩となるのでしょうか。横山市議の見立て通りに18全区に広がっていくのか。地元記者として、きっちりウォッチしていきます。
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