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「ハマ弁」食べたら箸折れた 横浜の配達弁当が利用されない理由とは
中華街が有名な横浜市には、知る人ぞ知る「ある名物」があります。その名も「ハマ弁」。市立中学校で給食代わりに利用されている配達弁当です。どんな弁当か試食してみたところ……「ポキッ」。なんと、箸が折れました。衝撃の「箸折れ」試食から見えたのは、横浜市立中学の昼食をめぐる特殊な事情でした。(朝日新聞横浜総局・高野真吾)
1月25日、横浜市鶴見区のある中学の1年生が「ハマ弁」を食べる試食会が開かれました。費用は横浜に工場を持つ企業が負担しました。
出てきたのは、容器に入ったおかず、ご飯、みそ汁と紙パックの牛乳の合計4点です。容器のフタを開け、記録用の写真を撮りました。
おかず容器に入っていたのは4品。メインは「ハンバーグ和風ソースがけ」。ほかは「根菜のうま煮」「小松菜とウインナーの炒め物」「白菜の塩昆布あえ」です。
健康診断が気になる42歳の身にはうれしい、野菜たっぷりの献立です。
おみそ汁も手が込んでいます。「油揚げとかぶのみそ汁」。これにご飯と、牛乳がつきます。なかなかのボリュームです。教職員と同じく470円を払いましたが、お得感があります。生徒だと340円です。コスパもいいです。
写真を撮り終えた後、別の教室に移動し、いざ実食に。
いそいそと割り箸を手にしました。ハマ弁を食べる生徒は、箸やスプーンを持参することになっていますが、この日はご用意頂きました。ありがたいです。
オレンジの容器を手にし、みそ汁から口にしました。ハマ弁の売りの一つが、みそ汁、ご飯が温かいことです。その通りに、寒さで凍えた体の胃にしみます。次にハシを伸ばしたご飯もホカホカです。
「この優しい味が体を癒やすのだ」
人気テレビ番組「孤独のグルメ」の井之頭五郎さんではないのですが、そう心の中でつぶやきました。
ところが、肝心なメインのハンバーグにハシを伸ばした瞬間、文字通りに箸がとまりました。
「おや?」
一口大に割ろうとしても箸が通らないのです。
「なんでかな?」
不思議に思いながら、さらに力を込めます。
「ポキッ」
折れました。
割り箸が真ん中から無残に。
なんなのでしょう、この予想外の展開……。
(箸が折れるほどハンバーグが硬いことなんてあるはずない。冷凍ハンバーグがそのままだったなど、何か調理不備があったのではないだろうか……)
そんな疑問に対する担当者の答えは、さらに衝撃的でした。
担当者いわく、別に調理不備ではなく衛生管理の面から起きたとのこと。担当者の説明と手元にあるパンフレットによると、こういうことになります。
ハマ弁の製造工場では、「食材の中心部分を85度以上でしっかり加熱することで食中毒を予防します」。
さらに「食中毒予防のため、真空冷却器という機械の中で、おかずの温度を一気に19度まで下げます」。
19度は「おいしさと安全性の両立に最適な温度」だそうです。
こうした製造工程と冬場だったことが、ハンバーグが硬かった原因のようです。
折れた箸を使って何とか割ったハンバーグの断面は、冷え冷えしていました。
このハマ弁、実は横浜市の林文子市長が「はっきり申し上げて低迷いたしました」と話す状態なのです。
横浜市はハマ弁の利用率目標を2020年度で20%としています。2018年度(2018年4月~19年3月)の利用率目標は10%、19年度(2019年4月~20年3月)は15%です。
ところが2018年12月時点の利用率は、2.6%。目標のはるか下です。
ご飯と汁物は温かい状態で出てきます。さらにご飯の量は選べます。献立は栄養士が作成し、栄養バランスが整っていることも売りにしています。
こうした売りにもかからず、生徒やその保護者にはほとんど響いていません。
これまでは原則7日前までに注文する仕組みにしていましたが、2019年度中に全校で当日注文ができるようになります。
「保護者の強い要望が当日の注文ができない(のでできるようにして欲しい)ということだった」(林市長)ためです。
しかし、当日注文を全校実施にしても、横浜市教育委員会の見通しでは1ポイント程度しか利用率は上がりません。
「そもそも、無理のある施策なんじゃない?」。そんな声が聞こえてきそうな状況です。
なぜ、横浜市はハマ弁を導入したのでしょう?
横浜市は2014年12月に「横浜らしい中学校昼食のあり方」をまとめました。
「現状」は「家庭弁当を基本としており、9割以上の生徒が持参」で「持参できない場合などは学校で業者弁当等を購入できる」としています。
これらの課題に「弁当作りが難しい場合がある」「冬期の冷たさ」「学校ごとに選択の幅にバラツキがある」「栄養バランスが欠ける場合がある」「昼食の用意が困難な生徒がいる」を挙げています。
さらに、アンケート結果を踏まえ施設整備の推計額を検討。「民間調理施設で調理し、弁当箱に詰め、保温コンテナに入れて中学校に配達する方法の『配達弁当』」が「最もふさわしい」としました。
この結論は、2003年・2004年度「望ましい学校給食のあり方検討委員会」から続く一連の経過を踏まえ、出されたものとされています。
ハマ弁低迷の理由として、「箸折りハンバーグ」に見られるような「固くて冷たいおかずに対して子どもが全く魅力を感じていない」などの声が市に寄せられています。そしてハマ弁の魅力と裏腹の「食べにくさ」や横浜特有の事情として「食べる時間のなさ」もあります。
横浜市の市立中学校の場合、昼食の準備時間に5分、実際の昼食時間に15分ほどが多いようです。昼休み自体は45分程度あったとしても、昼食後の休憩時間に色々な活動をするため、「15分で済ませる」スケジュールとなっていると言います。
15分前提だと、ハマ弁の品数の多さ=食べにくさ、となってしまいます。色々なおかずにハシを動かすため、ガッとかき込むことができないからです。
この点、もう一つの選択肢となっている「業者弁当」は、食べやすいと聞きます。確かに業者弁当のメニューを見ると、「カレー」や「丼」などがあります。一方、ハマ弁を15分で食べるのは、職業柄早食いが多いとされる新聞記者の私が黙々と食べ、ギリギリという時間です。
また、ハマ弁は学校の所定場所に生徒が取りに行く必要があります。その分時間をロスします。家庭弁当はパッと取り出せ、その時間のロスはありません。
前途多難なハマ弁。それでも、横浜市では、当日注文の全校実施のほか、試食を実施し、新中学生に積極的にPRすることで利用率を上げるつもりです。
林市長は「ここが大いなる勝負」と気合を入れています。
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