連載
#23 夜廻り猫
守ってくれなかった先生「俺、信頼してたのに」夜廻り猫が描く噓
「もう大丈夫と言うので、静観していたまでです」。いじめの相談をした担任から言われて……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「噓」を描きました。
「泣く子はいねが~。むっ 涙の匂い…!」
きょうも夜の街を夜周りしていた猫の遠藤平蔵は、公園のベンチに独りでいる男の子の心の涙をかぎとります。
中学2年生の頃からいじめられていた男の子。母親と一緒に、担任の先生に相談しました。
母が「何か対応はしてくださったんでしょうか」と尋ねると、
「本人が大丈夫だと言うので静観していたまでです」
先生はそう言って、まばたきもせずに男の子を見ます。「そんな話してない。先生は噓をついた」。そう思っても、怖くて口に出せませんでした。
噓をつかれたことを誰にも言わずに、それから学校に行っていないという男の子は、ぽつりと言います。
「何かが壊れちゃったんだ 俺 先生を信頼してたんだ」
遠藤は、そっと背中に手をあてて、ただ男の子に寄り添うのでした。
作者の深谷かほるさんは「近ごろ、保身のための噓がずいぶん報道されました。立場が下の人が犠牲になるのは変わりませんね」と振り返ります。
深谷さんは「噓」には4種類あるのでは、と指摘します。
子どものつく罪のない噓。人を守るための噓。心や体が限界で、やむを得ずついた噓。そして、人を傷つける噓。
「大切な信頼関係を守るために、ついてはいけない嘘があると思います。そんな嘘で、本当の保身は出来ない。そう思いたいです」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本1~3巻(講談社)が発売中、7月に4巻発売予定。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。黒猫のマリとともに暮らす。
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