連載
#32 ことばマガジン
「神対応」「鬼かわいい」… カミとオニ、正反対のはずなのになぜ?
ほめ言葉を強調して使うときに、「とても」「超」ではなくて「神」や「鬼」を使う人が増えています。
【ことばをフカボリ:15】
ほめ言葉を強調して使うときに、「とても」「超」ではなくて「神」や「鬼」を使う人が増えています。「神対応」「鬼かわいい」という語を見聞きしたことはないですか? もとは若者たちが主にネットの世界で使っていた用法ですが、一般にも広まってきています。「神」と「鬼」、正反対に思えるのに似た使われ方をしている背景を探りました。(朝日新聞校閲センター・永川佳幸/ことばマガジン)
「神対応」は、「心配りの行き届いた対応」といった意味。ファンへのサービスに熱心な芸能人に対してや、機転を利かせてトラブルをうまく処理した際などに使われます。
こうした「神」について、「現代用語の基礎知識2017年版」は「何かのレベルが神の領域であり、超すばらしいこと」と解説しています。「神曲(かみきょく)」や「神ゲー(ゲーム)」、親友ならぬ「神友(しんゆう)」など、ほめたい名詞を修飾する形で使われます。
プロ野球・広島の監督が選手の活躍を評して発した「神ってる」という表現も、流行語大賞を受賞するなど話題となりました。監督は「息子との会話で聞いたのをそのまま使った」と、由来を明かしています。
もともと若者やネットの世界で通用していた「神」の新しい使い方が、世間に広まった一つのきっかけと言えるでしょう。
子どもたちが接する児童文学や絵本には様々な神様が登場します。神様は物語の中で正しい行いをする者に祝福を与える存在として描かれます。
高千穂大学教授で日本昔話学会委員の立石展大さんは、昨今の「神」の使われ方は「現代日本人の一般的な神様に対する理解にも沿っているのだろう」と指摘します。
一方、「鬼」を付けるのも最近の新しい強意表現の一つです。「とても。やばいくらい」(現代用語の基礎知識)を意味します。
名詞の前に付く「神」に対して、「鬼」の方は「鬼強い」「鬼速い」のように形容詞の前に付く例が多いようです。
より短い言い回しを好む若者の言葉らしく、「鬼のように」を省略した形で使われるようになりました。鬼には恐ろしい印象がありますが、「鬼うまい」「鬼かわいい」など多くは好評価を強めるために使われます。
立石教授によると、風神や雷神などの荒ぶる神が鬼の姿で描かれるように、古くは「カミ」と「オニ」は同義だったといいます。「現代に、神と鬼の使われ方に共通するところがあるのは面白い」と話しています。
昔話でも、「こぶとりじいさん」のように、ときに鬼が福をもたらす存在として姿を現すことがあるそうです。好んで使っている現代の人たちが知ってか知らずかは定かではありませんが、「神」と「鬼」が同じようなプラス方向の強調の働きをしているのは、何とも神秘的な現象ですね。
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