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お金と仕事

中村うさぎが「クラウドファンディング」にハマる…「過激な理由」

クラウドファンディングについて「自己責任で気が楽」と語る中村うさぎさん
クラウドファンディングについて「自己責任で気が楽」と語る中村うさぎさん


 インターネットで資金を募る「クラウドファンディング(CF)」はアーティストのデビュー支援から、メーカーのテストマーケティングまで、幅広く使われるようになっています。自らもクラウドファンディングの経験がある作家の中村うさぎさん(60)は「今後のメインになると思う」と語ります。「出版社が作家を育てる時代はずいぶん前から終わっている」と話す中村さんに、クラウドファンディングの可能性について聞きました。
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お金が集まらなくても
自己責任で気が楽
――中村さんは約1年前にムック本のクラウドファンディングをしていますが、そのきっかけを教えてください。

 

中村うさぎさん

『売春の非犯罪化』『表現規制反対』を訴える本を出したいけど、世間体を気にする出版社では難しいと思ったんです。『自費出版でやりたいけど資金がないなあ』ということをツイッターでつぶやいたら、(クラウドファンディングサイトの)CAMPFIREの社長の家入一真さんから『じゃあ、うちでやりましょう』と言われて。

 

中村うさぎさん

クラウドファンディングって、お店を出したいとか、まだ無名の人が自分の夢をかなえたいとかいう利用が多いじゃないですか? あんまりプロの作家が自費出版で本を出したいというのは見たことない(笑)。出版社が出してくれると楽ができるからいいんだけど、私は自分で全部やるというのも、ちょっとやってみたかったんですよね。
中村うさぎさんがクラウドファンディングで集めた資金を元手に出版した本
中村うさぎさんがクラウドファンディングで集めた資金を元手に出版した本 出典:エッチなお仕事なぜいけないの? 売春の是非を考える本 | 中村うさぎ公式サイト

 

中村うさぎさん

まあ私の書いているものっていうのは、私が勝手にホストクラブに行って、はまって、勝手に書く。企画自体も編集者じゃなくって私がしているようなもんなんですけど。でもそうは言っても、やっぱ私も出版社で本を出す以上は売れなきゃ悪いなという気持ちも生じるわけで。

 

中村うさぎさん

これがクラウドファンディングだと、お金が集まらなくても自己責任で気が楽でいいですね。もちろん、売れては欲しいですけど。
出版社がひるむテーマ
自分の思い通りに
――クラウドファンディングでは約163万円が集まりました。商業ベースで出しても成功したのでは?

 

中村うさぎさん

分かんないですねえ。そもそも、出版社があまり手を出したくないテーマだと思うんですよ、特に売春は。売春って刺激した場合に『炎上』するという、そういうテーマの一つだと思うんですよ。

 

中村うさぎさん

絶対触れられないわけじゃないんだけど、触れないに超したことがないテーマ。出版社に持ち込んで断られたかどうか分からないんだけど、出版することになっても思い通りには作れなかったかもしれない。だったら、自分の思い通りに作れるほうがいいと思いましたね。
オランダ・アムステルダムの売春宿。2000年から合法化されている。写真は2008年撮影
オランダ・アムステルダムの売春宿。2000年から合法化されている。写真は2008年撮影 出典: 朝日新聞社
顔の見えるやりとり
うれしかったですね
――実際にやってみて、どうでしたか?

 

中村うさぎさん

自分とは関係のない世界の話で『どうでもよくない?』という反応が多いかと心配していたけど、一般の会社員や主婦も含め、思っていたより多くの人が関心を示してくれました。

 

中村うさぎさん

モノを書くって個人的な作業で、作家には、どういう人がどういう気持ちで私の本を読んでくれているか、読者の顔がなかなか見えない。

 

中村うさぎさん

クラウドファンディングは支援者と直接つながってやりとりができる。いまのプロジェクトの状況を報告したら、支援者から励ましの言葉をいただいたりして、顔の見えるやりとりができるのはうれしかったですね。
クラウドファンディングの仕組み
クラウドファンディングの仕組み 出典:クラウドファンディングとは | 朝日新聞社のクラウドファンディングサイト A-port
一緒に作りましょう
それが良さだなって
――中村さんなら、ファンから手紙やメールがくることも多いのではないですか?

 

中村うさぎさん

クラウドファンディングのときはファンの方にメールアドレスを公開したから、みなさんも反応が良くって。著者のところに絶対届くわけだから、みなさんも言いやすかったんだと思うんです。風俗嬢の座談会など、本に登場していただいた方も何人かいます。

 

中村うさぎさん

クラウドファンディングって、ネットならではのシステムだと思うんですよ。読者が作家を一番支えていると思うんだけど、その読者にとって作家が遠い存在だったり、作家にとって読者が顔の見えない存在っていうのは、なんかさみしいなと思うところがあります。

 

中村うさぎさん

それがクラウドファンディングだと、資金提供という形で参画してくれたり、協力してくれたり、読者にとっても、『本に自分が携わっている』という実感がうれしいんじゃないかなって思うんですよね。『一緒に作りましょう』っていう感じがあるじゃないですか。それがクラウドファンディングの良さだなって思います。
ちょっと面白いこと
なかなか実現しない
――朝日新聞の「A-port」でクラウドファンディングをしているイラストレーターと歌人を応援しているそうですね。

 

中村うさぎさん

2人とも知り合いで、たまたま2人ともゲイなんですけど、若い子で活動していて、まだ世にものすごく知られているわけでもない人たちが、名前を知ってもらったり、作品を見てもらったりして、なおかつファンが増えてくれたら、いいなと思って。
【関連リンク】57577の『短歌』で日本中に愛を届けたい!短歌のリリックビデオ制作プロジェクト
【関連リンク】「親に愛されなかったマイノリティ」の絵本を出したい!

 

中村うさぎさん

絵本のプロジェクトをしているイラストレーターのこうき君の絵は、独特、グロテスクな絵。絵本を扱っている出版社に持ち込んでも、その編集者の方に気に入られなければ世に出ないから一般の方のところにも届かないでしょう。

 

中村うさぎさん

歌人の鈴掛真くんがリリックビデオを作りたいというプロジェクトは、短歌を詠んでもらうだけでなく、自分の世界観を映像化するという、いかにも若い世代の歌人らしいアイデアだと思いました。

 

中村うさぎさん

でも、ちょっと面白いことをやるというのも、なかなか実現しない。出版社に持ち込むと、出版社さんが制作費を全部請け負うわけだから慎重になるのが当然です。
出典:「親に愛されなかったマイノリティ」の絵本を出したい!|朝日新聞社のクラウドファンディングサイト A-port
売れようが売れまいが
読者は気にしない
――編集者とクラウドファンディングの違いは?

 

中村うさぎさん

作家という立場でいえば、編集者の方は作家を育てる気持ちはあるかもしれないけど、読者が作家を育てるのとは、スタンスがちょっと違うと思うんですよね。

 

中村うさぎさん

編集者は売れる、売れないとか、賞をとる、とらないとか、そういうのが念頭にあるわけじゃないですか。読者の方なんて、そんなの気にしちゃいない。それがものすごく売れようが売れまいが、自分の見つけたものが一つの形になれば、満足感を覚えることが多い。
――デビュー作が一番インパクトがあったっていう方もいますよね……

 

中村うさぎさん

そうです、そうです。初心って大事だと思うんですよね。お店を始めるという人の場合もそうですが、銀行の審査はお堅いし、よっぽど物好きなお金持ちでもない限り、個性があるからなんてところには投資しない。

 

中村うさぎさん

でも、クラウドファンディングでは、まだ無名な、初心みたいなものに人が投資してくれる。クラウドファンディングは、強烈な個性みたいなものが芽を出す土壌を作れるんじゃないかなと思う。

 

中村うさぎさん

出版社が作家を育てる時代はずいぶん前から終わっていると思うんですよ。コミケがすごいマーケットになって、漫画家は同人誌から生まれているじゃないですか。同人誌から生まれた作家って読者に育てられているから、ものすごく距離感が近い。
開催のたびに大勢のファンが集まる同人誌即売会「コミックマーケット」=2013年12月30日、東京都江東区
開催のたびに大勢のファンが集まる同人誌即売会「コミックマーケット」=2013年12月30日、東京都江東区 出典: 朝日新聞社
ベストセラー生まれにくい
だから面白いんだと思う
――クラウドファンディングを通じて作品を作っていくというのは、これからも増えていくと思いますか?

 

中村うさぎさん

うん。ただ、クラウドファンディングは多様化を促進するので、一つの作家につくファンは減ると思いますね。クラウドファンディングの中からベストセラーは生まれにくいかもしれないけど、ベストセラーが生まれないから面白いんだと思うんですよ。
――ベストセラーは今まで通りのシステムで売ればいい?

 

中村うさぎさん

そうそう、そうなんですよ。万人受けする本は普通の商業出版で出しゃいいと思うんですよ。クラウドファンディングはそうじゃなくて、数は多くなくてもコアなファンがいるもの、ファンというよりマニアが支えているようなシステムじゃないかと思います。

 

中村うさぎさん

同人誌だって支えているのはマニアじゃないですか。それまでの商業出版が『なんとかフェア』をやったって集まらない人数が一つの会場に集まって、思い思い好きなものを選んで買っていく。

 

中村うさぎさん

私はそっちのコミケとか同人誌マーケットのほうが、今後のメインになると思うので、クラウドファンディングもその流れでメインになってほしいなと思います。

     ◇

なかむら・うさぎ 1958年、北九州市生まれ。大学卒業後、繊維会社などに勤務し、91年に作家デビュー。自らの浪費癖を描いた「ショッピングの女王」など著書多数。

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