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2018年07月11日

海水魚がなぜ?「ヤリマンボウ」が川で発見!「何とも言えない」理由

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2014年に長崎県・江迎川で発見されたヤリマンボウ

2014年に長崎県・江迎川で発見されたヤリマンボウ

出典: 九十九島水族館提供

 「太陽光で死ぬ」「直進でしか泳げず死ぬ」「3億個の卵を産卵しても、生き残るのは2匹」など、マンボウにまつわる数々のデマを暴いてきたメディア「withnews」ですが、驚くべき情報を入手しました。「マンボウ、近所の川に現れる(そして死ぬ)」。2014年の出来事ですが、今年に入って論文として掲載されました。海水魚なのに何やってんのマンボウ! その真相を探りました。


「ヤリマンボウ」とは

 今回、川で見つかったのは「ヤリマンボウ」。マンボウ科ヤリマンボウ属の魚のことで、一般的に知られている「マンボウ(マンボウ属に属する)」とは属が異なる親戚です。

 見た目は「マンボウ」に似ているので混同されることも多いそうですが、通常の魚の「尾びれ」の位置にある「舵びれ」に、やりのような突出部があるのが特徴です。

ヤリマンボウは舵びれにある突出部が特徴

ヤリマンボウは舵びれにある突出部が特徴

出典: 澤井悦郎さん提供

 長年マンボウを研究し、マンボウを解説する一般書「マンボウのひみつ」の著者である澤井悦郎さんよると、日本ではヤリマンボウの漁獲数量は少ないため、知名度が高くありません。また飼育が難しく、水族館で目にする機会もほとんどありません。台湾ではよく獲れるようで、食用としても親しまれているそうですが、その生態は「マンボウ」以上に謎に包まれているといいます。
 
 そんな「ヤリマンボウ」が、長崎・江迎川(えむかえがわ)で発見されたというのです。海水魚がなぜ、川に存在しているのでしょうか。

「マンボウかも、エイかも」

 当時、西海国立公園九十九島水族館・海きららで魚類を担当し、本件の対応にあたったという、粟生(あわう)恵理子さんに話を聞きました。

イルカのキャッチボール 佐世保・九十九島水族館海きらら=2014年8月

イルカのキャッチボール 佐世保・九十九島水族館海きらら=2014年8月

出典: 朝日新聞

 2014年11月22日、始まりは近隣の住民の方からの電話でした。

 「『マンボウのような生き物が川にいる。エイかもしれない』と電話をもらいました。マンボウの目撃例が多い地域ではないので、驚きました。『えっ!川で!?』って」

 半信半疑で現場に向かったところ、既に人が集まっていたといいます。連絡されていた場所は、江迎湾から4キロほど遡上した、江迎川の下流。海水は少し混じっていますが、淡水の状態にきわめて近い河川汽水域です。水路が深く、上からのぞき込むと遠目にそれらしきものが見えたそうです。


ヤリマンボウが発見された付近

 「白い丸いものがバタバタしていて、最初はエイなのかマンボウなのか判然としませんでした。近付いてやっとマンボウ、舵びれの突出部を見てヤリマンボウだとわかりました」(粟生さん)

発見当時の状況[日本生物地理学会会報第72 巻 (2018)に掲載]

発見当時の状況[日本生物地理学会会報第72 巻 (2018)に掲載]

出典:九十九島水族館提供

 粟生さんは、ヤリマンボウを現場で目の当たりにしても「信じられない」と思ったそうです。ヤリマンボウは浅瀬に横たわって衰弱しており、既に瀕死の状態でした。

 助けることは困難な状態で、粟生さんは「水族館まで持ち帰ることができれば、貴重な資料として記録に残すことができる」と考えたそうです。集まっていた人たちに手伝ってもらいながら、ブルーシートにくるみ、ヤリマンボウを川から吊り上げ、水族館に運びました。

 水族館に到着する頃には、ヤリマンボウは息を引き取っていました。この地域で見つかるのは珍しい魚で、「川で」という境遇も特殊だったため、粟生さんは澤井さんに連絡し、正しい記録の取り方や、標本の作成方法を教えてもらったそうです。

川で発見されたその理由とは

 連絡を受けた澤井さんも驚いたといいます。「私はマンボウ類の調査のために、いつも海に行っているのですが、『どうして川に』とビックリしましたね」と笑います。

 そもそも、海水魚が淡水に入ってきても大丈夫なのでしょうか。澤井さんによると、魚の種類にもよりますが、短時間であれば真水に入っても生命に影響はないそうです。水族館などでも、海水魚の体表についた寄生虫をとる目的で、展示水槽に入れる前に淡水に入れる「淡水浴」を行う場合もあるといいます。

発見当時の状況

発見当時の状況

出典:九十九島水族館提供

 それでも残るのは、「どうして川に?」という疑問です。

 澤井さんは「過去にもヤリマンボウが河口に出現した事例は、数例報告されていた」といいます。それでも、淡水域まで遡上した例は今回が初めて。過去に考察された仮説と照らし合わせながら、ヤリマンボウが川にいた理由を推察していったそうです。

 まず、「誰かが川に放った」説。誰かがヤリマンボウを海から移動させて、川に捨てたのではと考えたそうです。しかし、江迎川下流で発見される数時間前に、海寄りの場所で川を遡上していくヤリマンボウが目撃されていました。つまり、ヤリマンボウは自分で泳いで川へと向かっていったことに。これにより、「誰かが川に放った」説は否定されます。

 次に、「川に入りたかった」説。澤井さんによると、ヤリマンボウと同じフグ目に属するトラフグ属の仲間(クサフグなど)には、海水魚にもかかわらず、自発的に川に入る行動が知られています。これは病原体の死滅などが目的と考えられています。それと同じ要領で、体表についた寄生虫を落とすための「淡水浴」が目的である可能性もあります。

 今回も、同様の理由があったのでしょうか?「病原体についてはわからないのですが、見つかったヤリマンボウからは体表に寄生虫が確認されたため、寄生虫の除去が目的とは考えづらいです」(澤井さん)と、これも否定。他の仮説も検証してみたものの、敵から逃れた様子もなく、餌を食べようとした形跡もなかったそうです。

澤井さん

澤井さん

 さまざまな説を考察していった結果、澤井さんと粟生さんが導き出した答えはこうでした。

 「単に『迷入』した可能性が高い」ーー。つまり、シンプルに川に迷い込んでしまったというのです。

 調べてみると、ヤリマンボウが発見された付近では潮の満ち引きがあり、満潮時は十分に泳げる水位があったそうです。「潮が引いていくにつれて泳げなくなって、打ち上げられてしまったのでは」と澤井さんは分析します。

 この結論に至ったとき、粟生さんは「何とも言えない気持ちになった」といいます。「迷い込む原因となったきっかけも、突き詰めようがないのです」と残念そうです。

 澤井さんは「この個体は運が悪かったとしかいいようがない」と話します。「Uターンもできたはずなのですが、たまたま避けるものや障害になるものがなく、まっすぐ川に進んでしまったのだと思います」 

「激レア」事例を論文に「必ず例外はある」

 澤井さんと粟生さんはこの「激レア」な事例を、2018年1月に論文[日本生物地理学会会報第72 巻 (2018)]として発表しました。
 
 粟生さんは「論文にすることで、いろいろな人の目に触れ、記録として残すことができる」と話します。
 
 「今後、もしも同じようなことが起こって、誰かが調べたときに今回の論文がヒントになれば嬉しいです。そうしたら、また別の理由が見つかるかもしれません」
 
 「小さな論文に過ぎないかもしれませんが」という澤井さん。「何事にも必ず『例外』はあるもので、生き物にも一般的な標準からはずれてしまう個体がいます。今回のヤリマンボウはもちろん、そういった個体もいるということを知ってもらえればうれしいです。例外的な事例も論文として残し、今回のように幅広い情報収集から、謎だらけの生態解明へと繋げたい」と話します。

展示のようす

展示のようす

出典:九十九島水族館提供

 今回発見されたヤリマンボウは、九十九島水族館・海きららで乾燥標本として保管されていますが、現在展示はされていないそうです。


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