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2019年01月29日

「茶髪」にざわついた、あの頃の日本 裁判沙汰、メダルはくだつも

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2000年には、ブームにのって茶髪にガングロのマネキンも作られた=2000年11月、大阪市西区のディスプレー会社で

2000年には、ブームにのって茶髪にガングロのマネキンも作られた=2000年11月、大阪市西区のディスプレー会社で

出典: 朝日新聞

 平成時代にファッションとして受け入れられてきた「茶髪」。かつては不良の象徴のように扱われ、平成が終わろうとする今では信じられないような出来事もありました。「潮目」が変わったのはいつか? 「茶髪」にざわついていた「あの頃の日本」を振り返ります。(朝日新聞記者・日高奈緒)

「髪が茶色」とメダルはく奪

 中学生の陸上競技大会で優勝した生徒の髪色に物言いを付け、優勝メダルをとりあげる。1994年には、そんな出来事が報じられました。

<静岡県榛原(はいばら)郡内の中学校十校が参加して八月上旬、同郡榛原町であった陸上競技大会(同郡中学校体育連盟主催)で、男子八百メートルに出場し、優勝した二年生が「髪の毛が茶色い」という理由で、優勝メダルをはく奪され、失格となったことが二日、明らかになった。同県中部教育事務所は「大会運営者側の措置に行き過ぎがあった」として、大会会長を務めた中学校長らに注意したという。>

出典: 1996年2月7日付朝日新聞東京本社版 ※記事の一部を加工しています

 後日、大会を主催した郡中体連の会長は朝日新聞の取材に「Jリーグにも赤い髪の選手はいるが、学校現場では、一般的に正常な生活を送れない子に多い」「制裁ではなく、教育的指導だ」と答えています。

 当時は「茶髪=不良→指導の対象」という図式が根強いことがわかります。

 なお、批判を受けた郡中体連は後日メダル返還を決めましたが、続報には「生徒の家族は受け取りを辞退させる意向」とありました。茶髪に過剰反応ともいえる指導は、なんとも後味の悪い結果を残しました。

1994年11月3日付朝日新聞朝刊東京本社版

1994年11月3日付朝日新聞朝刊東京本社版

「西洋へ劣等感示す茶髪主義」

 一般の人は茶髪についてどう思っていたのでしょうか。

 1995年2月、「声欄」に載った読者からの投稿は、茶髪にする若者には「西洋人に対する根強いコンプレックス」があると指摘。「日本人、東洋人としてのアイデンティティーを大切にしてほしい」と主張しています。

 一方、この主張には反対の意見も掲載されました。投稿では髪の色を変えるのは「お化粧と同じ感覚」と反論。ヨーロッパでは髪を黒く染める人がいることをあげ「上下意識はない」と述べています。

警察署長と次長、飲み屋で客や店主に乱暴

 茶髪を巡っては、警察幹部による「事件」も起きています。

<北海道警函館方面本部は六日、飲食店で泥酔し、客や店主を乱暴したなどとして、木古内(きこない)署の署長の警視(五一)と、次長の警部(五五)の二人を諭旨免職処分にした、と発表した。方面本部は二人をさらに調べ、暴行、傷害が確認できれば、書類送検する。同本部監察官室の調べでは、二人は五日午後九時ごろ、同署管内の渡島支庁木古内町内の飲食店で飲酒していた際、客として居合わせた顔見知りの会社員(二〇)が茶色の髪をしていたことから、署長が「なぜ、今の若者は髪を染めるのか」などと言って、ジョッキに半分ほど残っていたビールを頭からかけた。>

出典: 1996年2月7日付朝日新聞東京本社版 ※記事の一部を加工しています

 警察署長が一般市民に暴力を振う。なんと原因が茶髪でした。酔っていたとはいえ、普段から茶髪をよく思っていなかったのでしょうか。

 後日、この事件をとりあげた朝日新聞のコラム「天声人語」は、次のようにつづっています。

<なにも腹を抱えることはないじゃないか、と思う。「ちゃはつ」といったら、若い同僚に笑われた。「ちゃがみ?」と言い直したが、不合格。「ちゃぱつ」だという▼漢字で書けば「茶髪」である。「ほら、金髪(きんぱつ)、銀髪(ぎんぱつ)っていうじゃないですか」と同僚。それなら白髪(はくはつ)というじゃないか、緑の黒髪(くろかみ)ともいうぞ、とつぶやく。心の中で。その茶髪がきっかけで、警察署長と次長が諭旨免職になった▼(中略)ただし、この話、署長の気持ちが多少わからなくもない、という人もいるだろう▼たとえば、ヤクルトの野村監督である。先日、選手の茶髪だけでなく長髪、ひげを禁止した。「見ていると気が散り、負けるとそいつが悪いように感じる」からだそうだ。(中略)▼高校、大学生の世代では、珍しくもないスタイル。年配の女性でも、黒以外の色に染めている人は少なくない。その女性が、若者の茶髪にはマユをひそめたりする。>

出典: 1996年2月8日朝日新聞朝刊東京本社版

 茶髪を「ちゃぱつ」と読むのは、当たり前でなかった時代もあったんですね。コラムからは、茶髪にすることが市民権を得始めたのがこの頃だともわかります。

1996年2月8日朝日新聞朝刊東京本社版

1996年2月8日朝日新聞朝刊東京本社版

「茶髪」許せる?許さん? あなたはどちら?

 90年代半ばをこえると、茶髪に好意的な記事も書かれるようになっています。

<最近、ヘアが話題だ。ヌードではなく、頭のほう。髪を染めた「茶髪(ちゃぱつ)」の若者が街にあふれている。ひと昔前なら不良のイメージが強かったが、今やごく普通のヘアファッション。とはいえ「緑の黒髪」に対する思い入れがある年配者ほど、抵抗感も強い。北海道では、若い男性の茶髪に怒った五十代の警察署長が、その頭にビールをかけたことからクビになる事件まで起きた。>

出典: 1996年4月12日付朝日新聞夕刊西部本社版

 北海道の茶髪事件はよっぽど話題になったのでしょう。茶髪の是非を問うこの記事では、茶髪賛成派、反対派からの意見が紹介されていますが、賛成派の意見の方が論理的に聞こえる読後感を残します。

 例えば茶髪にしている北九州市の公務員男性(22)。

「おっちゃんたちは『そんな格好しよって相手がまじめに聞いてくれよんのか』と言うが、自然のままにせえと言うなら白髪染めもおかしい」

 ド正論。ぐうの音も出ません。

1996年4月12日付朝日新聞夕刊西部本社版

1996年4月12日付朝日新聞夕刊西部本社版

「茶髪でクビ」ダメ 元運転手の復職命じる

 茶髪は風紀を乱すのか。そんな問いに司法が答えたこともありました。

<「茶髪は社内の風紀を乱す」との理由で解雇されたのは不当だとして、北九州市小倉南区長尾四丁目、元トラック運転手(二五)が商事会社を相手取って、地位保全と解雇後の給料約四十万円の支払いを求めた仮処分申請で、福岡地裁小倉支部の榎下義康裁判官は二十五日、「解雇権の乱用で無効」として運転手の主張をほぼ全面的に認める決定をした。(中略)決定は、「一般に企業は秩序の維持を名目に、髪の色など労働者の自由を制限する場合、円滑な運営上必要かつ合理的な範囲にとどめるべきだ」と指摘。(中略)「解雇は著しく不合理で、社会通念上、是認できない」と結論づけ運転手の地位保全を認め、会社側に給料約二十六万円の支払いを命じた。>

出典: 1997年12月26日朝日新聞朝刊西部本社版 ※記事の一部は加工しています

1997年12月26日朝日新聞朝刊西部本社版

1997年12月26日朝日新聞朝刊西部本社版

文化人も激論

 最後に、時代の最先端を行く文化人が茶髪批判に喝を入れた対談をご紹介します。

 作家の吉永みち子さんは「別に何とも思わない」。作詞家の阿木燿子さんは「男性側の幻想から女性が解き放たれつつある」と論じています。

 ――「茶髪」が目立ちます。印象や感想は。

 吉永「別に何とも思わない。おお! カラフルになってきたなという感じで。茶髪ということで、大きな意味を持たせる部分ってあるでしょ。この子は不良になっちゃった、当たり前のところからちょっとはずれてしまったみたいな。髪の毛染めたんですか、と重大にいう人いますが、全然、思わなくて」

 阿木「髪の毛の色を問題にするのは、日本人は共通認識で、髪の毛は黒いものと勝手に思い込んでいるからですよね」

(中略)

 吉永「金髪は、日本人にとっては、異文化なんですよ。黒いものをもらった日本人のあかしを茶色く染めるのは何ごとぞ、みたいな意識もあって。大げさにいえば、一つの共同体幻想に石を投げるヤバイやつというシンボルだったんでしょうかね」

(中略)

 阿木「日本人が持っている黒髪に対する幻想というか、あこがれのイメージって根強くあると思うんです。とくに男性は基本的に長くて黒い髪の女性が好きですよね」

 阿木「だからいままで、長い黒髪がもてはやされてきた。それがこのところ少しずつ、そんな男性側の幻想から女性が解き放たれつつあるのではないかという気がします」

出典: 1996年7月27日朝日新聞朝刊東京本社版

 日本人論から、フェミニズムまで。茶髪をめぐる問いは、なかなか奥深いです。

 

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