グルメ
東北の珍味ホヤ「全員に好かれなくても…」第2のパクチー目指し奮闘
ホヤをご存じですか?東北の三陸沿岸を中心に愛されている海の幸です。潮の香りの中にうまみと甘みがあり、ほんのり苦みと酸味も漂う複雑な味わい。刺し身や酢の物にすることが多く、珍味とされてきたこの食べ物を、いま、もっとメジャーにしようという動きがあります。(朝日新聞be編集部記者、大村美香)
こんな感じで、見た目は怪獣のよう。これは三陸で養殖されている「マボヤ」という種類です。赤いイボイボがある殻の中に収まっている黄色い身の部分を食べます。貝のようにも見えますが、学問上は尾索(びさく)動物という分類で、人間などの脊椎動物に近いグループにあたります。日本のほか、韓国やフランス、チリなどでも食べているそうです。
主な産地は北海道と、青森から宮城県の三陸沿岸。養殖が主で、宮城県が国内生産量トップ。全国の7割を生産しています。海に浮かべたイカダから水中にホヤの種苗をつけたロープをつるし、3年ほどかけて育てます。
2011年の東日本大震災で、養殖業は壊滅的被害を受けました。それでも漁業者は直後から再建に取り組み、14年には本格的出荷ができるまでになりました。
ところが、最大の取引先だった韓国が13年から福島、宮城など8県の水産物を輸入禁止に。震災前、宮城県の生産量の8割が、韓国への輸出品。大きな市場を失って、16、17年には売り先のない品物を陸上で処分する事態にもなりました。
「知名度を上げて、日本で多くの人に食べてもらおう」と、関係者が様々に取り組んでいます。加工品を開発したり、今までなじみのなかった西日本へも売り込んだり。仙台市には昨年、ホヤ料理専門店が登場。16年から宮城県は5月3日に仙台市の公園で「ホヤ祭り」を開催、料理の販売やレシピグランプリを行っています。
3月3日には、東京・恵比寿でホヤをフランス料理で味わう会がありました。企画したのは「ほやほや学会」。ホヤの窮地を打開しようと、14年に結成しました。ホヤによる東北の振興をミッションに掲げ、ホヤファンと共に認知度向上と消費拡大を目指すネットワーク。フェイスブックで「いいね!」をすると学会員になれます。
私は以前からホヤが好きだったもので、珍しいホヤのフルコースをぜひ味わいたくて、自腹で会費(お酒付きで6500円)を払い、参加させてもらいました。
ホヤの殻でだしを取った「ホヤのビスク」や、海水のジュレをまとった「ホヤときのこのマリネ」など、ホヤづくしの7皿が出ました。
この日集まったホヤ好きの間で一番人気だったのは、「ホヤとタラの芽とふきのとうのキッシュ」。山菜の苦みとホヤの苦みが響き合い、しばらくするとフワッと口の中にホヤの甘みがやってきました。
デザートもホヤ。てんさい糖で漬けたホヤで塩味のアイスクリームを包み、ココナツミルクのスープを流してあります。奇抜なように思えますが、ホヤがフルーツのように感じられてココナツの風味とぴったり。できるならもう一度味わいたい…。
ホヤは鮮度が命。水揚げから時間が経つと、独特の風味がきつくなってしまいます。鮮度の落ちたホヤを食べて、家庭用台所洗剤を口に入れたみたいだ、と評する人もいるほど。
その風味こそが魅力、というホヤ好きもいますが、初心者にはハードルが高い。ですので、これから食べてみようと思う方はぜひ、新鮮で良質なホヤを選んでください。一番お勧めなのは産地へ行くこと。ホヤの旬は夏です。身が厚くてうまみののったホヤが味わえます。
ほやほや学会の田山圭子会長は「ホヤは強烈な存在感があって、他に似たものがない。全員に好かれなくても、一部の人に愛されるようになれば。第2のパクチーとしてブームを作りたい」と話しています。
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