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連載

#13 #withyou ~きみとともに~

「脳性まひ」から芸人、ホスト…食わず嫌わない人生の「#withyou」

脳性まひで生まれつき足に障害がある寺田ユースケさん。車いすで新宿・歌舞伎町のホストをしていました=2016年
脳性まひで生まれつき足に障害がある寺田ユースケさん。車いすで新宿・歌舞伎町のホストをしていました=2016年 出典: 寺田さん提供

目次

 挑戦することに尻込みをしてしまい、悩んでいませんか? 寺田ユースケ(本名・湧将)さん(28)=東京都目黒区=は脳性まひで、生まれつき足に障害があります。それでも、お笑い芸人に挑戦し、ホストになり、車いすを押してもらう「ヒッチハイク」で全国をめぐっています。「食わず嫌いをせずに、挑戦を」とアドバイスします。(朝日新聞文化くらし報道部記者・山本恭介)

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全部読めなくてもいいです、これだけ覚えておいて

【寺田ユースケさんのメッセージ】
食わず嫌いをせず、挑戦を
・自分の気持ちを文章にしよう
・必ず支えてくれる人がいる
寺田湧将(てらだ・ゆうすけ) 1990年、愛知県出身。脳性まひのため生まれつき足に障害があるが、イギリス留学やお笑い芸人、歌舞伎町のホストに挑戦。現在は「車いすを押してくれませんか?」と声をかけて日本全国を進む、車いすヒッチハイクの旅のチャレンジをしている。2017年12月、自伝「車イスホスト。」(双葉社)を出版。
寺田湧将(てらだ・ゆうすけ) 1990年、愛知県出身。脳性まひのため生まれつき足に障害があるが、イギリス留学やお笑い芸人、歌舞伎町のホストに挑戦。現在は「車いすを押してくれませんか?」と声をかけて日本全国を進む、車いすヒッチハイクの旅のチャレンジをしている。2017年12月、自伝「車イスホスト。」(双葉社)を出版。

イギリス留学、芸人、ホスト…

 ――車いすに乗りながら、色々なことに挑戦をしてきました。
 
 「大学時代、英語を学ぶためにイギリスに1年間留学しました。イギリスでは、障害者を笑いのテーマとしているテレビ番組があり衝撃を受けました。自分も日本で障害を笑いに変えることで障害者のイメージを変えたいと、大手お笑い事務所に入り3年間学びました」

 「芽が出ずに芸人を辞めるか悩んでいた頃、友人にホストをすすめられ、新宿・歌舞伎町のホストを2年間やりました」

 ――なぜ挑戦し続けるのですか。
 
 「挑戦をすることで、新しい、面白い世界を見ることができました。ホストは女性をだます仕事だと思っていて、その世界に入るのをちゅうちょしていました。でも、やってみて、障害者への偏見をなくしたいと思っている自分も、ホストに対して偏見を持っていたことに気づきました」

 「色々挑戦することに対して、『ブレている』という人もいますが、それでもいいと思っています。自分が一番輝ける場所はどこか、ずっと探している感覚で、今でもその繰り返しです。やってみて、これは違ったな、でいいじゃないですか。やる前から食わず嫌いをしない方がいいと思います」

お笑い芸人として舞台に立つ寺田さん=2015年
お笑い芸人として舞台に立つ寺田さん=2015年 出典: 寺田さん提供

車いすは「かぼちゃの馬車」

 ――10代の頃は、悩んだそうですね。
 
 「足を引きずりながらも歩くことはできたので、健常者に負けたくない、と19歳まで車いすに乗ることを拒否していました。歩き方をまねされて傷ついたこともありました。それでも健常者と一緒に野球をして、同じようにできているという自負がありました」
 
 「ただ、大学生になって、恋愛もサークル活動もうまくいきませんでした。広いキャンパスを友だちと並んで歩くにも汗だくになり、会話を楽しめませんでした。次第に大学に行かなくなり、19歳の時はパチンコ漬けの生活になりました」

 「その頃、両親から車いすに乗ることをすすめられました。車いすに乗らない生活をしてきた自分の選択が否定される気がしました」

 「でもこのままではいけないという思いもあり、葛藤しながらも車いすに乗ると、想像以上の自由に感動しました。まるでかぼちゃの馬車のようで、世界が開け、何でも出来ると思うようになりました」

 「食わず嫌いをしていた車いすが、自分の人生を前向きに変えてくれ、新しい世界への挑戦を後押ししてくれました」

野球に打ち込んでいた小学6年生のころ
野球に打ち込んでいた小学6年生のころ 出典: 寺田さん提供

 ――やっておいてよかったことはありますか。
 
 「自分の気持ちを文章にしてみるのはいいと思います。見返すと、忘れてしまっていた気持ちを知れて、その後の行動を考えるきっかけにもなり、背中を押してくれるかもしれません。その文章を基に昨年末、『車イスホスト。』(双葉社)という本を書くことができました」

ナンバーワンホストに支えられた

 ――本では色々な挑戦の一方で、自分勝手さを反省するまでの変遷も描かれています。
 
 「健常者に勝ちたいと突き進んできたのですが、自分勝手で、人への感謝の気持ちが欠けていました。ホストの時は、自分の売り上げばかりを考えていました。でも、僕がいることで店内の通路を広くするとか、グラスの運び方が変わるので、周りは配慮をしてくれていたんです」
 
 「店のナンバーワンのホストが、車いすの僕と一緒に働くことに不満をためる従業員一人一人に理解を求めて頭を下げてくれていたことは、ホストを辞める時に初めて知りました。自分は人に支えられて生きてきたんだ、と人生を振り返りました」

新宿・歌舞伎町でホストをしていたころの寺田さん=2016年
新宿・歌舞伎町でホストをしていたころの寺田さん=2016年 出典: 寺田さん提供

 ――寺田さんを支えてくれた人が本に多く出てきます。
 
 「本は自伝ですが、支えてくれた人たちの武勇伝でもあります。家族、友人、お笑いの師匠、ホストの先輩……。人生の節目節目では、必ず支えてくれる人たちがいました。助けてもらっている時には、そのありがたさになかなか気づけませんでしたが、周りの支えがあってこそできたと思っています」

車いす押してくれませんか?

 ――昨年4月からは、日本全国の道行く方々に「車いす押してくれませんか?」と声をかけて進む、車いすヒッチハイクの旅を始めました。
 
 「19歳の頃の一番落ち込んでいたときの自分が、今こんなことをしていると知ったら驚くだろうな(笑)」

 「身体が動かなくなる前に日本全国を訪れたい、車いす押してもらって進んだらたくさんの人と交流できて楽しい、という思いが根底にあります」

 「ヒッチハイクのきっかけは、駅の階段で車いすを運ぶのを手伝ってほしいと駅員に相談したら、管轄外だからと断られたこと。それを友人に相談したら、周りの人にお願いすればよかったじゃん、と言われました」

 「気軽に助けて(HELP)と言えて、気軽に後押し(PUSH)できる社会になればと思い、仲間たちと名付けたのが『HELPUSH』(ヘルプッシュ)です。その思いも背負って、ヒッチハイクの旅に出ました」

ヒッチハイクで車に乗せてくれた人と一緒に=2017年6月
ヒッチハイクで車に乗せてくれた人と一緒に=2017年6月 出典: 寺田さん提供

 ――感謝されることも多いとか。
 
 「助け合いを押しつけるのではなく、偶然の出会いでも、車いすを押してもらっている時間を楽しんでもらいたいというのを大事にしています。『楽しかったよ、ありがとう』というような言葉をかけてもらうととてもうれしいです」

【関連リンク】脳性まひで車いす、ヒッチハイク始めたら逆に感謝された:朝日新聞デジタル

静岡県でヒッチハイクをする寺田さん=2017年7月
静岡県でヒッチハイクをする寺田さん=2017年7月 出典: 寺田さん提供

楽しみながら挑戦しよう

 ――悩む若者にメッセージをお願いします。
 
 「今年中に全国踏破を目指します。僕も挑戦を続けるので、固く考えず、楽しみながら一緒に頑張りましょう。僕もまだまだ自分が輝けるところを探しています。絶対に見つけます。最近になってやっと、僕が『挑戦』を続けることが、誰かの役に立つのかもしれないと思えるようになりました。でも、周りに支えてくれる人がいるということは忘れないで、感謝の気持ちを持ち続けたいです」

【旅の様子はツイッターYouTubeチャンネル「寺田家TV」で放送予定です。クラウドファンディングで旅の資金も募っています】

福井県の東尋坊で、手伝ってくれた人と一緒に記念撮影=2017年6月
福井県の東尋坊で、手伝ってくれた人と一緒に記念撮影=2017年6月 出典: 寺田さん提供

取材を終えて

 取材して感じたのは「まずやってみる」ことの大切さでした。10代の若い人たちの中には、はじめの一歩が出せないで悩む人もいるのではないでしょうか? そんな時、寺田さんの「やってみて、これは違ったな、でいいじゃないですか」という言葉が背中を押してくれるかもしれません。
 
 記者も寺田さんに刺激され、尻込みしていたツイッターを始めることにしました。いろんな生き方や考え方をどんどん発信していきます。


 withnewsは4月から、生きづらさを抱える10代への企画「#withyou」を始めました。日本の若い人たちに届いてほしいと、「#きみとともに」もつけて発信していきます。以下のツイートボタンで、みなさんの生きづらさも聞かせてください。

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いろんな相談先があります

・24時間こどもSOSダイヤル 0120-0-78310(なやみ言おう)
・こどものSOS相談窓口(文部科学省サイト
・いのち支える窓口一覧(自殺総合対策推進センターサイト

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