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2018年06月29日

「ネットの健康情報」見極め方 為末さんと医学部卒ライターが激論

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為末さんと朽木さんの熱いトークは2時間以上にわたって続きました

為末さんと朽木さんの熱いトークは2時間以上にわたって続きました

 元五輪日本代表のアスリート、為末大さんと、医学部卒でバズフィードジャパンの記者、朽木誠一郎さんという異分野の二人が「怪しい健康情報」について語り合いました。2年前にはネットで誤った医療情報が拡散して問題化しました。スポーツの世界でも根拠に乏しい練習法の問題はあるそうです。トップ選手の練習法をまねすればいいのか? ネット情報の信頼度の見極め方は? デジタル時代に求められる情報スキルについて交わされた異色の対談を紹介します。

「NGワード」と「命に関わるか」

 イベントは、「怪しい情報が出回る状態が、医療界だけでなくスポーツ界にもある」という為末さんの問題意識から実現しました。6月12日、東京都渋谷区で開かれた対談(朝日新聞医療サイトアピタルなど主催)には約100人が耳を傾けました。

     ◇

【関連記事】怪しい健康情報、為末さんのジレンマ 数十万フォロワーの社会的責任

<ネット上にあふれる膨大な情報。ジョークであったり、悪意のあるものだったり、全てを見分けるのは難しい。最低限気をつけるべきポイントは何か? 議論から出てきたのは「命に関わるかどうか」というラインでした>

為末さん 陸上競技をやっている朽木さんと以前から知り合いで、きょうは、どうやって医療情報と向き合っていくか質問したいな、と。そもそも信じていいのか、誰を信じたらいいのかというのを相談しにきました。

朽木さん その答えがあるなら誰もだまされないですよね(笑)。

 自分が医学部を出てライターをしているからかもしれないけれど、その情報を信じるかどうか疑うのは、「命に関わるかどうか」をラインにするべきだと思っています。

 例えば、健康食品には病気を防ぐ効果はありません。あるなら医薬品のカテゴリーになるので。でも、例えばがんが治るかのような雰囲気で健康食品を買わせる、というのは悪質さ、深刻さが違う。疑う線を引くのは、命に関わる問題かどうかですね。
 

NGワードは9割方疑ってかかる

<ウェブも書籍も、読んでもらいたいので目を引くタイトルをつけがちです。そこで重要なのが「NGワード」。専門家がチェックするアラートを鳴らすべきポイントとは?>

――朽木さんは3月に出版した著書「健康を食い物にするメディアたち」で、正しい情報の見極め方について書いています。

朽木さん 誰にでもできる情報の確からしさの見極め方は、まず、「NGワード」。ダイエットの宣伝でも、「すぐに」「楽に」は疑っていい。

為末さん 僕の書いた子どものかけっこの本、すぐに足が速くなるってタイトルなんだけど(笑)

朽木さん カリフォルニア大学ロサンゼルス校の津川友介さんが「究極の食事」と題した本を出したんです。あおったタイトルだけれど、中身は正しい。それが広まって読まれたらプラスではないでしょうか。

為末さん NGワードには9割方アラートを鳴らしておくのがいいのかな。

朽木さん 例えば著者が為末さんなら、信頼度もある。誰が、というのも一つの基準です。なので次は「6W2H」。誰が、いつ、どこで、何を……といった情報を一つずつ検証する。ただ、全部にやるのは難しいので、ざっとやるのはNGワードですね。

 そして、科学的根拠の中でも信頼性が高いかどうかを確認します。例えば、試験管や動物での実験結果は、複雑な人間には当てはめられない。

 あとは因果関係ですね。例えば、メタボ検診です。検診するから長生きなのでしょうか。それとも、メタボ検診を受けるような意識の高い人だから長生きなのでしょうか。そんな因果関係があるかどうかで判断します。

「金メダリストをつくる人」が「いい指導者」?

会場を訪れた人たちは熱心に聴き入っていました

会場を訪れた人たちは熱心に聴き入っていました

<トップ選手の練習法が正解なのか? 「水を飲むな」といった誤った指導の背景には「金メダリストをつくる人」が「いい指導者」になりがちな構図があると言います>

――為末さんは、スポーツ・医療・メディアの世界にいる朽木さんに、その中でどの世界を一番疑うかも問いかけました。

朽木さん SNSがあって誰もが発信者になれるので、最近一番疑うべきは「メディア」かなと思います。気軽に「これを飲んたら調子がいい」とツイッターに書いた瞬間に、10万リツイートされることがある。

 でも、自分は医学部で体のシステムの原則を学んだので、○○を摂取したらすぐに○○がよくなることはありえない、と考えられるようになっています。

――情報を見極める必要がある一方で、人は「信じたい」という思いがあるのではないか。為末さんはそう指摘します。

為末さん 人間は「何か決めてもらいたい」と思っていますよね。エーリッヒ・フロムは「自由からの逃走」と言っています。「妄信する」というのはブレーキのないアクセルみたいなもので、がけに向かっていれば落ちてしまう。たまたま信じたことの当たった人が、金メダリストになって、それを広める、というのが今のスポーツ界で起きていることじゃないですか。

朽木さん それが間違っていればかけがえのない競技人生は失われてしまいますよね。

――過去に信じられていたトレーニング情報が、現在は間違いだとされることも多いそうです。

為末さん 昔の「水を飲むな」とか体罰もそうですよね。(それでも成功した人がいたから)「だってそれで成功しているじゃないか」という連鎖を生む。昔は、いい指導者は「金メダリストをつくる人」だった。

 ストレッチを嫌がる選手がいたんですね。「なんか走れない気がする」と言って。最近、ストレッチをすると弾力が落ちてパフォーマンスが落ちるという論文が発表されたんです。けがの予防にはプラスなんですが。スポーツでは、選手が感覚的に気づいているけど、データが追いついてくる前、ということがよくある。データがないと、何かを信じて、はめ込みたくなる。

スポーツのエビデンス 母数が少ない

<自分で自分の道を切り開かなければならないのがトップ選手。一方で、プライドや過去の自分の考えに縛られることも。分かっているところは利用し、分かっていないところは自分で検証していく考え方が求められています>

朽木さん ただ、トレーニングって誰が専門家なのか分からないんですよね。自分でトレーニング理論の記事を書こうとして調べたけれど、医学の研究に比べると対象者の母数が数十人などと少ない。どの論文を信じたらいいか分からない。トレーニングに関して信じられる人って誰なんでしょうか。

為末さん 北京五輪の時の陸上のウサイン・ボルトは、勝つ2時間前にチキンナゲットを食べて、黒色の炭酸を飲んでいました(笑)。たった一人の成功者が、「俺は速い」「こうやればいい」と言えてしまう世界です。

 (「トップアスリートの母数が少ない」というのは)現場に起きるジレンマですね。例えば400mハードルで47秒出せる選手は、母数30くらいまでしかいけない。一方で、強くなるチームがデータを使っているのも事実です。バランスが難しいけれど、結局、「正しい」を積み上げるのが確率として高いと思います。

 長期的に見ると、本当に自己流の選手は頂点に行っていない。スターは、それぞれの専門家をつけています。テニス選手のフェデラーも、栄養や筋トレといった専門家が10人くらいいます。

 ただ、正しい情報だけ与えられたアスリートは自分の頭で考えられなくなる可能性がある。

朽木さん 各個人が仮説と検証のサイクルを回すしかない。母数が少ないので、自分に合う・合わないを実践していかないといけないけれど、選手の競技人生は有限なので難しい。分かっているところは利用し、分かっていないところは検証していくしかない。

為末さん トップ選手になると「俺にハードルのこと言うのか」みたいな気持ちになる。過去に自分で言ったことに縛られる面もありますし、プライドの問題もありますよね。

為末さん 世の中が複雑になりすぎてますよね。自分はコメンテーターもやっているので、例えば人工知能について聞かれても、「わかんない」とは言えない。人工知能について分かっている人が誰なのかが分からない。誰が知っているのか教えてほしい。

朽木さん 学問が細分化していて専門家しか分からないことが多い。だから「お医者さんが言っているから」という情報だけでは、信頼できない。医師監修とつけながら間違った情報を掲載したメディアが問題にもなりました。

 でも、医療情報に関しては、ネット上でいい傾向が起きています。率先して医師たちがネット上の情報を検証するようになった。自浄作用が働いてきていると思います。

為末大(ためすえ・だい)1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。3度のオリンピックに出場し、男子400メートルハードルの日本記録保持者。コメンテーターとしても活躍し、スポーツに関する事業を請け負う会社「侍」を経営している。主な著作に『走る哲学』『諦める力』など。

朽木誠一郎(くちき・せいいちろう)1986年生まれ、茨城県出身。2014年群馬大学医学部医学科卒。2014年メディア運営企業に入社後、編集長を経験。2015年有限会社ノオト入社を経て、2017年4月にBuzzFeed Japan(バズフィードジャパン)に入社、医療記者として活動している。2018年3月に単著『健康を食い物にするメディアたち』を出版。


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