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#5 #となりの外国人
「日本人ママが『最強』」 ムスリムママが驚いた日本の子育て
子育ては誰にとっても大仕事です。もし、言葉も文化も分からない国だったら、なおさら。豚やアルコールは食べてはいけない、1日5回の礼拝がある、など厳しい戒律を持つイスラムのママたちは、日本で暮らしながらどんな子育てをしているのか、聞いてみました。「テレビはNHKしばり」「日本人ママは最強」など、そこには予想もしない世界が。
とある金曜日の夕方、東京・目黒区にあるインドネシア・モスクに行ってみました。仕事や留学などで日本に暮らしているインドネシア人たちが寄付を集め、昨年完成したばかり。ムスリム人口が増えるのに伴い、国内でもモスクが増えていると言います。
色とりどりのヒジャブをまとった女性たちに「日本生活って、ムスリムママにとって、どうですか?」と聞いてみました。
「一番難しいと思うのは、着替えの問題ですね」と話したのは、2人の子どもが幼稚園に通っているというコマラさん(37)。クラスで男女が一緒に着替えているのに抵抗感があると言います。男女が人前で肌を極力見せないようにするイスラム。小さなうちは良いじゃないか、とも思いますが、確かに日本では男女の着替えはイスラムほど厳格に分けていないかもしれません。小学校でも男女が一緒の教室で着替えていた記憶があります。
リサさん(33)も服装の問題が悩みの種。小3の息子は日本の水泳教室に通っています。男子といえど、水着はヒザ下まで覆うのがイスラムの教えと言います。でも、周りの男の子たちはおなじみのブリーフタイプ。「息子には『ダメって教えられたけど、日本の子はやっているよ?』と聞かれます。『日本はイスラムが多い国ではないから、ここにはここのルールがあるのよ。日本の文化は尊重してね』と説明しています」と話しました。相手の文化を尊重しながら、それとは違う教育するのは確かに難しい。
「コンビニは地獄ですね」と話すのはファラさん(35)。8歳から0歳まで3人の娘を育てています。「子どもなので、やっぱりコンビニに入ったとたん、『これほしい』って、アメとかお菓子を持ってくるんです」。レジ前でだだをこねる子どもたち。日本でも良く見る光景です。
「買ってあげたいけど……」。豚やアルコールそのものでなくても、お菓子に含まれる豚由来のゼラチンや、乳化剤なども気を付けていると言います。
「そんなときはこれ」と、ファラさんはスマートホンのカメラをおもむろに、お菓子の袋の原材料表示にかざしました。表示された日本語が、みるみる英文に変わっていきます。翻訳のアプリです。「植物油脂」は「vegetable oil」に。「乳化剤(大豆由来)」は「emulsifier(soy derived)」と表示されました。「これは食べても大丈夫」とファラさん。
「大きくなったお姉ちゃんには原材料を見せながら『豚由来のものがあるから食べられないよ』と教えるんです。今では『これ食べられるか、チェックして?』と持ってきますね」
原材料をチェックできない祭りなどのイベントごとは、見るだけか、食べても大丈夫な魚や野菜だけにするなど、選んでいるそうです。誘惑たっぷりの縁日に子ども連れて行ったら大変そう。
気を付けるのは食べ物だけではありません。テレビ番組もなかなかの鬼門だと言います。
「CMにすらキスシーンがあるでしょ。ひやひやします」。イスラムが大半のインドネシアとは、放送できる番組やCMの基準も違うようです。「うちはテレビ見るならNHKかジブリだけ」との発言に、ママたちは一様にうなづきます。
そんな日本での生活ですが、子育てのメリットも感じているようです。皆さんが口をそろえたのは「列を作ったり、ルールを守ったりという規律正しさ、協調性が身につく」ということ。日本人の規律正しさは、日常生活でも子どもたちに刺激を与えていると言います。
一方で、日本での賃貸暮らしでは下の階や隣近所から、「うるさい」とクレームを言われることに驚いていました。「まず、日本に来て子どもたちに教えたのは『家では静かにしてね』。『子どもだから仕方ない』という雰囲気はインドネシアの方があるかもしれません。故郷ではご近所に『ちょっと見てて』って子どもを預けて出かけるような雰囲気がありましたから」とイスマヤワティさん(36)。
日本での暮らしが長くなるにつれて、イスラムママを驚かせているのは、「日本のママが最強」という説。「自転車の前にも後ろにも子どもを乗せ、さらにおぶって走っている」「ベビーカー2台押しながら買い物している人もいた」などなど、町で見た驚きの光景を交換します。「1人で頑張っている、日本のママはとても強い」と意見が一致しました。
「ちょっと見てて」と言える子育て環境がうらやましい私は、少し複雑な心境でした。
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