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記念日登録、まさにバブル 年間200件以上も「きっちり審査」してた
十六茶の日、「信濃の国」県歌制定の日、神戸プリンの日、ガチ勢の日、牛たんの日、ドラゴンクエストの日、難病の日――。企業や自治体などが今春、一般社団法人日本記念日協会に登録した記念日の一部です。協会の審査に合格する、新たな記念日は年間200件以上。今年5月末現在でなんと合計1904件に上ります。協会ってそもそも何? なんで登録数が増えているの? 審査ってどうするの? 詳しく話を聞いてみました。(朝日新聞科学医療部記者・鈴木智之)
きっかけは、1枚のポスターでした。そこには「キッズの日はキズケアの日」の文言が――。聞いてみれば、日本創傷外科学会と日本形成外科学会が5月5日の「こどもの日」にあわせ、「こども(キッズ)」と「傷(キズ)」をかけて、昨夏、協会に申請し、認められたとのこと。
整形外科医に比べ、認知度もいまいちな形成外科医の存在を、「傷ややけどの専門医」として広く知ってほしい、との思いがそこにはありました。
この記事を書くために、協会に取材した際、私は初めてこの協会と膨大な記念日の存在を知りました。
協会は長野県佐久市にありました。電話で対応してくれたのは、代表理事で同市在住の加瀬清志さん(65)。職業は、なんと放送作家でした。もともと東京出身で、ラジオ局で深夜番組などを担当。30年以上前、番組のネタ探しのため、記念日を調べていたといいます。
きっかけになったのは6月10日の「時の記念日」。時計台の数など時計にまつわるエピソードを取り上げると評判が良く、その後も記念日を話題に番組を作りました。
それを続けていると、さながら「記念日博士」のように扱われるように。「いつの間にか視聴者だけでなく、全然知らないプロデューサーからも記念日に関する問い合わせが来るようになりました」と笑います。
ラジオを中心に1週間で10本以上の番組に携わっていたといいます。過労で体調がすぐれず、空気のいいところで子育てしたいという思いもあり、1990年に佐久市に移住。翌年には記念日の情報をまとめようと、協会の設立をラジオ番組で公表し、92年から協会として記念日の登録を始めました。
第1号は「ダイアナの靴の日」。日付は9と2で「くつ」と読む語呂合わせから9月2日。婦人靴販売で全国展開するダイアナが同社の靴の素晴らしさを多くの人に知ってもらうのが目的でした。
当初、登録数は年間10件ぐらいでしたが、徐々に増加。ここ数年では2014年144件、15年176件、16年221件、17年263件とうなぎ登り。加瀬さんによると、協会に登録されていないものも合わせると、日本には年間4千もの記念日があるとか。単純に平均して1日あたり10以上ある計算です。
どんな目的で登録するのでしょうか。
「商品などのPRを期待する人が多いです」と加瀬さん。登録するのは法人が多く、東京が突出している、とのこと。一方で、最近は地方の企業も増えていて、「人口あたりの記念日の数では関西の企業が多い。実利性と面白さを重視するのでは」と加瀬さんは推察します。
登録料は税別10万円。少し高い気がしますが、一度登録すれば更新料はかかりません。
実際に最近登録した会社にも聞いてみました。
トーラク株式会社(神戸市)は年間530万個を販売する看板商品で、かんきつが優しく香るなめらかなプリン「神戸プリン」が初めて販売された日に合わせ、2月1日を「神戸プリンの日」に制定しました。
きっかけについて、広報担当の田村麻希さんは「『神戸プリン』はおかげさまで2018年2月に25周年を迎えました。四半世紀を迎えたこの時期に、これからも『おいしさ』と『よろこび』をつないでいきたい、という思いを形にしようと、申請、制定に至りました」「社内で世代交代も進んでおり、当時の開発者の苦労や思い入れを社員と共有する機会を形にしたいという思いもございました」と回答。記念日にちなんだキャンペーンや特別商品の企画などを検討中だそう。
10万円の登録料については「登録後は幅広くPR活動に利用できることを考えますと、決して高くないと考えております」と答えてくれました。
加瀬さんのもとには、大学の卒業論文のテーマに取り上げ、「どうして記念日が好まれるのか」「企業にとって記念日は意味があるのか」といった内容を問い合わせに来る学生も増えているそうです。
やっぱり気になるのは「審査」方法。申請があったものを、すべて登録しているのでしょうか。それとも加瀬さんが独断で決めているとか?
聞いてみれば、毎週月曜日に審査会が開かれるそうです。インターネット電話「スカイプ」でつないだ会議に、加瀬さんを含めて計7人の審査員が出席します。加瀬さんが仕事などで知り合った主婦や会社経営者、学生など様々な肩書を持つ「普通の人たち」。現在、東京都や北海道、岡山などの13人が登録されており、内容に合わせ、都合がつく人に出席してもらっているそうです。
判断基準は「記念日として世の中に愛してもらえるか」、「特定の政党や宗教団体によるものではないか」などなど。話し合った後、加瀬さんを除く6人のうち、過半数の同意で合格となります。
もし、3対3の同数になったら? その場合は再度議論。「すでに登録されている記念日と似ている」「一つ一つの記念日を大事にすべきだ」などと意見をぶつけ、最終的には加瀬さんが判定します。昨年は申請された記念日のうち、8割強が合格。最近では審査員になりたいという申し出もありますが、募集はしていないそうです。
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