人とは違う見た目のため、好奇の目にさらされ、学校や就職、結婚で差別にあう「見た目問題」。上映中の映画「ワンダー 君は太陽」では、遺伝子の疾患で顔が変形した10歳の少年オギーが、見た目に悩む姿が描かれています。この映画を鑑賞した江原小学校(東京都中野区)の6年生68人が6月下旬、特別授業で、オギーと同じ疾患を持つ大学院生、石田祐貴さん(25)と交流しました。

オギー(写真右)は生まれつき顔のほおやあごの骨の発達に異常がある「トリーチャーコリンズ症候群」で、27回もの手術を受けてきた。顔にコンプレックスを抱え、外出時には宇宙飛行士のヘルメットをかぶっていた。自宅で学習を続けていたが、小学校5年から学校に通うことに。オギーは学校で好奇の目にさらされ、いやがらせを受ける。家族の励ましでなんとか学校に通い、子どもたちもオギーの人柄にひかれていく 出典: Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
特別授業、はじまりはじまり~
石田さんが登場すると、子どもたちの視線が石田さんに集まりました。みんな真剣なまなざしです。特別授業が始まりました。
石田さん

石田さん
映画はハッピーエンドで終わりますが、僕は小学校・中学校は好きではなく、中学では、不登校も経験しました。高校は特別支援学校に進み、優しい友だちと出会いました。今は、大学院で楽しい日々を送っています。
だけど今も、初めて会う人は僕を見て、「エッ」と反応します。電車で僕が座っていたら、隣に座ろうとした人が、僕の顔を見て、そのままどこかに行ってしまうこともあります。
小中学校の友だちは
質疑応答の時間には、「はいっ」と多くの子たちが手を挙げました。
児童
石田さん
小学生のとき、友だちと公園で遊んでいると、見知らぬ子たちが僕の顔をからかってきました。そのとき、友だちが「放っておいて、気にせず遊ぼう」と言ってくれました。

児童
石田さん
母「あなたのままでいい」
児童
石田さん
オギーのように、僕も母親に「どうして僕はこんな顔なんだ」「なぜ、こんな顔で生んだんだ」と言ったこともあります。
母親は「顔がどうであれ、私の息子。あなたは、あなたのままでいい」と言ってくれました。僕の一番の理解者である親に、そう言ってもらえたことは支えになりました。

学校に通えなくなって考えたこと
子どもたちは誰一人寝ることもなく、石田さんの話に耳を傾け続けました。
児童
石田さん
まず、「石田と関わりたい」って周りに思ってもらえるような、魅力的な人間になろうと思いました。人に優しく接し、人の話をよく聞ける人間になろうと。
もう一つは、僕はこの見た目なので、初対面の人は僕に話しかけづらいと思います。ですので、自分から話しかけるようにしようと意識しました。

児童
石田さん
そんな時、支援学校の先生が「つらいことから逃げるな」と背中を押してくれました。
両親も「途中で嫌になったら、退学してもいいよ」と言ってくれました。進学した以上は頑張らないといけないと思っていただけに、両親の言葉は救いになりました。
当たり前、でも大切な時間
児童
石田さん
当たり前のことかもしれないですけど、僕の場合は、小学生のとき、友だちと笑いあえる時間が少なかったですから。それだけに、今はそういう時間がものすごく楽しいし、大切だなって感じています。

親切ってなんだろう?
映画では、「親切にすること」の大切さが繰り返し訴えられます。子どもたちからも、こんな質問が出ました。
児童
石田さん
僕は聴覚にも障害があって、右耳のほうが聞こえやすくて、左耳は聞こえにくい。あるとき、友だちと話していた時、友だちが何も言わずに、僕の右側に移動してくれました。そういうさりげない優しさ、思いやりが、すごくうれしかった覚えがあります。
授業の終わりに、石田さんが給食を一緒に食べることが発表されると、大きな歓声が上がりました。はじめは緊張していた子どもたちもすっかり打ち解け、記念撮影では、石田さんを中心に笑顔が広がりました。

びっくりしたけど、慣れました
石田さんと児童に感想を聞きました。
石田さん
僕が話したことが、子どもたちが生きていく上で、何かのヒントになってくれればいいなと願っています。
野村弦希さん(11)
でも授業の時間がたつにつれ、そうした思いもなくなって、次に石田さんに会っても普通にお話ができるなと思いました。石田さんの顔に慣れたのかなと思います。
見た目ではなく、中身が大事なんだと思いました。

慣れてください。視線が違ってきます
映画では、オギーの親友が、オギーと知り合い、「顔には慣れることを学んだ」と回想する場面があります。
記者が石田さんと初めてお会いしたのは1年ほど前。正直に言えば、石田さんの顔を見て、違和感を覚えました。ただ、30分も話をしていると、違和感は薄まり、石田さんの話の内容を聴きとることに集中していました。
そう、顔には慣れます。
この記事を読んでいただいた中には、トリーチャーコリンズ症候群を初めて知ったという方も多いと思います。この記事を機に、石田さんの顔に慣れてください。そうすることで、街中で、見た目問題の当事者を見た時にも、「あっ、見たことあるな」と思えるようになり、当事者に向ける視線が違ってくると思います。