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#4 金正男暗殺を追う

<金正男暗殺を追う>4カ月前の寄り道、締め出されても「愛した街」

シンガポールの観光名所「マーライオン」と「マリーナ・ベイ・サンズ」=ロイター
シンガポールの観光名所「マーライオン」と「マリーナ・ベイ・サンズ」=ロイター

目次

 2017年2月に殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏が、よく立ち寄った街がある。国際色豊かな観光都市シンガポール。人目を気にせずに歩ける数少ない場所だった。2011年に、ある出来事が起こるまでは――。(朝日新聞国際報道部記者・乗京真知、守真弓)

地上200メートルのプール

 2016年9月21日。正男氏が欧州からアジアに戻ったのは、約5カ月ぶりのことだった。パリで介護する叔母の体調が落ち着いたため、自宅のあるマカオに帰ることにした。

 正男氏は途中、シンガポールに寄り道した。「たった今、シンガポールに着きました。調子はどうですか?」。飛行機を降りると、さっそく友達に連絡を入れた。飲み仲間との再会を心待ちにしていたらしい。

シンガポールの観光名所になっているリゾートタワー「マリーナ・ベイ・サンズ」を背景に記念撮影する女性ら=ロイター
シンガポールの観光名所になっているリゾートタワー「マリーナ・ベイ・サンズ」を背景に記念撮影する女性ら=ロイター

漏れ伝わった目撃情報

 マラッカ海峡に面したシンガポールは、東南アジア屈指のにぎやかな街だ。東京23区とほぼ同じ広さに、560万人以上が暮らす。海辺には摩天楼がそびえ、ショッピングモールや遊園地などが観光客を引きつける。
 
 正男氏がよく足を運んだのは、ホテルやカジノが入ったリゾートタワー「マリーナ・ベイ・サンズ」だった。3つの高層ビルに支えられた巨大な船が、空を渡るような斬新なデザイン。地上200メートルの屋上には空中庭園やプールがある。そこから見下ろす万華鏡のような夜景を、正男氏は気に入っていた。

 当初は人混みに紛れていた正男氏だったが、目撃情報は増えていった。気さくに会話に応じる正男氏の性格も手伝って、うわさは広がった。2010年代初めには、正男氏の立ち寄り先に各国メディアが訪ねてくるようになったという。

リゾートタワー「マリーナ・ベイ・サンズ」の屋上からは、シンガポールの街並みが一望できる=2016年6月、乗京真知撮影
リゾートタワー「マリーナ・ベイ・サンズ」の屋上からは、シンガポールの街並みが一望できる=2016年6月、乗京真知撮影

「もう来ないでいただきたい」

 メディアが正男氏を追いかけたのは、このころ正男氏の父・金正日(キム・ジョンイル)総書記が体調を崩し、後継問題が持ち上がっていたからだ。2011年12月、金総書記が死去すると、正男氏の弟・金正恩(キム・ジョンウン)氏が後を継いだ。正男氏は葬儀に出席できず、兄弟の確執が報じられるようになった。

 後継問題にからみ、シンガポール政府は正男氏に、ある通告を出していたという。「もうシンガポールには来ないでほしい」。当時の状況を知る外交筋は「(正男氏をめぐる)いかなるトラブルも避けたかった」と振り返る。厄介払いされた正男氏は、訪問回数を減らしていった。

 くしくもシンガポールは、その統制の厳しさから「明るい北朝鮮」と呼ばれてきた。2つの「北朝鮮」に締め出された正男氏は、また次の寄る辺を求めて、国際都市を転々とすることになる。

     ◇

【北朝鮮とシンガポール】北朝鮮と国交のあるシンガポールは2018年6月、史上初の米朝首脳会談のホスト国となり、正恩氏の宿泊費など13億円相当を負担した。シンガポール外相が会談前夜、正恩氏を案内した夜景スポットは、正男氏が愛した「マリーナ・ベイ・サンズ」の屋上だった。シンガポールには北朝鮮大使館が置かれている。

シンガポールで2018年6月11日、「マリーナ・ベイ・サンズ」を視察する金正恩氏(中央)。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信
シンガポールで2018年6月11日、「マリーナ・ベイ・サンズ」を視察する金正恩氏(中央)。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

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