連載
#50 平成家族
外食で娘が発作「自分のせいだ」 抱えた罪悪感、救ったママ友の言葉
増加傾向にあると言われる子どもの食物アレルギー。ショック症状が起こると生命に関わるだけに、食材に神経をつかいながら日々食事づくりに追われる親も少なくありません。ある母親が、気が休まるひとときを知ったきっかけは、ママ友からの情報でした。(朝日新聞記者・松本千聖)
カラフルなお皿に盛り付けられたカレーライスや、米粉パンが添えられたハンバーグ。週末のファミリーレストランは、東京都に住む女性(36)が、夫と、3人の子どもたちとともに一息つけるかけがえのない場です。
小学1年生の長女(7)は小麦と卵、幼稚園に通う長男(4)には牛乳などのアレルギーがあります。ファミレスでもこのチェーンは卵や小麦などを使わないメニューがあるので安心できます。
以前は子どもたちを連れての外食は考えられませんでした。
長女が1歳になり、大手人材会社に勤めていた女性が育児休暇からの復職を考え始めていたある日、異変が起きました。
長女の首にじんましんが出て、みるみるうちに背中や顔にも腫れが広がりました。かゆさで泣き叫んでいます。
「何が起きたの?」。焦りで手が震え、救急車を呼びたくても「119番」を思い出せないほど。長女は息をするのも苦しそうです。ようやく近所の人の助けを借りて呼んだ救急車に乗せられると、長女は意識を失いました。
「自発呼吸はしているから、名前を呼んで」と救急隊員に言われ、名前を呼び続けました。病院に着いた時、長女が小さな泣き声をあげました。
「助かったんだ」。震えが止まりませんでした。長女は小麦アレルギーで、たまたま落ちていた小麦製品を間違って口に入れたことでアナフィラキシーショックを起こしていました。
病院で処置を受けて無事に退院したものの、生命に関わる事態でした。「この状態で保育園には預けられない」と感じました。その後生まれた長男も、牛乳などのアレルギーがあり、復職はあきらめました。
アレルギーがある2人を育てるのは、想像以上に大変でした。3食とも手作りが基本で、外出していても毎日午後3時までに帰宅し、夕ご飯を準備します。米粉で作る唐揚げや、つなぎに卵を使わないハンバーグ……。工夫を凝らしました。
疲れていても、総菜や外食で済ませることはできません。加工食品にはアレルギーの原因となる主な食材の明記が法律で義務づけられていますが、量り売りの総菜や外食では決まりがないためです。
週末に遊びに行くにも、お弁当の用意が必要。「お出かけも大変なんだよ……」。思わず、子どもにあたってしまうこともありました。
「アレルギーのある体に産んでしまったんだから、私がすべて面倒を見なきゃ」。そう自分を責める一方で、ふとこう思うこともありました。「このまま、子どもにかじ取りされる人生なの?」と。
「そんなに大変なら手作りじゃなくてもいいじゃん。外食しようよ」と夫に勧められました。ですが、女性には、外食に苦い思い出がありました。
家族旅行先での夕食で、女性が長女に小麦の入ったデザートを与えてしまい、アナフィラキシーを起こしたことがあったのです。その時は、たまたま携帯用のアドレナリン「エピペン」と内服薬を部屋に置いたままで、女性もリラックスしてお酒を飲んでいました。
大事には至らなかったものの、「自分が気を抜いたせいだ」と罪悪感にとらわれました。以来、外食は自分で許せないでいたのです。
変わるきっかけは、同じようにアレルギーがある子を育てるママ友との会話でした。「あの店は店員のアレルギーへの対応が丁寧」「ファミレスならここがいいよ」――。外食に関する情報に触れました。
外食企業や飲食店の中には、自主的な取り組みとしてアレルギーに対応するところもあります。全国にチェーン店を構えるファミレスでは、卵や牛乳などのアレルギー患者が多い食材を使わないメニューを置く店も多くあります。
女性が自宅の近くにあるファミレスに確認すると、メニューは工場で作られる段階から厳しく管理され、店舗での調理作業はほとんどないと説明されました。店を訪れると、「低アレルゲン」の子ども向けメニューが2種類あり、子どもたちは写真を見ながら食べたいものを選ぶことができました。
エピペンや薬の携帯は欠かせません。ですが今は、「自分も子どもたちも笑顔になれるなら、こういう日もあっていい」と思えます。この春、再び非常勤で仕事を始めました。毎日のお弁当づくりは続いていますが、疲れた時に外食先があると考えると、気が楽になるといいます。
セブン&アイ・フードシステムズが展開するデニーズや、日本マクドナルドなど、食物アレルギー患者の増加に伴い、対応に力を入れる外食チェーンや企業も増えています。
その一つ、すかいらーくホールディングスは、運営するファミレスのガストやジョナサンで、アレルギーのある子ども向けのメニューを提供しています。卵や小麦など特に患者の多い特定原材料の7品目を使わない「低アレルゲンメニュー」です。
盛り付けには使い捨ての割り箸を使ったり、食器の色を変えたりして、アレルギーを起こす食材(アレルゲン)の混入や誤配を防ごうと心がけています。
これまではハンバーグやカレーなど品数が限られていましたが、今年10月から低アレルゲンメニューを増やす取り組みを一部の店舗で実験的に始めました。アンケートで要望が多かったためです。
実験中のメニューはマグロごはんやタルトなど4種類。しょうゆは大豆・小麦不使用のものを用意しました。子どもに人気のポテトは、フライヤーで小麦製品を扱うためにこれまで提供できませんでしたが、オーブンでほかの食べ物と別にして焼くことでメニューに加えることができました。飲み物は缶入りのみかんジュースがつきます。
「一人でも多くのお客様に食事を楽しんでほしい。アレルギーに関する従業員教育にも力を入れている」とメニュー開発の担当者は話しています。
夫から「所有物」のように扱われる「嫁」、手抜きのない「豊かな食卓」の重圧に苦しむ女性、「イクメン」の一方で仕事仲間に負担をかけていることに悩む男性――。昭和の制度や慣習が色濃く残る中、現実とのギャップにもがく平成の家族の姿を朝日新聞取材班が描きました。
朝日新聞生活面で2018年に連載した「家族って」と、ヤフーニュースと連携しwithnewsで配信した「平成家族」を、「単身社会」「食」「働き方」「産む」「ポスト平成」の5章に再編。親同士がお見合いする「代理婚活」、専業主婦の不安、「産まない自分」への葛藤などもテーマにしています。
税抜き1400円。全国の書店などで購入可能です。
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