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#28 ことばマガジン

広辞苑、こんなとこも変わってた 校閲記者の視点でチェックしました

国語辞典の「広辞苑」が10年ぶりに改訂され、第7版が刊行されました。日頃よく使う校閲記者として、興味をひかれた点

新たに刊行された広辞苑第7版。左は第6版
新たに刊行された広辞苑第7版。左は第6版

目次

【ことばをフカボリ:11】

 国語辞典の「広辞苑」が10年ぶりに改訂され、第7版が刊行されました。第6版から数百項目削り、約1万語を加えました。新たに載せた「LGBT」や「しまなみ海道」の説明が誤りだという話題が先行しましたが、既にあった項目にも目立たないながら画期的な変化があります。日頃よく使う校閲記者として、興味をひかれた点を紹介します。(朝日新聞校閲センター・田島恵介/ことばマガジン)

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朝日新聞東京本社校閲センターの棚に並ぶ広辞苑
朝日新聞東京本社校閲センターの棚に並ぶ広辞苑

スマホと携帯


 「スマホ」が7版から加わったことは、広く話題になりました。一方、「携帯」の説明文が少し変わったのは、あまり知られていないようです。

 2番目の語釈が「携帯電話の略」なのは旧版と同じですが、直前に「『ケータイ』とも書く」という注記が付きました。

 岩波書店辞典編集部によれば、ある言葉をどのような種類の文字で表記するかに言及した項目が他にもあるため、「ケータイ」というカタカナ表記を明示したのだそうです。また、「ガラ携」の項目で「普通『ガラケー』と書く」と注記したこととも関わるようです。

三省堂書店神保町本店の広辞苑の特設コーナー=東京都千代田区
三省堂書店神保町本店の広辞苑の特設コーナー=東京都千代田区 出典: 朝日新聞

「ナウい」はもはやイマ風ではない?


 「ナウい」は、6版には「nowを形容詞化した俗語」とあるだけでしたが、「ナウを形容詞化した昭和末の流行語」となりました。もはやイマ風ではないという見方のようです。

 ことばの使い方を示した「作例」や、過去の文献などにもとづく「用例」にも、時代を映した変化がみられます。

 「熱を上げる」の作例は、6版は「ビートルズに熱を上げる」でしたが、「アイドルに熱を上げる」と変わりました。辞典編集部によれば、現代の感覚に合わせたのだそうです。

 フランス語のpetitに由来する「プチ」は、6版では「小さい」「かわいい」などの語釈だけでしたが、用例に「プチ整形」が加わっています。手軽な美容整形が一般的になってきた証しとも言えそうです。

広辞苑第7版の改訂作業に使用した「校正刷り」の束が整理されて棚に並ぶ=東京・神保町の岩波書店
広辞苑第7版の改訂作業に使用した「校正刷り」の束が整理されて棚に並ぶ=東京・神保町の岩波書店 出典: 朝日新聞

変化に伴って語釈を追加・変更


 ことばの意味の変化に伴った語釈の追加や変更は、ほかにも各所で見られます。

 「姑息(こそく)」は、本来「その場しのぎ」という意味です。しかし近年、「ずるい」との意味で多く使われるようになり、それを受けて「俗に、卑怯(ひきょう)なさま」と加えられました。

 「みみざわり」も目を引きます。

 6版は「【耳障り】聞いていやな感じがすること。聞いて気にさわること」だけで、「耳障りがよい」を誤用と記していました。7版は「【耳触り】聞いた感じ。耳当たり。『―のよい言葉』」が別に立ち、「誤用」のくだりが消えました。

 「にやける」には「俗に、にやにやする」との語釈が加わりました。本来の「なよなよとしている」ではなく、「薄笑いを浮かべている」と捉える人が、2012年の文化庁国語世論調査でも8割近くにのぼっています。

 「爆笑」も、6版の「大勢が大声でどっと笑うこと」から、「はじけるように大声で笑うこと」と笑う人の数を問題としない語釈へと変わりました。

 いまでも、「大勢で/一斉に笑うこと」、などのように説明する国語辞典がまだ多数派で、「爆笑は本来1人ではできない」と指摘されてきました。しかし、90年ほど前の使用例でも1人で大笑いしていると捉えられるものがみられます。ようやく世間の実態に合ったとも言えます。

 辞典編集部によれば、「誤りだと言われてきた意味・用法でも、昔の文献に当たって必ずしもそうでないとわかったものは、書き方を変えた」とのことです。

「最後のことば」は

広辞苑の「最後の語」が「んとす」から「ん坊」に
広辞苑の「最後の語」が「んとす」から「ん坊」に


 最後に、広辞苑が収める「最後のことば」についてです。

 初版(1955年刊)から6版までは、一貫して「んとす」でした。その作例も、途中の版からわざわざ「終わりなんとす」(まさに終わろうとする)に変えて、なかなかしゃれた締めくくり方でした。

 しかし今回、その後ろに「ん坊」を加えました。同部によれば、「赤ん坊」「しゃべりっ放し」など、前の語との間に別の音(「ん」「っ」など)が入るものも接尾辞としていくつか見出しに立てたと言います。

 広辞苑の最後のことばが初めて変わったのも、新版の画期的な変更点といえるでしょう。

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