この秋、合格発表があった司法試験で史上最年少合格者が出ました。19歳4カ月で突破した、慶応大学1年の栗原連太郎さんです。一体、どんな方なんでしょうか。大学を通じて文書でやりとりをし、人物像に迫りました。
大学受験に代わる目標
慶応義塾普通部(中学校)在学時から、人々の生活に密着する法律の幅広さや奥深さに漠然とした興味を抱いていました。自由課題で小説を書いた際、法律について調べたこともありました。そのような中、時間を有意義に使うため、何か目標を設定し、それに向け努力しようと考え、司法試験の受験を決めました。
<栗原さんは慶応大まで内部進学できる環境だっため、大学受験に代わる目標を、司法試験に定めたようです>
――小説を書いていたんですか?
普通部では「労作展」という自由課題があり、生徒それぞれが自分の選択したジャンルで作品を制作します。2、3年生の時に小説を1冊ずつ書きました。
2年生の時の作品「ラフマニノフがそうしたように」はサスペンスもので、2組の夫婦の関係がねじれ、最終的には殺人事件へつながっていく物語です。警察による捜査の方法、手続きなどについて法律が関係しています。
3年生の時の作品「正義とは。真実とは。」は弁護士・葵が部下や週刊誌記者と協力しつつ、様々な事件を解決していくというものです。資産家の老人が生存しているにもかかわらず戸籍上死亡した扱いとなっている事件や、総理大臣に対する企業の不正献金を暴くものが含まれています。こちらでは、年金制度や公文書偽造罪、弁護士の職務内容などについて法律が関係しています。

失敗がモチベーション
高校進学とともに本格化させました。司法試験の予備試験を初めて受けたのは、高校1年生の5月です。勉強開始直後の無謀な挑戦ではありましたが、結果的にこの時の失敗が後のモチベーションにつながりました。
<予備試験は、憲法、民法、刑法など旧司法試験で課された六法に一般教養などを加え、短答試験、論文試験、口述試験の3段階で選抜されます。これに合格すれば、法科大学院を修了しなくても、翌年以降の司法試験の受験資格を得られます。ここ数年、予備試験の合格率は4%程度と低い一方、予備試験合格者の司法試験合格率は70%前後で、法科大学院修了者(20%程度)を大幅に上回っています。栗原さんは高校3年生だった2017年11月、予備試験に最年少合格(18歳)を果たし、今年の司法試験受験資格を得ました>

とにかく反復・アウトプット
Web受講をしていた塾のテキストのみを使用し、とにかくそれを反復して理解、記憶しました。そのほかには、実際の試験の過去問を用いてアウトプットの訓練をしました。
1日の勉強時間は時期により変動しましたが、平均すると、平日は2、3時間、休日は5、6時間ほどだったと思います。
ーー気分転換には何をしましたか?
日常的にテレビを見たり、音楽を聴いたりしていました。また、気分転換にギターやベースを弾くこともあります。

友達バンドに楽曲提供も
ロック、ポップス、ジャズ、EDM、民族音楽など幅広く聴いておりますが、特によく聴くのは、洋楽だとビートルズ、レディオヘッド、デビッド・ボウイ、マイルス・デイビス、ビル・エバンス。邦楽だとLUNA SEA、ラルク・アン・シエル、椎名林檎、宇多田ヒカルなどです。
楽器を演奏する時は、特定の曲を弾くというより、むしろ何も考えずに自由演奏をしたり、新しいコード進行を試したりすることが多いです。そうした作業が、作曲でのインスピレーションにつながりやすいためです。
ーー作曲もされるんですね。どのような曲を作っているんですか。
自分で作曲するものについては、サイケデリック・ロックを中心に据えつつも、あらゆるジャンルを、吸収したものをつくっていければと思っています。
私自身のソロワークは未完成のデモ音源ばかりですが、高校時代の友人たちのバンドに書き下ろした曲があります。こちらは、友人から〝とにかく爽やかで疾走感のあるものを〟との依頼を受け製作したものです。
※栗原さんが作曲で協力しているバンドのサイトはこちら(https://eggs.mu/artist/BE_BLUE_BEAT/)。

進路は…「現時点で明確にお答えできません」
趣味の曲作りを我慢していました。誘惑に勝つためには、勉強のモチベーションを高く保つことが一番であると思いますので、司法試験を受験することを決めた時の初心を思い出したり、自分の立ち位置を明確に把握したりするよう心がけていました。また、誘惑の原因を遮断する(例えば作曲ソフトをアンインストールする)こともしていました。
――司法試験以外にも、高校や大学の勉強があったかと思います。両立するためにどのような工夫をしましたか。
高校、大学の勉強は授業を集中して聴き、その時間内に理解・記憶することで効率化を図っていました。また、電車での移動時間などの“スキマ時間”を司法試験の学習に充てることもしていました。
――司法試験の合格をどのように受け止めていますか。また、裁判官や検事、弁護士など、今後の進路希望をお教えください。
合格については周囲の人々の支えがあってこその結果ですので、感謝の思いをもって受け止めています。
今後の進路については、現時点で明確にお答えできませんが、今は学生の立場で、目の前の「学び」一つひとつと真摯(しんし)に向き合っていく所存です。

――大学1年生にして合格を手にしたわけですが、これからの大学生活では何をしたいですか。
なるべく多くの人々と触れ合い、視野を広げていくような過ごし方をしたいと考えております。サークルには所属しておりません。音楽(作曲)のほかに、映画鑑賞や読書をしていきたいと思っております。
<取材を終えて>
司法試験と言えば昔から難関試験の代名詞です。法科大学院(ロースクール)制度になった現在は、受験者の4分の1程度が合格していますが、栗原さんが最初に突破した予備試験の合格率は4%ほどで、旧制度の本試験と変わらない狭き門です。法曹資格を得ようと、2度3度と受験する人が珍しくないのも、変わりません。
高校3年生で予備試験を突破し、20歳になる前に本試験に合格した人がいると聞き、私は一日中机にかじりついている、キテレツ大百科の勉三さんのようなイメージを勝手に抱いていました。ところが文書でやりとりをしてみると、小説を書き、音楽を聴き、楽器を奏で、作曲もする、多芸多才な方でした。
栗原さんは今後、約1年の司法修習を経れば、法曹資格を得て裁判官や検事、弁護士になることができます。ただ、本人は「現時点で明確にお答えできません」としつつ、学生として勉強に励んでいく考えを語りました。将来、法曹の道に進むにせよ、別の道に進むにせよ、幅広い興味をそのまま生かし、活躍して欲しいと思います。