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「婚活界の松岡修造」と呼ばれ…1000組成立コーディネーターの極意
今や自治体でも躍起になって企画している婚活イベント。熊本県在住の、自称「婚活コーディネーター」荒木直美さん(50)は、県内を中心に婚活イベントの企画から司会、進行までをこなし、20年間で成立させたカップルは、今夏で1000組を超しました。11月、同県南阿蘇村であった、阿蘇山をハイキングする婚活イベント「山コン」の後に、その極意を聞きました。答えは、「考えるな。感じろ」。(朝日新聞記者・東野真和)
――今年の「山コン」は男女各40人中、4割の16組もカップルが成立しました
「昨年は5割でした。『山コン』の成立率が高い理由は、山という共通の趣味で集まっているからという人もいますが、私は、自然の中で会話すると『生き方』のような深い話をしたくなるからだと思います。今や女性は自立しているから、男に食べさせて欲しいという人は少ない。むしろ価値観やライフスタイルで男を選ぶ」
「街でやると、どうしても仕事や年収の話になりがちですね。普通の婚活イベントでは、成立率は2割くらいですが、私が手がけると、必ず4~5割は達成させます」
――カップルを成立させる「方程式」ってあるんですか
「ただたくさん人を集めて、場所と食事を用意してもだめです。人数は男女25人~40人ずつが適正。室内のときは部屋の面積も大事です。アウトドアの時は、川を渡るとか畑の畝(うね)をまたぐとか、あえて手を取らせる場所をつくる。ゲームばかりさせずに放置する時間を十分取ることも大事です」
――開始前、レクチャーをするらしいですね
「男女別々に30分します。話し方、相づちのうち方など『就活』と同じようなことから教えます」
「男性は、自信がない人が多いので、気持ちを引き上げてあげないといけない。『大丈夫。女性は男性を待っているよ』と勇気づけてあげます」
「逆に女性は、階段を下りてきてもらわないといけない。女性の方が、しっかりしているしコミュニケーション能力も高い。なので、少し譲歩してもらう。すると、階段を上ってきた男子と、踊り場あたりで出会うんです」
――「ねるとん」と呼ばれていた頃とは大違いですね
「婚活の応募は、だいたい男子は女子の半数しかいない。今回の『山コン』では男子の応募は定員の4倍、女子は8倍でした。最近は男性のみんなの前で告白させないどころか、成立したカップルを発表しないイベントもあります。草食系男子の心が傷つくからです」
「恥ずかしがり屋が多くて、女性と目を合わせられない。『野生の猿じゃないんだから襲って来ないよ』『名札から下に目線を下げるな』『婚活はハートの筋トレだ』と背中を押しています」
――イベントはどんな風に進行させるんですか
「最初、輪になって全員総当たりで1分半ずつ会話をさせます。名付けて『お見合い回転すし』。これでターゲットを数人に絞らせます。そして『○時には、誰がいいか書いて出してもらう』と言っておくと、人はそれに合わせて行動するものです」
「イベント中も声をかけ続けます。婚活の『活』は『喝』だと思っていますから。男子は『女性を一人ぼっちにするのは失礼なことなんだよ』『婚活はスポーツだ。考えるな、感じろ』と。気合を入れる。女子には、『群れるな。サバンナに1頭立つシマウマになれ』と」
「婚活が終わった翌日になって『あの人が良かったから連絡先を知りたい』と言ってくる人がいるが、絶対教えません。参加者には『明日やろうは、バカ野郎』と復唱させます。『職場で男は女の尻を追えないし、女はぶりっ子したら嫌われるだろ。でも婚活イベントはそれが堂々とできるんだから』と」
――アフターケアもするんですか。
「ええ、まず、成立したカップルには連絡先を交換するとき、いつ連絡したら迷惑じゃないか、LINEがいいか電話がいいか、その頻度、最初のデートの日や場所、割り勘かどうかなどをその日に決めるようにアドバイスします。その後も、私の連絡先を教えて相談に乗ります」
「男性がいきなり『好きです』と言うと女性は怖がるので、『もう一度会いたい』と言おう、とか、『ごはん行く? 行かない?』と聞くのではなく『中華か和食か』と言う『どちらもイエス』の誘い方をしようとか。店は、オープンしたてのほうが、知ったかぶりしなくていいのでおすすめですね」
「成立させたカップルの結婚式の披露宴や結納の席にも呼ばれることもあります。仲人を頼まれたこともありますが、さすがに夫を巻き込むのはよくないので断っています」
――なぜ婚活コーディネーターになったんですか
「もともと友達をくっつけるのが好きだったんです。なぜか、この人とこの人は会うんじゃないかというのがわかるんです。高校を卒業して東京で『はとバス』のガイドを5年間した後、故郷の長崎に帰ってハウステンボスでイベント司会をしていた20歳代に、よく合コンを企画していましたね」
「結婚して夫の地元の熊本に来ても司会業をしていたんですが、20年前、婚活パーティーの話が来て『これって私の天職だ』と気付いたんです。今では『歩くパワースポット』『婚活界の松岡修造』『結果にコミットする女』と呼ばれています(笑)」
――婚活イベントはたくさん開かれますが、結婚する人は減っています。
「そうですね。私も、必ず結婚すべきだとは思っていません。SMAPの元メンバーを見ても、結婚しているのはキムタク1人でしょ。平成が終わり、次の時代は、『婚活』でなく、結婚を前提とせず愛する人を捜す『ラブ活』を企画しなくてはと思います。来年、そういう事業をする会社を立ち上げる予定です」
――結婚願望が薄くなったんですか。
「みんながみんなそうじゃない。特に熊本地震後、婚活イベントへの応募がぐっと増え、意気込みも上がりました。参加者に聞くと、『あの揺れの中、一人では怖くて心細い、パートナーがいてほしいと思った』と」
「でもね、行政が税金を投入してまで婚活イベントをしていますが、それは『対症療法』に過ぎません。結婚にちゅうちょする理由を突き詰めて聞いてみると、多くは労働や育児の環境のせいです。男性の自信のなさは非正規雇用などで収入が低かったり安定しなかったりするから。子供をつくらないのは、育てるのにお金がかかるから」
「結婚しろしろ、ではなく、結婚したくなる社会にしていくのが先決だと思います」
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