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パプアニューギニア軍楽隊って? 育てたのは自衛隊 首相も全力PR
南太平洋の島国・パプアニューギニアで11月に開かれた国際会議に、生まれたての軍楽隊が登場しました。ドレミも知らないメンバーもいたところから自衛隊が育てたとあって、安倍晋三首相も全力でPR。晴れ舞台への3年間を動画でたどります。(朝日新聞専門記者・藤田直央)
11月17日、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーであったアジア太平洋経済協力会議(APEC)の歓迎夕食会。安倍首相夫妻を軍楽隊は「ふるさと」で迎えました。「万感胸に迫るものがありました」という首相のツイッターではこんな感じです。
APECに参加するためパプアニューギニアにやってきました。4年ぶりの訪問です。当時は軍楽隊がありませんでしたが、パプアニューギニア政府の依頼を受け、陸上自衛隊が3年かけて立ち上げから全面的にサポートし、昨晩の各国首脳が集うガラディナーで、初のお披露目となりました。 pic.twitter.com/qXw7R4C87z
— 安倍晋三 (@AbeShinzo) 2018年11月18日
パプアニューギニアはこのあたりです。太平洋戦争で日本軍が進駐して激しい戦いがあり、その前後はオーストラリアが統治。1975年に独立を果たしました。国土は日本より少し広いですが、人口は8百数十万人で大阪府より若干少ないぐらいです。その軍楽隊育成になぜ日本が入れ込んだのでしょう。
それはまず、パプアニューギニアでの今年のAPEC開催を助けようというところから始まりました。米中ロも参加するAPECメンバーの21カ国・地域の中でパプアニューギニアはかなり若く、貧しい国で、大きな国際会議の主催は初めてでした。
米紙によると、例えば中国はAPECで使う会議場やそこへの道路の建設を支援。日本はそこまでしませんが移動用のバスなどを提供しました。外国の首脳を迎えた式典などで演奏する軍楽隊を育てることも、APECの運営を助ける一環というわけです。
より大きく言えば、パプアニューギニアがAPECをホストするのを機に、いまだなお途上の国づくりを助けようということがあります。
特にこの隣国を安定させ影響力を保ちたいオーストラリアが2014年、日本に自衛隊も協力してほしいと打診。15年に陸上自衛隊の中央音楽隊による軍楽隊の育成が始まりました。
それでは、3年間のパプアニューギニア軍楽隊の成長ぶりを見てみましょう。それぞれの動画の下に説明を添えます。
2017年1~3月、陸自中央音楽隊の2度目の派遣の様子です。軍楽隊のメンバーらはまだ私服で、楽器の扱いもぎこちない感じ。それでも陸自隊員らの指導で音階を確かめ、楽譜を読み、リズムをとり、2ヶ月後には軍司令官の前で「きらきら星」を奏でます。
2017年8~10月、陸自中央音楽隊の3度目の派遣になります。軍楽隊のメンバーらは制服を身につけ、パプアニューギニア国歌と「君が代」を演奏。指揮と楽譜を交互に見ながら真剣そのもので、見守る陸自隊員はうれしそうです。たまに音を外す人もいますが…
今年7~8月、5度目の派遣となった陸自中央音楽隊は、11月のAPEC首脳会議へ仕上げに入ります。吹奏楽らしいテンポが出て、メンバーらの自信が伝わってきます。行進しながらの練習もあり、軍楽隊らしくなってきました。
そして、11月17日の晴れ舞台、ポートモレスビーでの各国首脳の歓迎夕食会での演奏です。この首都と、陸自中央音楽隊のある朝霞駐屯地を互いに行き来しながら軍楽隊を育ててきた陸自隊員らが見つめます。
各国の協力が大事な国際会議の場ということで、どこかの国歌を勇ましく演奏するのではなく、地元で愛される落ち着いた曲を奏でました。リズムよく、抑揚も効かせ、穏やかなハーモニーで歓迎ムードを醸し出しました。
キリスト教が中心のパプアニューギニアでは賛美歌がよく歌われます。指導にあたった陸自中央音楽隊の蓑毛勝熊1尉は、「みんなハーモニーの素養があり、楽譜の読み方を理解すると見違えるように上達しました」と軍楽隊の成長を喜びました。
安倍首相はこの日のパプアニューギニアとの首脳会談で軍楽隊育成を取り上げ、こうした「能力構築支援」を進めると表明。オニール首相は感謝しました。
「能力構築支援」は日本の防衛政策の指針である「防衛計画の大綱」で2010年に初めて記されました。災害対応や海洋の安全、国連平和維持活動(PKO)などで自衛隊が各国軍の人材育成に協力する活動です。
ただ、「アジア太平洋の安定」が狙いなので、対象は主に東南アジアの国々です。米国やオーストラリアとの連携も重視されます。つまり、裏に東南アジアで影響を強める中国への対抗意識があるわけです。
ただ、そこは競うところかなと。今回のパプアニューギニア軍楽隊育成で示された「能力構築支援」の幅広さをもってすれば、むしろ中国と連携だってできるのではないでしょうか。
いま安倍内閣では、年末の防衛大綱改定へ向けて大詰めです。某国の脅威に備えよという議論がにぎやかですが、某国との信頼醸成にもっと「能力構築支援」を生かすことも考えられるはずです。
かつての激戦地・パプアニューギニアで軍楽隊と自衛隊の音楽隊の絆が深まっていく様子を見て、つくづくそう思いました。
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