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なめてた!育休明けの「落とし穴」 大事なのは「三つの『あ』」

目次

 まもなく秋の「保活戦線」が始まります。子育てや教育を10年取材してきた私は、一昨年9月に出産し、昨年4月に職場復帰しました。知識をフル活用し、妊娠中から保育園を見学し、実家の支援も取り付け、育児休業から復帰する時は夫が有給休暇を1カ月取ることにし、カンペキに準備していたはずでした。しかし実際に育休が明けてみると、いたるところに「落とし穴」。募るイライラに、自己嫌悪。どうすればよかったの? ドタバタ復職を、育休後のプロに斬ってもらいました。(朝日新聞文化くらし報道部記者、見市紀世子)

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まるで仕事、エクセルで保育所リスト

 妊娠7カ月のとき、我が家が「区内屈指の保活激戦地」にあることが分かりました。

 最も希望者が集中する1歳児クラスはもちろん、生後半年で0歳児クラスに預けたとしても、認可保育所には入れそうにない。本当は育児休業を1年間取りたかったのですが、区役所でそう聞いた翌日から、徒歩30分圏内の認証保育所に片端から電話し、見学を申し込みました。エクセルで一覧表を作り、もはや仕事の勢い。

 預け先が見つからなければ職場に戻れず、育休が切れて失業する可能性も。同業者の夫も、条件は同じ。

 出産前後に9カ所見学し、1カ所以外はすべて申し込みました。
 認可保育所は全滅でした。予想通りの結果とは言え、「ひっくり返って泣いた(夫談)」私。しかし、幸いにもその後、認証保育所から受け入れの連絡があり、改めて夫と見学して確認し、預ける先を決めました。

保育園を見学した時のメモ。「1歳児は新規の受け入れがない年もある」と聞き、衝撃を受けた
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モヤモヤの原因、「気持ちの壁」とは

 復職後の働き方を考えるのに役に立ったのが、NPO法人ファザーリングジャパンのマザーリングプロジェクトが出した『ママの仕事復帰のために』(労働調査会)という本でした。特に自分の気持ちを書き出してみる欄が面白く、モヤモヤした「気持ちの壁」が見えてきました。

 「0歳児の4月に復職しないと保育園には入れない」という記者の目で見た分析と、「もっと一緒にいたいのに」という気持ちにズレがあるのが分かりました。

 いろんな課題を書き出していくうちに、「子どもと一緒にいる時間を少しでも長くしたいので、短時間勤務(時短)制度を使わせてもらいたい」と整理できました。

復帰に向けてのモヤモヤ。「もっと一緒にいたい」「でも保育園事情が許さない」と自分の本音が見えてきた
復帰に向けてのモヤモヤ。「もっと一緒にいたい」「でも保育園事情が許さない」と自分の本音が見えてきた

総仕上げは上司面談

 保育園の当落が分かり始めた昨年2月、直属の上司と職場復帰に向けた面談をしました。

 その際、育休後コンサルタントの山口理栄さんが考案した「職場復帰面談シート」を渡しました。
 シートには、時短勤務の有無、保育時間、保育園の送り迎えのサポート、家族の協力状況、通勤時間、復職への意気込み、といった項目を書き込んでおきました。今後どんな働き方がしたいのか整理できました。面談シートがなかったら、形式的な話で終わってしまったかもしれません。

 上司からは「復帰を待ってるよ!」と声を掛けてもらい、「休ませてもらった分、頑張るぞ」という気持ちになれました。

 復職時には夫が有給休暇を1カ月取ることにしました。子育てに備えて実家から徒歩5分の場所に住み、母に支援もお願いしました。実家にも事情があるため、頼りきりにはできず、念のため、地域の有償ボランティアに子育てを手伝ってもらえる「ファミリー・サポート・センター」の研修を妊娠中に受け、会員登録しました。

 できる準備はすべてやり終え、いざ復帰へ。しかし、育休後は「落とし穴」の連続だったのです。

復帰直後には、子どもが保育園でまさかの「ハンスト」をして焦ったことも(写真はイメージ=PIXTA)
復帰直後には、子どもが保育園でまさかの「ハンスト」をして焦ったことも(写真はイメージ=PIXTA)

取材先の玄関で、保育園から電話

 昨年4月に職場復帰しました。親子ともに慣れてきたと思った矢先の8月、取材先の玄関に着いた瞬間に携帯電話が鳴りました。

 「熱が39度あるので、迎えに来てください」

 保育園からの呼び出し電話です。その取材先には、前月に取材をお願いした際も、子どもの突然の高熱で、再度、取材を設定してもらったばかり。同じ相手に2度目のドタキャンなんて……頭が白くなりました。

 出勤途中だった夫が子どもを保育園に迎えに行き、実家の母にバトンタッチしてしばらく預かってもらい、私が取材を終えて急いで自宅に戻る「綱渡り」で乗り切りました。

取材先で呼び出し電話を受けた日の育児日記。発疹が出始め、手足口病と診断された
取材先で呼び出し電話を受けた日の育児日記。発疹が出始め、手足口病と診断された

「楽しい」保育園の送り迎えがイライラに

 子どもの保育園への送迎は、基本的に朝は夫、夕方は私が行くことにして、都合が付かない時は実家の母に相談することにしていました。
 でも朝は、夜が遅い夫と家族3人で一緒に過ごせる貴重な時間。楽しくもあり、私も一緒に保育園への送りに行っていました。

 ところが、今年5月にフルタイム勤務に戻したとたんに、私が朝の送りを負担に感じ始め、イライラして夫に当たる始末。

 自己嫌悪に陥りました。

いつまで続く……短時間勤務

 「時短で復帰するけど、半年後に子どもが1歳になったら残業なしのフルタイムにする」という計画で、家族や上司にもそう伝えていました。

 しかし復帰後の生活は、思い描いたようにはなりませんでした。待っていたのは、終わりの見えない子どもの激しい夜泣き。夜早く寝ても、2~3時間おきに泣きます。風邪を引くと、1~2時間おきに起こされます。

 医師や助産師、保育士、どこに相談しても解決しませんでした。私も、細切れ睡眠のためなかなか体力が戻らず、ずるずると時短を続けることに。

 ニュースの取材現場にいるのに、急な仕事に対応しづらく、職場に貢献できない自分がふがいなく感じ、同僚たちへの罪悪感も募りました。

 結局、復帰後1年間は時短を続け、フルタイム勤務に戻せたのは、想定よりも半年遅い、夜泣きが治まった今年5月でした。

1歳になる頃には、フルタイム勤務に戻そうと思っていたものの……
1歳になる頃には、フルタイム勤務に戻そうと思っていたものの……

 どうしたらよかったの? 後進に役立ててもらうべく、育休後コンサルタントの山口理栄さんに助言をもらいました。

育休後コンサルタントの山口理栄さん=諫山卓弥撮影
育休後コンサルタントの山口理栄さん=諫山卓弥撮影
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あせらない、あわてない、そして

 

記者

思い描いたような育休明けができませんでした……

 

山口さん

育休後は「三つの『あ』」ですよ!

 

記者

……と、言いますと?

 

山口さん

出産前と同じように働けなくても「あせらない」、予期せぬことが起きても「あわてない」、将来の夢を「あきらめない」こと。育休後からのキャリアアップは、あなた次第ですよ。

 

記者

でも正直、復職直後は仕事にならず……。保育園からの呼び出しばかりで。

 

山口さん

本当によくあるんです。私が復帰したときも、直後に子どもが肺炎で1週間入院しました。

 

記者

大事な仕事が入っている日は、保育園からの電話が鳴らないのを祈る気持ちです。

 

山口さん

保育園からの「第一連絡先」を夫の携帯にしてみたらどう?

 

記者

夫が迎えに行かれなくても、ですか?

 

山口さん

そう。夫が迎えに行かれなくても、妻に連絡して翌日休む準備ができます。夫が直接電話を受けると、職場に状況を伝えやすくなりますし、妻は「呼び出し対応は自分」という制約が緩和されて楽になります。

パパたちの意識も変わってきている

 

記者

フルタイム勤務に戻した直後、保育園の送り迎えを両方やるのが苦しくなってしまいました。

 

山口さん

自分でやらなきゃ、と抱え込んでしまったのね。そういう人は多いです。朝も夕も拘束されるのは大変。役割分担した方が余裕はできますよ。ほら、こんなふうに。
山口さんが見せてくれた保育園送り迎えパターンの図。朝夕が送迎で拘束された場合と、どちらかだけを担当した場合では、仕事に充てられる時間が大きく変わる
山口さんが見せてくれた保育園送り迎えパターンの図。朝夕が送迎で拘束された場合と、どちらかだけを担当した場合では、仕事に充てられる時間が大きく変わる

 

記者

夫は長時間労働なので、遠慮もしていました。

 

山口さん

パパたちの意識は変わってきているから、まずは頼んでみましょう。

 

記者

今は夫ともう一度相談して、朝は夫が送り、夕方は私がお迎え。行かれない時は実家の母に相談しています。朝の30分、早く出社できるし、家事もできる。気持ちがすごく楽になりました。

 

山口さん

よかった! 子どもを保育園に送る男性を見かけても驚かなくなりましたよね。セミナーでは「週1回くらいはパパがお迎えを!」と呼びかけていますよ。

「申し訳ない」と悩まない

 

記者

育休明けに、時短勤務が長引いたのが一番つらかったです。

 

山口さん

焦らないで。「人生100年時代」と言われるくらい長いですから。どこからでもアクセルは踏めますよ。

 

記者

職場の同僚たちに申し訳なくて。

 

山口さん

「申し訳ない」と思い悩まないこと。会社や職場に「貸し借り」の感覚を持って。

 

記者

貸し借りですか?

 

山口さん

そう。5年先、10年先に「借り」を返すのでもOK! それに、毎日は無理でも、繁忙期は少し残るとか、職場や家族と相談しながら工夫してみましょう。

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