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釣った魚をクーポンに……「三方よし」夢のサービスは本当にあった
みなさん、釣った魚ってどうしていますか。自分で食べられたら1番良いのですが、さばいたり料理したりするのって難しいですよね。できたとしてもたくさん釣れたら食べきれないということも。逃がすのももったいないです。そんな悩みを解決するサービスがあります。釣った魚をクーポンに交換できて、地元の食事や温泉を楽しめる。まさに「ウィン・ウィン・ウィン」の取り組みを体験してきました。(朝日新聞静岡総局記者・堀之内健史)
「ツッテ熱海」は、静岡県熱海市の「熱海魚市場」で取り組まれています。
市場と提携する釣り船で釣った魚を市場に引き取ってもらい、周辺で食事や温泉などに使えるクーポンに交換できます。
市場が提携する釣り船は現在3隻。今回はそのうち裕海丸(ひろみまる)さんに乗船してきました。
2018年12月下旬、午前6時15分ごろ。まだ暗い熱海港が集合場所です。
ツッテ熱海は「初心者でも手ぶらで」がコンセプト。取り組みに参加する釣り船はいずれも道具をレンタルでき、使い方も一から教えてもらえるそう。
私も持参したのはタオルと飲み物だけ。
港に車を停め、出迎えてくれたのは副船長の押切貴美子さん。船長は押切さんのおじの伊藤年秋さん。伊藤さんは熱海一のタイ釣り名人だそう。これは期待できます。
東京都太田区から旅行で熱海に来ていた柳原弓恵さん(46)、大希君(10)も一緒に乗船しました。
7時前、いざ出港です。水平線に日の出が見えました。
15分ほどでポイントに到着。
さあ、釣りスタートです。レンタルした電動のさおの動かし方やエサの付け方、仕掛けの落とし方などは押切さんが3人につきっきりで丁寧に教えてくれます。
水深はおよそ70メートル、マダイが狙えるポイントとのこと。えさのエビをつけた仕掛けを底まで落としてから1~2メートルほど上げたところで待ちます。しばらくしたら上げ、またエサを付けて落とす、を繰り返します。
熱海の街並みを眺めながらゆっくり待ちます。
滋賀県出身の記者は子どものころ、よく父親や友人たちとブラックバスやブルーギルを釣りにでかけていました。大学生になってからは時々、海釣りをするようになりましたが、働き始めてからはほとんどしていません。電動のさおを使うのも初めてです。
しばらくすると、船長のさおに当たりが。大希君が釣り上げました。小ぶりのマダイです。
私も気合を入れ直しますが、その後も当たりはきません。
「マダイはいるけど、今活性が悪い」とのことなので、次はアマダイが狙えるというポイントへ移動しました。
「記者さんきてるよ!」
そう言われ、あわてて引き上げます。
小さいです。ベラという魚で市場では引き取ってもらえないとのこと。
少し焦ってきました。釣れなかった場合、記事にできるのか……。
それを察してか、「必死に釣ろうとする人ほど釣れないですよね」と押切さん。余計に焦ります。
無になろうと待っていると、また当たりが来ました。引き上げると、少しこわい見た目の魚が釣れました。大きいです。
「これはオニカサゴ。珍しい。なかなか釣れないし、おいしいよ。サイズも大きい」と船長。
市場にも売れるそうです。なんとか、安心です。しかしせっかくなのでタイを釣りたいです。
弓恵さんはアマダイをゲット。大希君はアマダイのほか、特大のカワハギまで釣り上げています。
粘りましたが、私のさおにタイはかからず、11時ごろ、タイムアップ。
釣果はオニカサゴ1匹、ベラ1匹。船長が釣り上げたアマダイを1匹いただきました。
ここで参加証明書というものを渡されました。
<釣った魚は釣り船スタッフの指示に従いすぐに氷締めや必要に応じて血抜きを行います>
<釣りが終わったらすぐ熱海魚市場へ釣った魚を持っていきます>
これらの項目にチェック。釣り人、釣り船の両者が署名します。
一般の人の口に入る魚なので、こうして品質を保証しているということです。
釣った魚をクーポンに代えるために、熱海港から車で数分の熱海魚市場まで持っていきます。
魚を持っていくと市場の方が魚種ごとに分けてくれます。買い取り価格は時期や魚種によって変わるそう。この日はアマダイ、オニカサゴともに1キロあたり1400円の買い取り価格でした。
計測するとオニカサゴが800グラム、アマダイは300グラムでした。計1500円分。うーん、もう少し釣りたかったです。
1500円分のクーポンを受け取りました。
さあ、これをどこで使うか。現在、利用できる店はレストランやお土産屋、温泉など18店舗です。
お腹が減ったのでランチにします。少し離れた網代にある焼き肉屋「とんがらし」に行きました。
1480円のハラミ定食を注文。おいしくいただきました。
釣った魚を自分で食べたいという思いもありましたが、魚をさばいたことはないですし、さばけたとしても、タイとカサゴ合計1.1キロは一人では食べきれなかったと思います。
自分で釣った魚を食べる――。それが釣りの醍醐味ですよね。でも釣った魚をどうすればいいのかわからないというのが、釣りへのハードルを上げている部分もあると思います。
この取り組みは、市場が提携する釣り船で釣った後、市場に持ち込むだけで、お金と同じ価値のクーポンに代えてもらえます。釣った後のことを心配しなくていいという点で、釣りへのハードルを大きく下げてくれる取り組みではないでしょうか。
たくさん釣れた時に、食べる分だけ持って帰り、残りはクーポンに代える、といった使い方もできそう。熱海に観光に来ていて、釣りをしたいけど、魚を持ち運べないという人たちにもぴったりかもしれません。
釣った人はクーポンで熱海を楽しめる。買い取る市場としても扱う魚が増える。クーポンを使うことで地域も潤う。
まさに「三方良し」の取り組みだと感じました。
ツッテ熱海は昨年9月に始まったばかり。今後、提携する釣り船を増やしていくそうです。
もっとクーポンが流通し、釣りを通じて熱海の経済が盛り上がれば、地域活性化の一つのモデルにもなるかもしれません。
ちなみにクーポンに代えたオニカサゴとアマダイは翌日の競りで4千円ほどで競り落とされたそうです。
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