連載
#12 #withyouインタビュー
Superfly越智志帆さん「劣等感に悩んだ10代」新曲への思い
「Superfly」として活動する歌手、越智志帆さん(34)は、今年のNHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲として「Gifts」を書きました。10代の頃は「劣等感を意識していた」という越智さん。「自分が中学生の時にそばにあってほしかったこと」を思いながら作ったそうです。学校生活に悩む10代に「自分が好きなことをもっともっと選んでいい」と呼びかける越智さんに、歌への思いを聞きました。(朝日新聞社会部記者・円山史)
――「Gifts」には、背中を押してくれるような前向きな言葉がたくさんあふれています。
特に中学生ぐらいの時には、自分を誰かと比べ、自分のコンプレックスに目が行きがちです。今の自分を認めるよりも先に、劣等感の方を意識してしまう。私もそうでした。だからあなたには「こんなこともある」「あんなこともある」と「あるあるある」を並べ、歌っていていつの間にかポジティブに考えられるといいなと思いました。
――越智さん自身も、中学生の時にはコンプレックスがありましたか。
コミュニケーションについて、大きな劣等感を持っていました。明るく楽しく話す同級生の様子を見て、自分も同じ年齢なのに、どうして私はうまくコミュニケーションがとれないんだろう、って。考えていることや悩んでいること、答えが出せたことも含めてうまく言語化できない。かといって笑いにも変えられなくて、泣くとかわめくとか、家族を困らせるとか、そういうことがすごく苦手でした。
小学生のころから、なんで自分はここに生まれたのだろうかということを難しく考えて思い悩んでいました。自分は何の役割があって生まれたのかな、とか、答えのないことをずっと考えていて、突破口を常に探すような感じでした。
――友だちにその思いを伝えるのは、簡単なことではないですよね。
回りの友達はみんな、健やかに育っているように見えていました。理由はよくわからないままですが、どこにいても人とうまく通じ合っている感じがしない、もの悲しさがつきまとうように思っていました。波長っていうんでしょうか、それが違うのかな、と思うことはありましたね。
――どんなことがあって、その気持ちは少しずつ変わっていったのでしょうか。
私にとっては、それはやはり、歌がきっかけだったと思います。中学生の時に学校で、5、6人でゴスペルを歌う機会がありました。ギターを演奏したかったけれど定員がいっぱいで、本当に偶然、歌うことになりました。
小さいころから自分はずっと音痴だと思っていたので「人前で歌うなんて恥ずかしい」と感じていました。でも歌っていて楽しかっただけではなく、歌っている人はみんな、何のよろいも着けていない、ありのままに見えた。みんなが素の状態にぐぐっと戻れるような、そんな感じがしました。音楽の時間が楽しみでした。
それに、幼なじみの言葉も胸に残っています。子どものころ、彼女が私に「(越智さんの)声が好きなんだ」と言ってくれたんです。それも「話し声が好き」って。夕暮れ時だったかな、川で魚をつついて遊んでいる時に、ふいに。
それがとてもうれしかった。声って自分の努力とかではなくて、自分の持っているままのものです。私の中の素材を「いいね」と思ってもらえたように思いました。少しずつ歌を歌う機会も増えて「その歌がいいね」と言ってもらうこともありましたが、彼女のその一言で、ああこれでいいんだって思いました。人から言われてうれしかったことの最上級かもしれません。
――今回の「Gifts」は「自分が中学生の時にこの歌がそばにあって欲しかった」と思って書いたそうですね。
私は「人とコミュニケーションがうまくとれない」「能力がない」とないないづくしで中学時代を過ごしてしまいました。葛藤することも、何かをじっくり見つめることも、とても大事です。でも、自分のいいところを自分に教えるという考え方を、恥ずかしがらずにしておけばよかったなと思います。
自分自身を肯定できるようになったなと思うのも、実は最近です。ものすごくシンプルなことですが、自分が本気で楽しめることとか好きなことが、自分の心を豊かにしていくと気づいたように思います。自分はこれが好き、というものが心にあれば、何かを選んだり、踏み出したりしていくヒントや基準になっていくと思っています。
――歌の中で、行きたい場所や、食べたいもの、したいことがある、ということをいくつもいくつも挙げている部分も、印象的です。
行きたいところがあるということは、目標があるということ。それをかなえたら次の場所を見つければいいですし、そう思っているということは「生きたい」と思っているということです。悩んだり、「ああ、人生をやめてしまいたい」と思っていたりしても、ほんの少しでも、本当にささいなことでも未来の想像ができるということは、生きていること。生きていく力があるということだと思います。
特に中学生ぐらいの時には周囲から何かを与えられることが多いですが、もっともっと、自分自身で選んでいいと思います。「レタスとキャベツのどちらが、今食べたい気分か」なんて小さなことを、本気で考えてみるんです。
夏休みの間、ゲーム感覚でもかまいません。私は本当にこのご飯を食べたいのかな、目の前にあるこれを本当に好きなのかな、って。それくらいでいいです。
――好きなことが見つからない、何がしたいかわからないという子どもも多いかもしれません。
私は2年ほど前から、自分の好きなものをノートに書いています。好きな瞬間とか、おいしいと思った食べ物、映画、心地いいと思ったこと…。本当にささいなことです。コスタリカのコーヒー豆をひくのが好きだな、って時には「コスタリカ」って。あの文房具が好き、とか。
もし自分の気持ちがネガティブになってしまったら、そのノートをみて、そこに書いたことをやればいい。少し温かい気持ちになれるかもしれない。書き留めるのは単語でいいと思います。そうして書いていくうちに、自分がどんな人間なのか見えてくると思います。そして、そこに全く同じことを書く人はいません。そんなささいなことからでも、人はそれぞれ違うということを感じられると思います。
中学生の時に、私は自分を責めることが得意でした。でも今は、自分が今を楽しんでいるかどうか「満足している?」と自分に問いかけるようにしています。自分自身の心をちゃんと喜ばせる。それが一番いいのではないかと思います。だから自分に聞いてみてほしいです。「私は大丈夫かな?今を楽しんでいる?」って。
◇ ◇ ◇
Superfly 越智志帆(すーぱーふらい おち・しほ) 1984年、愛媛県生まれ。2007年「ハロー・ハロー」でデビュー。代表曲「愛をこめて花束を」など多数。NHK「みんなのうた」でも放送中の「Gifts」は、10月10日に発売される。
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