連載
#17 #withyouインタビュー
「楽しかったのは1学期だけ」キンタロー。さんが中学時代を語る理由
社交ダンスやアイドルのものまねなど、テレビ番組では華やかな衣装に身を包み、明るい笑顔で生き生きと踊る姿が印象的な、芸人の「キンタロー。」さん。でも、中学時代には学校を休むこともあり「楽しかったのは1年生の1学期だけだった」といいます。その時、救ったのは「小さな逃げ場所」でした。芸能人になった今、つらい経験を「隠さずに話すことにしている」という理由を聞きました。(朝日新聞社会部記者・円山史)
――キンタロー。さんはどんな中学時代を過ごしたのですか。
中学校で楽しかったと思えるのは、1年生の1学期だけでした。私も含めて4人のグループでいつも一緒にいましたが、2学期に入ったころだったかな……。ある日突然、何の前触れもなく、グループの3人から無視されるようになりました。理由もわからないし、謝っても受け入れてもらえなかった。
毎週土曜日は4人で机を四角くくっつけて一緒にお弁当を食べていたのに、私が3人のところに机を持って近づこうとすると、ものすごいスピードで私が入れないように机をくっつけていく。がくぜんとしました。
慌てて、小学校が一緒だった友達のグループに入れてもらったけれども、その友達も「どうしたの」と困惑しているし、私も「迷惑に思っているだろうな」という気持ちは消えない。ただただ、グループから「はみっこ」になったことをクラスメートにばれたくない、クラスの中で「終わった人」認定されたくないという思いでした。
――学校に行くこと、本当につらかったでしょうね。
最初は体がだるいとか頭が痛いとかそんなことから始まりました。1日休んでは登校し、また休んで。少しずつ休む日が増えて、親には「休みすぎだ」と言われたけれど、部活動にもそのグループの友人がいたから逃げ場がなかった。1週間くらい休んでしまうようになると、ずっと泣いたり、ぐるぐると考えこんでしまったりしました。
――学校を休んだ時にはどんなふうに過ごしていたのですか。
ケーブルテレビでお笑い番組を見て気を紛らわしていたこともあります。熱中したのはトールペインティングや自分の部屋の模様替えでしたね。クラスは違ったけれども仲の良い幼なじみはいたので、一緒にホームセンターへ買い物に行って、黙々と作業をして、作品を見せ合っていました。私にとっては小さな逃げ場所でした。
休んでいた時に読んだ雑誌にも、少し救われました。著名人の方の「学生時代は悩みに悩め。悩んだやつが大人になった時に成功する」という言葉がありました。「大丈夫だよ」と言ってもらえていると思って、自分の人生はこれで終わるわけではないと、少しだけ思えました。
――自宅では、つらい気持ちを話せましたか。
母には愚痴みたいにいつも話をしていました。母は私が何を言っても「大丈夫、大丈夫」と明るく励ましてくれた。私がからかわれたと言うと、「こんなにかわいい子はいないよ」って。深刻ではなく、いつもと同じように変わらず話を聞いてもらえたことは、ありがたかったです。
――当時を振り返ってどんなことを感じていますか。
学校に行かない時と行く時があったから、私の中でなんとかバランスを保てていたのかなと思います。中学2、3年はクラス替えもあって、1年生の時よりは学校に行けていました。でもクラスメート全員に気を遣って、敬語で話すクセだけは抜けなかったなあ。
実は自分の居場所なんてないと思っていたし、明るくできなくてずっと気を遣っていました。だから、3年生の時に担任の先生が企画した、クラス全員が強制参加の週末のイベントも「いつも気を遣っているのになんで休みの日まで気を遣わなくちゃいけないのか?」と思って、私だけ、行きませんでしたね。
結局、1年生の時に友人に無視された理由は、グループの友人を楽しませようとした私が、ちょっと下品な歌を歌ったことが嫌だったからだそうです。それを知って「もうそういうことはしないから許してほしい」と謝罪したけれども、友人たちは「自分に言われても困る」と言って、態度は何も変わりませんでした。「『自分』を出し過ぎたら嫌われるのか」って、今でもトラウマがあります。
あの経験が今役に立っているかと考えると、ちょっと首をかしげてしまう自分がいます。でも、今こうして私が話をして、今苦しい思いをしているみんなのささやかな希望とか、救いになれるなら、うれしい。だから、隠さずに話すことにしています。
――今、生きづらさを抱えていたり、学校に行けなかったりする子どももいると思います。
ユーチューブでもいい、ゲームでもいい。一瞬でも学校とは違うところに意識を向けることが大切です。それで時間が過ぎていくのを、待っていていい。
でも、オススメなのは、太陽の光を浴びることや、軽い運動をしてみること。ずっと布団の中に閉じこもっていると、同じことばかり、そして悪いことばかり考えてしまいます。少しでも外に出てみてください。きっと何かきれいだなとか、すごいなって思う景色があるはずです。
学校に行けなかったら、習い事を始めてみてもいいと思います。新しい場所では、ゼロからスタートできる。自分の好きなキャラクターで自分を出せる。「こうしたい」「こうありたい」という自分でのびのびと過ごせるチャンスです。そしてそれは、大切な逃げ場にもなります。
――今悩みを抱える子どもたちに伝えたいことはありますか。
中学生の時は、起きること全ての衝撃度が、大人になった今と全然違う。人生のごく一部のことが永遠のように思えて、「死んじゃえば楽になる」って思うかもしれない。私も、そう思ったことはありました。
でも、死ぬぐらいだったら、命を絶つぐらいだったら、学校に行かなくたっていい。ふとんにずっとくるまって、気力がなければうずくまって、ただ時が過ぎていくのをじっと待っていたっていい。
だって、学校だけが人生ではありません。生きてさえいれば、いつか新たな方向性が出てくる。もし中学生だったら、高校生になればリセットできる。学校以外の場所で好きなことを見つけたら、そこで友達ができる。命を絶つという間違った選択さえしなければ、それでいいと思います。
◇ ◇ ◇
キンタロー。
女性アイドルのものまねで人気に。テレビ番組の企画で、競技ダンスの日本代表として世界大会にも出場している。36歳。
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