連載
#25 夜廻り猫
「死ぬな」って言葉、地獄分かってない 夜廻り猫が描くしんどい学校
「うちのクラス、いじめとかないし!」。そう言いながら担任の先生と笑い合うクラスメート。女の子は、その全員から無視されています。「『死ぬな』って言うやつは、どんな地獄にいるか分かってない」……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「学校がしんどい君」を描きました。
いつものように街を夜回りしていた猫の遠藤平蔵。「むっ 涙の匂い…!」。心の涙に気づき、歩道橋でひとり、下の道路を見つめる女の子に声をかけます。
女の子は学校で一人きりです。ノートは破られ、無視され、それでもクラスメートたちは「いじめなんて、誰がやんの」と言って教師と笑います。
それを聞いた遠藤は思わず「死んではいけない」と声をかけますが、女の子は「どんな地獄にいるかわかってない」と突き放します。
遠藤は、いったん気持ちを受け止め、「しかし、一つだけ 何があったか書いてくれ 真実が消えてしまう」と説得します。
女の子は、自分のされたこと、いやだったこと……思いをスマホに打ち込みます。終わらなかったので、その次の日も、その次の日も……。
「書き終えたとき 大人になってたよ おまけに作家にも」
再び遠藤と会ったとき、女性はほほえみながら、自分の本を手渡すのでした。
作者の深谷かほるさんは「死のうとするほど追い詰められている人に『死ぬな』とか『何か前向きなことをしてみたら』と言うのは、その人のつらい気持ちを否定することになります。むしろ酷ではないでしょうか」と話します。
「本人に問題があるのではなく、置かれた状況がひどすぎるのです」
漫画では、猫の遠藤平蔵はいったん彼女の気持ちを受け止めた上で「何かを書き残すんだ」と勧めます。
「ものを書くことがくれる救いと難しさが、いつのまにか生きていけそうな未来を引き寄せた。そんな一つの希望を描きたかったんです」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本4巻(講談社)が7月23日に発売された。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。黒猫のマリとともに暮らす。
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