地元
国道429号に現れた「UFOの秘密基地」 インスタ映え「廃虚感」正体は
この巨大な「円盤」は一体? 兵庫県中央部にある朝来市の国道429号。のどかな山道を走っていると突如、それは現れます。時折通り過ぎる車やバイクに乗った人たちが、その光景に足を止め、珍しそうにスマートフォンで写真を撮っています。「古代ローマ遺跡」「UFOの秘密基地」「(巨大な宇宙船が登場する)映画『第9地区』を想起した」――。その外形をたとえて、ネット上でそんな声も上がります。神殿のようなUFOのような、不思議なたたずまいに注目が広がりつつあるスポットです。
円形の天井に、それを支える何本もの柱。朽ちたコンクリートは、かすれた黒や茶が混ざり、独特の色合いです。近くで見ると、所々ひび割れています。
この円形の建物の中をのぞくと、壁にはメーターが付いた装置や配管が備え付けられ、さび付いた工作機などが、無造作に残されています。
この建物の奥にある山の斜面もまた、何かの跡地のようです。コンクリートの基礎部が、ひな壇状に残っています。
実はこの一帯、1919年に建設された「神子畑選鉱場」(兵庫県朝来市)の跡地です。ここでは、山を隔て約6キロ離れた明延鉱山(兵庫県養父市)で採鉱された鉱石から不要物を取り除き、亜鉛・銅・スズに仕分ける「選鉱」作業を担っていました。
選鉱の過程で、鉱石から不要な液体を分離させる機械装置「シックナー」が、円形の建物の正体です。シックナー上部は円形の水槽。ゆっくりと回りながら分離させた不要物が下にたまる仕組みでした。
山の斜面にひな壇状に建てられた選鉱場は、幅110メートル、長さ170メートル、高低差75メートルと巨大です。「東洋一の選鉱場」と呼ばれる規模と産出量を誇り、24時間稼働して夜中に光を発する姿は「不夜城」とも呼ばれました。
しかし、明延鉱山の閉山に伴い、1987年に神子畑選鉱場は閉鎖し、残っていた建物は2004年に解体されました。現在は一帯を史跡公園として保存され、一般公開されています。
来訪者数も徐々に増えています。朝来市によると、選鉱場跡の付近にある旧鉱山事務所「ムーセ旧居」が来訪した人は、2012年は2681人にとどまりましたが、17年には1万517人が訪れました。
2017年は選鉱場跡を含む兵庫県内の「播但貫く、銀の馬車道 鉱石の道」が日本遺産に認定され、前年から倍増しました。市の担当者は「日本遺産の認定に合わせ、注目が高まっているのを実感しています」と話します。
兵庫県加古川市から妻と訪れた無職、男性(71)は、近くにある竹田城跡に寄った後に、この選鉱場跡に遭遇しました。円形の建物を前にして、男性は「すごい施設が残っていた。いい観光資源です。もっと全国にPRしたらいい」と話していました。
神子畑選鉱場跡を知ったきっかけは、朝日新聞の読者の声欄に載っていた地元の女性の投稿でした。ふるさとである朝来市の「東洋一の選鉱場」について知ってほしい、という内容でした。
気になって訪れてみました。国道を走って、最初に目に入った巨大な円形の建物に引き込まれました。朽ちたコンクリートの柱には独特の存在感があり、しばらく眺めていても飽きません。
ネット上では「古代エジプトのカルナック神殿」「古代ローマ遺跡」などの反応がありました。目の当たりにすると、たしかに何かの遺跡や神殿のようにも見えてきます。
一方で、車で通りかかった人たちが、珍しそうに写真を撮っている姿を見て、全国的な知名度はまだまだなのかなと感じました。同じ朝来市内にあり「天空の城」として人気を博した竹田城跡に比べれば、観光資源として「伸びしろ」がり、ポテンシャルを感じます。
周辺を散策すると、近くには廃校して40年以上経つ、神子畑小学校の体育館や鉄製遊具が今も残ります。鉱山で働く従業員の子供たちが通っていた学舎の跡は、今も時間が止まったままのようです。
【所在地】 兵庫県朝来市佐嚢1826-1
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