地元
くまモン、中国での悩みが深刻……「名前覚えてもらえない!」
海外でも人気のくまモンが悩んでいるらしい。中国語圏では正式な名前を覚えてもらえないという。そんなバカな? あのフォルムの呼び名は「くまモン」以外にあり得ない。どうやら、想像以上の早さで国際的な知名度を得てしまったジレンマがあるようです。いったい何が起きているのか、調べてみました。(朝日新聞熊本総局記者・大畑滋生、吉備彩日)
ちゃんと名前を覚えてもらっていないって本当? 6月19日、熊本市の「くまモンスクエア」前で中国語を話す観光客50人に聞いてみました。
「くまモン? ああ!熊本熊ね」
「酷MA萌? 知りませんね」
くまモンの名前問題、実は、同じくまモンでも「熊本熊(ション・ベン・ション)」「酷MA萌(クマモン)」という二つの名称が存在しているのです。
くまモンは2010年に登場。2011年の「ゆるキャラグランプリ」で優勝し、一躍有名になりました。中国や台湾の日本文化好きの間でも人気が広がり、いつしか「熊本熊」という愛称がつけられてネットを中心に広がりました。
しかし、くまモンは設定上「クマではない」ということになっています。熊本県とすれば「熊本熊」をそのまま使うわけにはいきません。
そうこうしている間に「熊本熊」はどんどん広まり、今や、中国の商標検索サイト「商標網」を調べると「熊本熊」や「熊本熊 KUMAMON」といった名称がいくつも出てくるような状態に。
熊本県が想像するより早く人気になってしまったことで、中国語名で大きな悩みを抱えることになりました。
熊本県では2013年、上海事務所の現地スタッフらと話しあい、「酷MA萌」という当て字を正式な中国語名にしました。オフィシャルグッズにはすべて「酷MA萌」を使っています。中国本土、台湾、香港、シンガポールでは商標登録もしました。
しかし、ネットなどで非公式の「熊本熊」が拡散し、すでに定着した後だったため、なかなか「酷MA萌」が浸透しない状況になっています。
冒頭の50人に聞いたところ、43人が「熊本熊」、7人が「酷MA萌」という結果になりました。
台湾から日本一周をしているという許晉誠さん(33)は、「『酷MA萌』は知らない。台湾ではみな『熊本熊』と呼んでいる」と話します。
熊本県は「酷MA萌」の浸透に躍起です。
3月22日に開かれた熊本県と中国広西チワン族自治区との経済交流会で、県くまモングループの四方田亨二主幹は「『酷MA萌』的宣伝戦略」という資料を配布。くまモン誕生の経緯や経済効果などについて講演しました。
中国語の通訳は一貫して「酷MA萌」の名称を使用。終了まで、「熊本熊」という言葉は一回も登場しませんでした。
そんな、熊本県の取り組みもむなしく、現地で優勢なのは「熊本熊」です。
4月19日の熊本電鉄北熊本駅(熊本市北区)――。車体のあちこちにくまモンをあしらった「くまモン電車」から一斉に台湾人観光客数十人が降り立ちました。この日は、台湾からのツアー客が10万人目を迎え、くまモン本人から記念品が贈呈されたのです。
式典のアナウンスでは、「熊本熊電車」という言葉が多用され、観光客からも「熊本熊!」(くまモンだ!)と声が上がりました。
熊電の駅にある台湾や中国からの観光客向けのポスターなどでも「熊本熊電車」という名称が使われています。
熊電のインバウンド担当者、(セン=憺のつくり)杰翰(せん・けつ・かん)さんは「『酷MA萌』よりも『熊本熊』の方が、くまモンや熊本県を知らない人でも、何を指しているかとてもわかりやすい」と話します。
どうして「酷MA萌」という名前になったのでしょう?
実は「酷」は「むごい」という意味ではなく、最近の中国語では「COOL(クール)」(英語で、『かっこいい』)の当て字に使われます。
「萌」は、アニメファンが「かわいい」という意味で使う「萌え」の意味です。
熊本県は2014年から県内企業など一部に海外でのくまモン関連商品の発売を解禁。今年から、本格的に国内企業の海外販売や、海外企業へくまモンのイラスト使用を解禁しました。
熊本県は「熊本熊」を正式に冠した商品はいままで使用を許可したことはなく、「もし『熊本熊』の商品を見たら、偽物と断言できる」といいます。
今後、海外での利用の際は、「100%『酷MA萌』を使用してもらう」と強調します。
だが、ある県内のくまモングッズ業者は「通称『酷MA萌』はなじみがないし、『熊本熊』は使えない」と悩ましさを打ち明けます。ただ、中国だけに向けた商品は今のところないため、輸出品は当面、アルファベットの『KUMAMON』表記にしているという。
ちなみに、蒲島郁夫知事が2014年に出版した「私はくまモンの上司です」(祥伝社)の、台湾版のタイトルは「我是熊本熊的上司!」。
これが「熊本熊」が正式に使われている唯一の例だそうです。ただ「どうして熊本熊になったのかは、よくわからない」(県秘書課)。
熊本県の四方田主幹は「くまモン商品の海外進出はこれからという段階。『熊本熊』の通称の方が通りがいいことは確かだが、徐々に正式名称の『酷MA萌』を広げればいい」と話しています。
1/5枚