お金と仕事
5月病の君へ 高卒で「DMM.com」築いた亀山会長が考える学歴
DMMの亀山敬司会長(57)は「生きる力をつけるには、学歴じゃない」と話します。高卒後に露天商から始め、動画配信やゲームなどネットコンテンツ事業の巨人「DMM.com」を一代で築いた亀山会長に、学歴についての考えを聞きました。
お金と仕事
DMMの亀山敬司会長(57)は「生きる力をつけるには、学歴じゃない」と話します。高卒後に露天商から始め、動画配信やゲームなどネットコンテンツ事業の巨人「DMM.com」を一代で築いた亀山会長に、学歴についての考えを聞きました。
ゴールデン・ウィークが終わり、「5月病」の季節が来ました。せっかく勉強して入った大学に、うまく居場所が見つけられなかったり、そもそも、受験勉強で燃え尽きてしまったりして「学歴ってなんだろう」と、モヤモヤしている18歳もいるはず。そんな君にDMMの亀山敬司会長(57)は「生きる力をつけるには、学歴じゃない」と話します。高卒後に露天商から始め、動画配信やゲームなどネットコンテンツ事業の巨人「DMM.com」を一代で築いた亀山会長は、「君に、大卒に負けない力を!」をキャッチコピーに、2年前から私塾「DMMアカデミー」を設置。大学に行かない若者に給与を支払いながら、ビジネスを教えています。亀山会長にDMMアカデミーを開いた理由や学歴についての考えを聞きました。
多くの若者が、行けるものなら大学に行きたいと思っている。それは親も同じで、子供が将来何の仕事をするかより、なるべく偏差値の高い学校に入れてあげたいと思っている。
でも、たぶん本当の目的は社会人になったとき、なるべく収入が良くて安定した仕事につくため、その確率を上げるために、とりあえず大学を目標においているんだと思う。
別に大学がいらないとか、学歴に価値がないとか言ってるわけじゃない。ないよりあった方が出会いとチャンスは広がるからね。ただ、自分の経験から「生きる力」をつけるには、いろいろな道があるんじゃないかと。
俺は石川県の飲食業の家の長男として生まれたんだ。実家が「海の家」とかをやっていて、子どもながらにその手伝いをしていた。皿洗いとか客引きとかね。商売が常に生活の身近にあった。この体験も今にして思えば無駄じゃなかったと思う。
10校の大学を受けて全部落ちた。それなら、税理士になろうと上京して専門学校に入った。簿記1級までとったけど、将来性を感じなくて、専門学校を中退。19歳で露天商になった。当時は、まだおおらかな時代で、東京の繁華街のあちこちで露天商がいたんだよね。原宿や六本木の路上で、自作のアクセサリーを売ってた。
露天商で100万円くらいのお金がたまると、バックパックで半年くらい海外を放浪した。アメリカではウエイターのバイトをしたり、メキシコではトルコ石を大量に買ってきて、それを東京で売ったりした。またお金がたまったら海外放浪。そんな生活を3年くらいやった。
同級生が大学にいる時期に、会社の決算書が読めるようになり、商売で自立して、世界中を旅していた。どの体験も今の社会に直結していて、今の俺の根幹を作っている。
雀荘とかカフェバーとか旅行代理店とか、いろいろやったよ。どれも借金を返すのが精一杯で上手くいかなかった。けど、レンタルビデオ店を始めた頃から軌道に乗るようになってね。レンタルビデオ店での稼ぎで、DVDの物販をやり、その利益でインターネット事業をやった。まだ稼げる事業があるうちに次に来る事業に投資して、節操なく生き残ってきた。
いまは、動画配信やゲーム、FX証券や太陽光発電事業などがグループの柱だけど、3Dプリンターや英会話、アフリカでの事業などを始めている。日本市場は小さくなるし、どうせ海外に行くなら、まだ日本企業があまり入ってないアフリカの方が、将来性があると思うからね。
これまでのDMMを大きくしてきた社員は、地元のレンタルビデオ店でバイトをしていた若いやつら。幹部も高卒のたたき上げが多い。大学に行かなくても、会社の実践の中で、チャンスと教育と報酬を与えれば、必死にインターネットや商材の勉強をしてビジネスを覚えていく。
DMMグループはいま全体で40以上の事業を動かしている。売上高は2000億円くらい。従業員は3000人以上。仮想通貨やAI(人工知能)やVR(バーチャルリアリティ)と新しい分野に積極的に入っている。会社が大きくなってくると、慶応とか早稲田とか、有名大学卒の若者が入社してくるようになった。彼らはもちろん優秀で有望な人材が多いよ。でも、やっぱり会社にはいろんなやつらがいた方がいい。
人材の多様性を大事にしたいと思って、DMMアカデミーを作った。とんがっているやつ、勢いのあるやつ、ぶっ飛んだアイデアを温めているやつ。そんな何かをやりたいっていう18~22歳くらいの若者を集めた。授業料は無料。というか、月給20万円プラス希望者には住居を斡旋する。1期生、2期生合わせていま20人いるんだけど、各期で600~800人の募集があった。
募集してくるのは、大学に落ちたやつ、辞めたやつ、休学したやつ、専門学校に行ってたやつや、地方で仕事をしていたやつなど、いろいろいる。そんな中で入学したやつは、自分でビジネスやってるやつや、全国模試で1番とって東大に入れるようなやつや、ベトナム国籍のやつ。少年院に入っていたヤンキー、ホームレスをやってた変わり者もいる。お互いに会ったことのない人種同士が刺激を受けて交わっている。
アカデミーといっても講義して具体的に何かを教えているわけじゃない。与えるのは自由と機会。うちにはいろんな事業部があるから、好きなところに行って、自分を売り込んで、仕事を学んでこいっていう感じ。外のイベントやボランティアに参加してもいいし、他社で学んでもいい。
DMMをつかって何でもいいからやってみろと。自分で考えて行動してみろと。人を巻き込んで何かを成してみろと。学んでほしいのは、そういうこと。
隔週でミーティング開いて、各人がやっていることの進捗(しんちょく)状況を報告させて、アドバイスをする。税務なら○○に聞けとか、その分野なら、今度○○さんを紹介してやるとか。そんな具合にね。あと、俺のこれまでの経験に照らし合わせて、さまざまな場面でどう判断したかもアドバイスする。
月に2回のミーティング以外は基本的に自由だから、どこで何をするかはそれぞれが決める。真剣に自分のやりたいことを考えてみろというのがお題。半年ごとにアカデミー生を継続するか審査するけど、途中で社内の事業部に就職するやつもいるし、辞めて大学や海外に行くやつもいる。
アカデミー生は卒業後、DMMに入社することは課していない。他社に行ってもいいし、自分で起業してもらってもいい。「それじゃDMMの利益にならないでしょ」と、よく言われるけど、それは覚悟の上。中には「ただ飯食えて、ラッキーだった」くらいに思うやつもいるだろうけど、一人くらいはグループ会社の社長になるやつが出てくるかもしれない。離れていくやつだって恩義を感じてくれて、いつかどこかで何かにつながることもあるだろう。もちろんビジネスだから慈善事業ではない。長い意味での「人への投資」だね。
これからの時代は、テクノロジーの進化が早いから、社会はどんどん変化する。会社の寿命は短くなり、人の寿命は長くなる。同じ会社で最後までやり切れる人は稀になると思う。学歴がものをいうのは、せいぜい新卒入社までだから、本当の稼ぐ力をつけないと次がない。そしてその力をつけるのは、勝手に考えられる癖。
AIやロボットがどんどん広がるから、指示待ち人間では生きにくい世の中になる。DMMアカデミーは学校でも会社でもなく、「長めの夏休み」みたいなもの。そこで考えて行動して変われるやつが、育ってくれたらいいと思うね。
かめやま・けいし 1961年、石川県加賀市出身。県立大聖寺高校卒。DMMホールディングス会長。長くメディアへの露出は避けてきたが、2010年ごろからインタビューなど受けるようになった。東京・六本木にある本社までは自転車通勤。顔は公表していない。
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