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お金と仕事

「とりあえずビールをなくしたい」ヤッホーブルーイング社長の野望

ヤッホーブルーイング 井手 直行 社長=高橋 雄大 撮影
ヤッホーブルーイング 井手 直行 社長=高橋 雄大 撮影

目次

 コンビニなどで時折見かける、個性的なビールがあります。「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」。一見ビールらしくない商品名のクラフトビールをつくっている「ヤッホーブルーイング」。好調の秘密は熱狂的なファンの存在です。

 売り手、買い手の関係を超えたイベント「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)」には5000人ものファンが集まりました。「『とりあえずビール』をなくしたい。」そう語る社長の井手直行さんに、個性派ビール会社の野望を聞きました。
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ヤッホーブルーイング 井手 直行 社長=高橋 雄大 撮影
ヤッホーブルーイング 井手 直行 社長=高橋 雄大 撮影

13年連続で右肩上がり

 先日、日本で初めてコトラーアワードが開かれました。
 最優秀賞に選ばれたのが「ヤッホーブルーイング」です。1994年をピークに出荷量が下がり続けるビール業界で、13年連続で右肩上がりを続けています。
 
コトラーアワード 授賞式の様子
コトラーアワード 授賞式の様子 出典:ヤッホーブルーイング
コトラーアワードとは?

 “マーケティングの神様”と評されるフィリップ・コトラー氏が、全世界で開催する「Kotler Award」。NewsPicksが主催のもと、日本初の開催となる「Kotler Award Japan 2018」では、「経営にマーケティングの力を」コンセプトに、Kotler Impact Inc, と協力し、デジタル時代における”企業のエンジン”となるべきマーケティングを実行する企業や人にスポットを当て、市場を創造する、Wow!を生み出すなどの日本の優れたマーケティングを表彰する取り組みとなります。今年度の開催予定国はアメリカ、チリ、ボリビア、カナダ、イタリア、バーレーン、シンガポール、トルコ、インド、韓国となっております。
コトラーアワードジャパン2018

「ファンイベント」をはじめとした関係づくりを重視したマーケティング活動

――どうしてアワードに募集しようと思ったのですか?
 
 実は私から個別に何かを指示したということはないんです。応募すると担当者から聞いた時はダメもとで『やってみればいいんじゃない?』という感じでした。ただ、担当者は本気で受賞しようと熱い思いを持ってがんばってくれました。
 担当者は、コトラーが提唱するマーケティング4.0の考え方が、ヤッホーの取り組んできたファンづくりの活動にフィットすると考えたときいています。
超宴2018 開場前のメインステージ前で円陣を組む
超宴2018 開場前のメインステージ前で円陣を組む 出典:ヤッホーブルーイング
――ヤッホーブルーイングが最優秀賞を獲得できた要因は何だったのでしょうか?
 
 今回評価されたのは、2010年代から取り組んできた『ファンイベント』をはじめとしたファンとの関係づくりを重視するマーケティング活動だと認識しています。
 
 『宴』という社員とファンとの交流を目的としたイベントを実施してきました。最初は40人程度のファンが集まったイベントでしたが、回を重ねるごとに、だんだん人数が増えていき、今年開催した『超宴』では5000人を動員する規模になりました。

 参加したお客様が『行ってよかった~』『また行きたいな~』くらいの満足度ではなく、『もう最高!』『来年も絶対行くぞ!』という圧倒的な満足レベルのイベントを本気で社員と目指したことが差別化できた一因だと思います。
超宴2018 乾杯の様子
超宴2018 乾杯の様子 出典:ヤッホーブルーイング
 縮小するビール市場において、消費者の要望に応えることで、業績を急拡大している現状も評価いただいたのではないかと思います。
 ビールを提供するだけでなく、イベントなどのエンターテイメントや、ビールを楽しむ空間や機会を提供していることが、業績を拡大している一因とも言えると思います。
 
 受賞に際してネスレの高岡代表取締役社長兼CEO評価もいただきました。イベントが例え赤字だったとしても、それによってできたお客様とのつながりによって更なる高みを目指していけると信じています。
超宴2018を楽しむ人 =合田 但 撮影
超宴2018を楽しむ人 =合田 但 撮影
――原動力はなんだったんでしょうか?
 
 10本買ったらプレゼントがあたる!といった施策を実施しても、キャンペーンが終わったら売上は下がってしまいます。
  いつかは理解してくれるような、じわじわ効いてくるような施策を継続して実施してきたことが支持されてきて、拡大につながっているのだと思ってます。値引きするための原資もないですしね!
ヤッホーブルーイング 井手 直行 社長=高橋 雄大 撮影
ヤッホーブルーイング 井手 直行 社長=高橋 雄大 撮影
 大手さんのような仕掛け方や活動はできません。なのでお客様が純粋に喜んでくれる取り組みを実施してきました。
 実際に、喜んでいただけたお客様が、イベント後に主体的によなよなエールを広めてくれる姿を見て、会社の成長へのつながりを確信しました。

企画の原動力は「お客様の声」と「多様性」

――このような面白い発想が社員から出てくるのはなぜでしょう?
 
 部門ごとの縦割りではなく、プロジェクト制で実施している点だと思います。いろいろな部門の人が集まって議論することで、多様な意見を集めることができ、その中で優れたものを突き詰めていくことができます。
 
 これが恐らく、広告代理店さんにお願いすると、『感動レベル』の企画があがってることは難しいのではないかと思います。
 もちろんプロなのでネガティブポイントはなく、高いクオリティで安定的に開催できるというポジティブな点はありますが、自社でゼロから手がけることで差別化につながっています。
超宴2018 家族で楽しむ様子=合田 但 撮影
超宴2018 家族で楽しむ様子=合田 但 撮影
――来年に向けて、考えていることは?
 
 年々ファンの方が増えてきているので、もっと多くの人にこういう楽しみを伝えていきたいです!

 少し規模を小さくして2~3日にわけて開催するのも有りかなと思ってます。広い会場で米粒のようなサイズで我々が何かやっているのを見て頂くよりも、間近で見てもらいたいと思ってます。

目標は世界一「熱狂的なファン」がいるビールメーカー

――今後取り組みたいことは?

 現在は、コンビニだとローソンさんでしか提供できておらず、まだ全国どこでも『よなよなエール』が手に入る状況には至っていません。
  また、地方に比べると取り扱いが広がっている都内のスーパーでも『よなよなエール』はあっても『インドの青鬼』を置いてるお店は少なかったりして…理想と現実のギャップを感じているところです。

 どこでもバラエティ豊かなビールが手に入り、たくさんの人が日常的に楽しめる状況にしていきたいというのが我々の思いです。
ヤッホーブルーイングの商品=高橋 雄大 撮影
ヤッホーブルーイングの商品=高橋 雄大 撮影
――5年後、10年後のビジョンは?

 いま、日本でもようやくクラフトビールの認知があがってきました。ただ、どこでも買えるという状況ではないです。
 世の中にクラフトビールが『当たり前』の世界になる『礎』は5年あれば作れるのではないかと思っています。言い換えるとビール文化を変えるきっかけ作りです。

 居酒屋で、『とりあえずビール!』と言ったときに『「よなよなエール」はいかがですか?苦みの強いIPA(アイピーエー)もありますよ』といった具合にビールの種類を聞かれるのが当たり前になっていればいいなと思いますし、そうしたいなと思います。
出典:ヤッホーブルーイング

つくり手と飲み手は「仲間に」

――つくり手と飲み手の関係はどうなっていくでしょうか?

 お客様=神様ではなく、対等な関係に近いと思います。

 我々はビールのおいしさと場を提供する。お客様がそれを飲んで楽しみ、少し幸せになる。他の人と共有し幸せな空間ができる。という状態になっていけばいいなと思います。
参加者とヤッホーブルーイング社員がみんなで踊る、よなよな超盆踊り
参加者とヤッホーブルーイング社員がみんなで踊る、よなよな超盆踊り 出典: ヤッホーブルーイング
 それって、ただ立場が違うだけで、我々とお客様はビールを飲んだ先にある『人とのつながり』や『幸せ』を一緒に広げていく仲間なんじゃないかと。

 ただ、10年前にはこのような状態すら想像できていなかったので、もしかしたらこの先は今は想像もつかないような新しい関係が築けているかもしれませんね。

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