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2018年12月11日

木彫り熊の「第1号」サケくわえていなかった!「2つ」の起源に迫る

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定番のシャケをくわえた木彫り熊

定番のシャケをくわえた木彫り熊

出典: 北海道八雲町の町木彫り熊資料館

 北海道のお土産として、かつて絶大な人気を誇った「木彫り熊」。みなさんも、実家や親戚の家で一度は見たことがあるのではないでしょうか。サケをくわえた熊のイメージが強いですが、これは観光ブームで量産されたデザインなんです。「第1号」とされる作品は、意外な姿をしていました。人気漫画「ゴールデンカムイ」でアイヌ民族に注目が集まっていますが、「木彫り熊」とはどんな関係があったのでしょうか。北の大地で生まれた工芸品の魅力に迫りました。

「木彫りの熊」源流は2つ

 木彫り熊は、昭和30~40年代の北海道観光ブームで全国に普及しました。一説には「世界で一番売れた彫刻品」と言われるほど、人気がありました。
 
 当時は保存技術が今のように高くなく、海産物や農産物のお土産は主流ではありませんでした。アイヌ民族の手仕事のイメージが強い木彫り熊は、「北海道に行ってきましたよ!」とご近所に自慢するには最適のお土産でした。

 そんな木彫り熊は、なぜ北海道でつくられ、広がっていったのでしょうか。実は、アイヌ民族だけじゃない、2つの源流があります。

 発祥の地の一つが、北海道函館市から車で約1時間半の場所にある八雲町です。全国で唯一日本海と太平洋の海に面している町です。


 ここは、明治初めに旧尾張藩士が開拓し、尾張徳川家19代当主の徳川義親(よしちか)(1886~1976)が農場を経営していました。

 過酷な長い冬がある北海道。義親は、農業ができない時期に、木彫りの工芸品作りを冬の副業とするよう農民に勧めました。欧州旅行でスイスを訪問した際、現地の農民が作った土産品の木彫り熊を手に入れ、思いついたそうです。

徳川義親=北海道八雲町の町木彫り熊資料館提供

徳川義親=北海道八雲町の町木彫り熊資料館提供

 そうして1924年にできた「第1号」は、八雲町の農民・伊藤政雄が、スイス土産の木彫り熊とそっくりに制作しました。

 この「第1号」は、現在の木彫り熊の特徴とはちょっと違います。手のひらサイズで、毛並みも穏やか、目には釘が使われました。木彫り熊といえば口にくわえた「サケ」ですが、実は「第1号」は何もくわえていません。この姿は、今でも八雲町にある町木彫り熊資料館で見ることができます。

北海道第1号のモデルとなったスイスの木彫り熊(左)、スイスの木彫り熊を参考に伊藤政雄が制作した第1号の木彫り熊=北海道八雲町の町木彫り熊資料館(八雲産業が管理)

北海道第1号のモデルとなったスイスの木彫り熊(左)、スイスの木彫り熊を参考に伊藤政雄が制作した第1号の木彫り熊=北海道八雲町の町木彫り熊資料館(八雲産業が管理)

 八雲産の木彫り熊は評判が広がり、農民たちは研究会を設立するなど熱心に木彫り熊を制作しました。その情熱はすさまじく、木彫り熊制作のために本物のヒグマを檻の中で飼っていたほどでした。

 もう一つの源流は、北海道旭川市で、アイヌ民族が制作した木彫り熊です。

 アイヌ民族は元来、食器や狩猟具などの生活用具に小刀で彫刻を施していました。そのうち、そうした木工製品を扱う商人が現れ、木工製品が売れるようになりました。
 
 こうした流れの中で、アイヌ民族の松井梅太郎(1901~1949)が1926年、熊に襲われて大けがをしたことが転機となります。熊狩りができなくなってしまった梅太郎ですが、熊への思いが募り、木彫り熊を制作するようになりました。

 八雲の作品にも触発されながら、技術が発展。職人が多く育ち、道内各地に指導へ出向き、技術が広がりました。

木彫り熊の歴史

木彫り熊の歴史

サケだけじゃない、擬人化まで……

 やはり木彫り熊と聞くと、サケをくわえた四つんばいの姿が一般的ですが、その作風は様々です。

 ヒグマの荒々しい自然の姿をそのまま再現したものも多いですが、サケを背負ったり、音楽を奏でたり、バットを持ったり……擬人化された熊もいます。

1957年に制作された、アイヌ民族の床ヌブリ(1937~2014)の作品。サケを背負っている=北海道八雲町の町木彫り熊資料館

1957年に制作された、アイヌ民族の床ヌブリ(1937~2014)の作品。サケを背負っている=北海道八雲町の町木彫り熊資料館

昭和初期に制作された、バットを振る木彫り熊=北海道八雲町の町木彫り熊資料館(八雲産業が管理)

昭和初期に制作された、バットを振る木彫り熊=北海道八雲町の町木彫り熊資料館(八雲産業が管理)

 木彫り熊を分類した著書「北海道 木彫り熊の考察」(山里稔、かりん舎)には、280種類もの個性豊かな木彫り熊の写真が収められています。
 

熊の音楽隊=八雲町木彫り熊資料館提供(八雲産業が管理)

熊の音楽隊=八雲町木彫り熊資料館提供(八雲産業が管理)

 熊を彫る技術は道内で発展し、芸術性も豊かになりました。

 例えば、八雲町で制作の指導をした十倉金之(1883~1943)は、画家の川合玉堂(1873~1957)に師事して日本の絵画を学び、その表現を持ち込みました。盛り上がった熊の肩から、花びらのように広がる毛並みは「菊型毛」と呼ばれます。繊細な毛を彫った木彫り熊の見本となりました。

日本画家でもあった十倉金之(1883年生まれ)の木彫り熊。=北海道八雲町の町木彫り熊資料館

日本画家でもあった十倉金之(1883年生まれ)の木彫り熊。=北海道八雲町の町木彫り熊資料館

 木の素材を生かし、抽象的に表現した柴崎重行(1905~1991)の作品は、江戸時代の僧、円空が彫った仏像に似ていると言われています。今も高値で取引され、偽物が出回るほどなのだそうです。

柴崎重行の木彫り熊、木の素材を生かした優しいフォルムをしている=北海道八雲町の町木彫り熊資料館

柴崎重行の木彫り熊、木の素材を生かした優しいフォルムをしている=北海道八雲町の町木彫り熊資料館

 多種多様な木彫り熊。実は、朝日新聞の北海道支社にも「朝日新聞をくわえた」木彫り熊がいます。1960年代後半、吹雪の中、新聞配達員が口にくわえて四つんばいになって新聞を配達したという逸話から作られたそうなんです。

 本当に口にくわえて配達をしていたかはさておき…過酷な吹雪の中での配達を想像するだけで頭が下がります。この木彫り熊、もちろん新聞部分も紙ではなく木で彫られていますよ。

朝日新聞をくわえた木彫り熊=札幌市の朝日新聞北海道支社

朝日新聞をくわえた木彫り熊=札幌市の朝日新聞北海道支社

「消費」されてしまった、木彫りの熊

 作家性の高い作品が生まれた一方で、観光ブームにより機械で作られた粗悪な土産品が各地で量産されました。重くて大きい木彫り熊は、いつしか、もらったら嫌な土産「いやげもの」なんて言われるようになってしまいました。

 札幌市立大学の上遠野敏教授(現代美術家)は「機械化で形骸化してしまった結果、土産物の嫌われ者になってしまった」と分析します。

 今は木彫り熊を専業で彫る作家も少なく、担い手がほとんどいません。「最後の熊彫り職人」と名乗った、アイヌ民族彫刻家の藤戸竹喜(たけき)さん(享年84)も今年の10月に亡くなりました。
 

高い描写力で動物やアイヌ民族の人たちなどを木に刻む木彫家・藤戸竹喜(1934年生まれ)の木彫り熊=北海道八雲町の町木彫り熊資料館

高い描写力で動物やアイヌ民族の人たちなどを木に刻む木彫家・藤戸竹喜(1934年生まれ)の木彫り熊=北海道八雲町の町木彫り熊資料館

 絶滅危惧種状態になってしまった木彫り熊ですが、再評価の動きも起こっています。

 スタイリストらが活動に賛同する「東京903(くまさん)会」は3年前に発足し、SNSで木彫り熊の画像を発信したり、手ぬぐいやTシャツなど木彫り熊関連のグッズを制作したりしています。主宰する編集者の安藤夏樹さんは「北欧インテリアなどに合う。まだまだ可能性があると思う」と話します。

 ほかにも、インスタグラムやツイッターを見ていると、木彫り熊を色づけしてポップに生まれ変わらせた作品や、3Dプリンターで制作した木彫り熊もあります!新しい楽しみ方もあるようですね。

東京903会が制作している木彫り熊グッズ

東京903会が制作している木彫り熊グッズ

出典:東京903会のインスタグラムより

取材を終えて

 木彫り熊は、「世界で一番売れた彫刻」の一つとも言われています。どうしてこんなに人々を引きつけたのか。ただのお土産ものでは収まりきらない、芸術性の高さが理由の一つにあるのではないかと取材していて思いました。

 再評価の動きがあるとはいえ、まだまだ絶滅危惧種状態。「実家にあったね、懐かしい」で終わらせず、みなさん押し入れの奥にあるかもしれない木彫り熊を発掘し、改めてその魅力に触れてみて下さい。
 
 取材を機に筆者の実家で探してみたところ、なんとピアノの上と応接間の飾り棚に1体ずつありました!いずれも、両親が新婚旅行で購入したものだそうです。よくこれを持ち帰ってきたなあ…と感心しました(笑)

多彩すぎ!「木彫り熊」のディープな世界 音楽隊やバッターまで… 
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スイスの木彫り熊を参考に伊藤政雄が制作した第1号の木彫り熊。目には釘は使われている=北海道八雲町の町木彫り熊資料館(八雲産業が管理)
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