コラム
「教室にいる生徒でさえ…」不登校対応に影を落とす教師の長時間労働
近年、問題視されている教師の長時間労働問題。忙しさのあまり教師が「できない」と嘆くこととは…。
コラム
近年、問題視されている教師の長時間労働問題。忙しさのあまり教師が「できない」と嘆くこととは…。
不登校の子どものことを考えたいけど、「時間がない」――。教員を対象にwithnewsが行ったウェブアンケートには、教師の悲痛な声が寄せられました。ある教員の1日を聞くと、休憩時間がないほどの超過密なスケジュールでした。教室にいる生徒たちでさえ十分にコミュニケーションをとれないもどかしさを感じながらも、不登校の生徒に関わり続けたい。そんな教師のジレンマを追いました。
文部科学省の調査によると、2017年度の不登校の小学生は35,032人(1千人あたり5.4人)、中学生が108,999人(同32.5人)でした。少子化で子どもの数は減っているものの、不登校の小中学生の数は前年に比べて約1万人近く増えており、過去最多になりました。
14.4万人という不登校の子どもたちには、担任の先生がいます。不登校について取材するなかで、文科省が不登校指導を「学校復帰のみを前提としない」という方針を示していても、「不登校は担任の責任」とされ、孤立してしまう現場の先生の苦悩が見えてきました。
withnewsが独自に実施した、インターネット上で教員を対象に調べたとしたアンケートには44件の回答が集まりました。アンケートでは、最初に教員であるかどうか自己申告してもらい、不登校についての考えなどを聞きました。
「不登校の生徒への対応について、困ったことがありますか」という質問には、不登校の担任経験がある教員39人全員が「ある」と答えています。
近年、問題視されている教師の長時間労働問題。教師の半数以上が、過労死ラインとされる週60時間以上の勤務を超えていたとの調査もあります。
教員を対象にしたアンケートでは、忙しい業務の中で、不登校の子どもへの対応に悩む教師の声がありました。
「もっと時間があれば学校以外の選択肢を考えたり、サポートしたりできたかもしれない」
そう語るのは中学で教師をしている30代の女性です。これまで担任や学年の担当として、不登校やその傾向がある生徒を見守ってきました。「でも、時間が本当にないんです」
教師の1日とは、どんな生活なのでしょうか。幼い子どもを育てながら働く女性のある1日を教えてもらいました。
起床は5時30分。ただ、これも家に持ち帰った仕事の量によるといいます。仕事が残っていると、それより早く起きる必要があります。
子どもを起こして家事をこなし、7時には家を出ます。8時に学校に着いてからは、教室の状態や連絡事項を確認、授業で使うプリントを印刷します。すぐに職員全体の打ち合わせがあり、終わると学年の打ち合わせ。一息つく間もなく、担任するクラスのホームルーム、1時間目が始まります。
「行事の前には朝練をやろうという提案もあるのですが、現実的にこれ以上早く来るのは無理です。朝練はしない方針で、本当によかった」
女性は担当教科と総合など、1日に4~5コマの授業を行います。「だいたい1コマの空きがあって、2コマ空きがあればいい方」と話します。
空いているコマでは、提出物の整理や小テストの採点、授業の準備をします。連絡なく欠席している生徒がいると、この時間を使って家庭に電話。相談室に登校している生徒がいれば、顔を出します。気付くと、授業が終わるチャイムが鳴っているそうです。
昼休みは生徒の様子を知ることができる重要な時間。教室でしばらく談笑した後は、職員室に戻って次の授業の準備です。午後からは不登校の生徒が相談室に登校することもあり、あいさつに行くことも。
6時間目の授業や帰りの会が終わり、生徒全員が教室から出て行くのを見届けた16時頃、向かうのは部活です。職員室に戻ってくるのは18時半近くになっています。欠席だった生徒の家庭に電話連絡をし、子どもを保育園に迎えにいく時間までに、片付かない仕事は家に持ち帰ります。
家事を終え、子どもの寝かしつけが終わった後、22時頃から仕事に着手。授業準備はもちろんのこと、会議に提出する資料づくりや担当する生徒会の仕事など、やるべきことは山積みです。結局、女性が眠れるのは0時頃。また、翌日は5時半から生活が始まります。
女性によると、教科によっては空きコマがほとんどない教師もいるそうです。この過密スケジュールの中で、不登校の生徒の家にプリントなどを届けに行くこともあります。限られた時間で、女性が考え続けるのは「不登校の子どものために学校に何ができるのか」。
「登校するかしないかではなく、不登校の生徒がどう考え、どうしたいのかに寄り添いたい。場合によっては、フリースクールなどの居場所になりえる機関と連携したいけれど、情報を吟味する時間がないんです」
アンケートからも「不登校の子どもを決して軽く見ていないが、後に後になってしまう(40代女性)」というもどかしさや、「管理職から(対応を)指示されるが、その時間は自分で確保しなければならない(30代男性)」という実情が見えました。
ある教師(40代女性)は「地域との連携、学力向上、新学習指導要領、道徳教科化、いじめ、生徒指導、諸々の研修を背負いながらやっている。不登校の生徒だけではなく、教室にいる子とも関わる時間がない」と嘆きます。
取材した女性にとっても、授業の空き時間に最優先しているのは、担任するクラスの生徒に任意で提出してもらっている「連絡帳」の確認です。日々あった出来事を日記のように生徒に書いてもらっています。時間がかかるのでやらない教師もいますが、女性は「どう頑張っても全員の生徒とは話せないから」といいます。
「突然白紙で提出したり、字に乱れが出たりする生徒もいます。接する時間がなくても、シグナルを見落としたくないんです」
教師の長時間労働問題に詳しい名古屋大学の内田良准教授は「先生が忙しすぎるあまり、不登校の生徒などの個別対応は後回しになっている」と話します。
「教室にいる子どもに対してでさえ、忙しくて時間が割けない。『SOSを見逃していないか』と不安でいっぱいの先生もいます」
部活に費やす時間が長いことが問題視されている中学校。小学校でも2020年に英語やプログラミングなどの教科が必修になり、ただでさえ教師が対応するべきことが多いにもかかわらず、その負担は増すばかりです。一方、生徒指導などの個別対応は時間がとられている訳ではなく、教師個人の裁量に任せられているといいます。
共働き家庭が多いため、昼間の時間帯は保護者には連絡がとりづらく、家庭訪問をするとなると土日に行う場合もあるといいます。内田准教授は「必然的に勤務時間外で対応せざるをえなくなっている」といい、その残業代は、教員に適用されている法律(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)によって支払われることはありません。
「年配の先生などが、プライベートで不登校の子どもと向き合って絆を深めた、と美談として語られることもありますよね。しかしこれは個別の裁量で行われていることであり、やろうと思っても時間がないということを保護者の方にもご理解いただきたいです」
「現状、家庭との連携は教師が担わざるを得ない」としつつも、「新しい対応が必要になるのであれば、学校外の人材を含め人員を追加してすすめる、という議論をするべき」と指摘します。
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