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「キャップ投げ」もはや日本文化に…海外に進出 この魅力伝えたい!
ツイッターで出合った「キャップ投げ」という単語。動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」で検索すると、ペットボトルのキャップが、ものすごい速さであり得ない軌道を描いて飛んでいる動画を見つけました。私が釘付けになった動画をアップしたのは、京都大学法学部2年の日野湧也さん(20)。通称「わっきゃい」。全国の若者を夢中にしたキャップ投げが、ここ最近、さらに国境を越えてブームになりつつあるようです。(朝日新聞京都総局記者・本多由佳)
ペットボトルのキャップを投げたり打ったりする競技「キャップ投げ」。9月はじめ、第一人者とされる日野さんに久しぶりに連絡を取りました。
すると「コーラの動画に出演しました」。
え、どういうこと?
出演したのは、夏限定で発売されていたコカ・コーラのカラーボトルを買うと見られる動画。日野さんは動画で遠く離れたコップにキャップを見事に投げ入れたり、投げたキャップで紙を真っ二つにするなど「スゴワザ」を披露しています。
日本コカ・コーラは、日野さんの起用理由について、「感動できるスゴイ技を持った若者をリサーチした結果、日野さんにお声掛けした」と説明します。
日野さんを取材したのは2018年5月のこと。その時、「飲料メーカーのCMに出演すること」を今後の目標の一つに掲げていました。その目標に着実に近づいているように見えます。
日野さんによると最近、キャップ投げが海外からも注目されているそうです。
「この1~2カ月で海外からの動画の視聴者が100倍くらい増えました」
海外から検索した際、タイトルが翻訳されるように設定したことが効果を発揮したようです。外国語でのコメントも増えてきました。
10月にはイタリアに渡り、キャップ投げを披露してくるそうです。参加するのは、トリノである日本の伝統文化などを伝えるイベント「ジャパンウィーク」です。
ジャパンウィークを担当する日本旅行の社員が2018年初め、テレビでキャップを投げる日野さんを知ったのがきっかけ。
「これをジャパンウィークでやったら面白そう」と思い、日野さんに参加を提案したそうです。
「キャップ投げを日本文化の一つにすること」を目指す日野さんは、絶好の機会と捉えています。
「京都から新たな文化を作り上げる。自ら文化にしていくためにも参加することに意義がある」と意欲満々です。
忍者の格好をしてキャップ投げを披露する計画で、技を現地の人に直接伝授できるよう、現在はイタリア語の習得にも力を入れます。
国境を越えて人びとの心をわしづかみにする「キャップ投げ」について、もう少し詳しく説明します。
必要なものはペットボトルのキャップのみ。試合を行う場合は、ボールの代わりにキャップを使って野球形式で行うことが多いです。野球と同様に「変化球」があり、日野さんはカーブやフォーク、スライダーといった11球種を自在に操ります。
ちなみに、日野さんがフォームを参考にしたのはプロ野球ロッテの涌井秀章投手。キャップを投げ始めて間もない2009年、アメリカでワールドベースボールクラシック(WBC)を観戦してから、涌井選手のファンになったそうです。
キャップによって、投げやすい球種も変わります。そのため、日野さんは普段から何種類ものキャップを持ち歩いています。
京都大学吉田キャンパスで初めて日野さんに会った時、四角いバッグを持って登場しました。中を見せてもらうと、ペットボトルのキャップがぎっしり。
「あ、これは練習用なんで」
次は、小学生が使うような四角い筆箱を取り出しました。中にはミネラルウォーターやお茶、炭酸飲料などさまざまな「一軍キャップ」が入っていました。
側面のぎざぎざが粗くて軟らかいお茶のキャップは、空気との摩擦が大きく横方向に変化するスライダーやシュートなどの変化球が投げやすい。一方、炭酸飲料のキャップは側面のぎざぎざが細かく、お茶と比べると重め。これはストレートに向いています。飛距離を延ばしたい場合は薄くて広いミネラルウォーターのキャップが適しているそうです。
キャップ投げをする「キャッパー」たちが持つツイッターのアカウント「キャップ垢」の一群の中で、日野さんはカリスマとしてあがめられています。そんな日野さんがキャップ投げにのめり込んだきっかけは一瞬の快感でした。
日野さんは父の仕事の都合で1歳で渡米しました。ロサンゼルス郊外のミドルスクールに通っていた12歳の時、キャップ投げに目覚めたそうです。
授業中、机の上に置かれていた飲み終えたペットボトル。先生の目を盗んでごみ箱目がけて投げると、見事にゴール。この快感にはまりました。
その後、直球や変化球の投球練習、制球力を高める練習を一人でひたすら繰り返します。アメリカにいた当時、練習時間は1日5~6時間にも及んだそうです。家でも学校でも練習。そして気がつけば、「特技・キャップ投げ」という青年に成長していました。
【出演情報】
— わっきゃい (@wildkumada) 2018年9月8日
📻9/10 10:20〜 FMaiai「トーキングアベニュー」
📺9/10 23:57〜 TBS「なかい君の学スイッチ」
📺9/11 23:30〜 NTV「NEWS ZERO」
📺9/14 8:30〜 ABC「よーいドン!」
来週は4本!よろしくお願い致します! pic.twitter.com/4yRluMPkzq
かつて、家でも絶えずキャップを投げ続ける息子を、両親はとても心配したそうです。キャップを捨てられたりキャップを当てる的を隠されたり、飲み物がペットボトルから缶になったり……。
そんな「試練」にもめげず、日野さんは自分の道を突き進みます。そんな両親も、今では日野さんの活躍を喜んでいるといい、「動画をアップすると5分後くらいには感想が送られてくる」そうです。
「いつでも誰でもどこでも気軽にできる最高の暇つぶし。これを自分だけでとどめるのはもったいない」
こうして日野さんは大学受験を控えた2016年4月、ツイッターに自身がキャップを投げる「集大成」の動画を投稿しました。
「やり方を教えてくれ」
「やってみたい」
ツイッターにはコメントがあふれました。
「自分が信じてきたことが受け入れられた」と実感しました。
アメリカにいる時から日本の国会中継をよく見ていた日野さん。安保法制の審議などをきっかけに、日本の法律と政治を学ぼうと京都大を受験。合格後の2017年春、1人で「京都大学キャップ投げ倶楽部」を立ち上げました。
入学式の後、法学部の新入生300人以上の前で「キャップ投げ倶楽部をつくります」と呼びかけると、数人が仲間に。今では他大学の学生も含め、メンバーは50人以上となりました。
日野さんが、キャップ投げの魅力を改めて感じた出来事を教えてくれました。
2017年末、日野さんに1本の電話がかかってきました。相手は京都市内のフリースクールのスタッフ。最初は「子どもがキャップ投げばかりやっていて困る、と怒られるのかな」。話をしていると、どうやらそうではないらしい。
フリースクールに通う子どもが、京都大の文化祭でキャップ投げを体験したことをきっかけに夢中になっているという。「ぜひ、特別講師になってください」と言われ、今年の頭に他の部員と学校を訪れました。
子どもたちに投げ方を教えたり一緒にゲームをしたりするなかで日野さんが見たのは、目をきらきら輝かせた子どもたちの顔でした。
「キャップを投げた時の何げない感動を知ってもらえたと思うと、うれしかった」。この一瞬の感動をこれからも広めていこうという思いを強くしました。
私も、日野さんに投げ方を教えてもらい、キャップを投げてみました。手先が不器用なので、一発でビシっと決まりません。何度か試してキャップを飛ばすことに成功。「あっ!飛んだ」と思わず喜びの声が……。飛んだ距離はたったの数メートルでしたが、初めて縄跳びで二重跳びができた時や鉄棒で逆上がりができた時に似た爽快感がありました。
日野さんにはまだ目標があります。
「キャップ投げの全国大会を開く」「野球の始球式でキャップを投げたい」
全くの夢ではないかもしれません。全国のキャッパーたちが集まった試合会場や、大きな球場でキャップを投げる日野さんの姿を見られる日が楽しみです。