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2018年08月17日

2次元の「あいつ」を3次元化! 現実の世界がデスクトップ画面に…

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高さ約4メートルのカーソル

高さ約4メートルのカーソル

 いつも目にする見慣れたものでも、サイズが違うと新鮮に見えるもの。私が出くわしたのは、高さ4メートルにもなる、巨大な「あいつ」でした。なんでこんなものを作ったの? 作者に話を聞きました。

1月末から2月初めにあった東京芸術大学の卒業・終了作品展

1月末から2月初めにあった東京芸術大学の卒業・終了作品展

今月20日に上野公園に設置される巨大な「あいつ」とは?

 「あいつ」に会ったのは、2018年2月まで開かれていた東京芸術大学の卒業・修了作品展でした。

 豊かな発想があふれ出て、これからの日本のアート界を担うであろう未来の大物達の作品を見るのが好きで、大学生の頃から結構通っていました(ちなみに、私自身は美大生だったわけでもなく、美術の成績は5段階評価でいつも「3」でした)。

 校門を入り、ちょっと進むと、早速!胸をわしづかみにする作品を発見!誰もが知るあいつが現れたのです。誰って?

 カーソルです。そう、あなたのパソコン画面の中にもいる矢印のあいつ。

高さ約4メートルのカーソル

高さ約4メートルのカーソル

 最初に見た時は、なんだか地元の友だちにふと再開した思いが湧きました。「おぅ、元気か?」って声かけたくなるような。

 でも近づくと、4メートルの作品は迫力が違います。1ドット分が20センチ四方のアルミ板を、125枚貼り付けてつくったカーソルは、写真にすると、まるでパソコン画面に入ったような感じに。

 一方で、繊細な細工もなされてます。金属板の表面には細かく傷をいれてあり、光が乱反射し、様々な模様や色を見せてくれます。どの角度から見てもキラキラ輝いている!

アルミの作品には乱反射するように細工がなされている

アルミの作品には乱反射するように細工がなされている

 制作者は、作品の周りをひたすら鍬で耕していたのは先端芸術表現科を卒業した懸谷直弓さん(29)。

鍬をいれる懸谷さん

鍬をいれる懸谷さん

その名は「2.5次元の触覚」

 なぜ鍬で耕していたか聞くと、地面の凍った雪を砕いて、近づいて作品を鑑賞できるようにするためとのこと。おお、優しい。そして、シュール。

 作品の名前を聞きました。

 「2.5次元の触覚」。

 2次元の画面の中で人の手となって様々な物を作り出すカーソル。それを3次元にあらわし、身体を圧倒する大きさで作ることで、現実の世界が逆にデスクトップ画面のように見えてくる……。

 まるでカーソルと人間の立場が逆転したかのよう。作品があることで、日常の世界が全く新しく見える瞬間を感じて欲しかったのだそう。見れば見るほど、この不思議な空間に引き込まれていきます。

約4メートルのカーソルを制作した懸谷直弓さん

約4メートルのカーソルを制作した懸谷直弓さん

 懸谷さんが、約4メートルのカーソルをつくるまでの半生も、壮大なダンジョンをめぐる物語のようなものでした。

 小学生の頃にゲームやそのキャラクターにのめり込んだことが2次元の世界への第一歩だった懸谷さん。好きなソフトはポケモンで、誕生日プレゼントでねだるのはゲームソフト一択。

 「洋服がほしいという他の女の子の気持ちが1ミリもわからなかった」というから当時のゲーム愛は相当なものです。

 懸谷さんは自分が創作したイケメン剣士などのキャラクターたちに囲まれて、冒険する絵ばかり描いていました。そしていつしか芸大を目指すようになります。

が、

 高校時代に「現実の私、このままだとヤバくないか?!」と急に焦り、女子力ステータスを上げる努力をし始めるとともにゲーム愛も薄れたのだそう。

 美術部に所属したものの、同級生の絵が遥かに上手だったため、「自分は才能ないな。いいお嫁さんになろう」とあっさり藝大受験をあきらめ、大妻女子大の文学部に進学しました。

 2011年に大学を卒業し、大手銀行に入行。窓口業務などを行う順風満帆な社会人生活をはじめました。

銀行員時代の懸谷直弓さん(本人提供)

銀行員時代の懸谷直弓さん(本人提供)

銀行員から芸大生へ

 その半年後、事件が起きます。

 「仕事のやり方考えたほうがいいよ。」と先輩行員に叱られてしまったのです。なぜ叱られたのか理由が分からず「自分はダメなやつだ」とネガティブ状態に。そのまま帰宅する気分にもなれなかった懸谷さんが訪れたのが、ゲームセンターでした。

 ふとUFOキャッチャーのガラスの中を見ると、幻のポケモン「ビクティニ」が語りかけてきます。

 「大丈夫だよ…!」

 妄想ですか?と問いかけると、懸谷さんは「妄想だって、何だっていいんです!とにかく、この声に勇気付けられたんです」と語気を強めました。妄想ですね。

 そこからはとにかく無心になってコインを筐体に投入しつづける懸谷さん。「閉店時間なのでもう止めてください…」と言われ電源を落とされるまで続け、ついにゲット!その時、懸谷さんは目が覚めたのです。

 「私を勇気づけてくれるのは、この子たちだ…!」

仕事帰りにゲットした、幻のポケモン「ビクティニ」(本人提供)

仕事帰りにゲットした、幻のポケモン「ビクティニ」(本人提供)

 この事件をきっかけに懸谷さんの幼い頃から持っていた思いに再び火がつきました。それからというものの、週2~3回仕事終わりにポケモンセンターに行くなど、キャラクターグッズ集めに熱中していきました。

 ビクティニの仲間がどんどん増えていきます。それとともに、懸谷さんの脳内には、幼いころと同じようにキャラクターなどが浮かび上がっていきました。

どんどん増えていった「ビクティニ」の仲間たち(懸谷さん提供)

どんどん増えていった「ビクティニ」の仲間たち(懸谷さん提供)

 そして、入行3年目のある日。

 「このままの社会人生活でも充実した日々が送れるけど、脳内に生まれるアイデアや世界をつくらず、消去し続ける人生で良いの?私をずっと応援してくれている、数多のキャラも泣いている!」と思ったそうです。

 そして、「かつて行きたかった芸大を受けよう。落ちたら2度と受験しないし、創作活動をしない」と、26歳にして芸大受験を決心。2013年12月に銀行を退職、翌14年1月にセンター試験を受けると、2次試験も無事合格し、懸谷さんは晴れて芸大生になったのです。

 ついに芸大生になった懸谷さん。「人生RPG」をテーマに、創作活動をしていきます。

学園祭で出展する懸谷さん(本人提供)

学園祭で出展する懸谷さん(本人提供)

 人生RPGとは、RPGゲームに出てくるキャラクターやアイテムのような作品を世に繰り出すことで、観る人を楽しませて体力回復させ、気持ちを1UPさせるような活動のこと。

 そのために懸谷さんは醜悪な生き物として小説やゲームに登場するゴブリンになったり、創作のアイテムを学園祭で売ったりと、2次元と3次元を行き来する活動を行ってきました。

ゴブリンになった懸谷さん(本人提供)

ゴブリンになった懸谷さん(本人提供)

制作・展示費用、最も多くかかったのは・・・

 そして、卒業作品として選んだのが、その境界を表現する2.5次元のカーソルだったのです。

 ところでカーソルの作品、制作・展示にかかるお金は約150万円。さて、何に多く費用がかかったでしょうか?

東京芸術大の取手のキャンパスに設置されていた時のカーソル(懸谷さん提供)

東京芸術大の取手のキャンパスに設置されていた時のカーソル(懸谷さん提供)

 懸谷さんが最も多く費やしたというのが、輸送費です。

 取手のキャンパスで設置してから、上野のキャンパスに移動するためにかかった費用は約20万円。

 「リアルのドラッグ&ドロップってめちゃくちゃ大変です。でもカーソルだし、動いてなんぼだからね!」(懸谷さん)

ユニック車でつり上げられるカーソル(懸谷さん提供)

ユニック車でつり上げられるカーソル(懸谷さん提供)

 この春、芸大を卒業した懸谷さんは、フリーのデザイナー(本人はアイテムクリエイターと名付けている)やイベントの仕事で活動する傍ら、現代アーティストとして作品をつくり続けていくそうです。

 カーソルは、卒業作品展の中から「東京都知事賞」に選ばれました。この都知事賞、受賞作品は上野公園に展示されます。懸谷さんの作品は8月20日に設置予定。安全対策のため柵に囲われてしまいますが、あなたもデスクトップの中に入ることができます。

 その後の展示場所は募集中とのこと。ただ、1カ所、懸谷さんがどうしても設置したい場所があるそう。それは、マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ氏の自宅の庭。

 「この巨大カーソルを庭で眺めながら、パソコン内の小さなカーソルによって、世界中でたくさんのものが誕生してきたことに、しみじみと思いを馳せて愉しんで欲しいです。きっとお庭も広いので、ピッタリなはず!」

懸谷さんの作品「2.5次元の触覚」

懸谷さんの作品「2.5次元の触覚」

4mの矢印をつり上げ、これが「リアルのドラッグ&ドロップ」だ!
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ユニック車でつり上げられるカーソル(懸谷さん提供)
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