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連載

#26 平成家族

離婚、本人だけで決めてない?弱いサポート、ITや自治体でじわじわ

離婚と同時に、子どもをめぐって夫婦が争うケースが目立つなか、まだまだ離婚を「プライベートな問題」と考える意識は根強く残っています。夫婦の対立がそれほど深刻ではないケースでも、子どもについて話し合う機会が見逃されている場合があります。背景にあるのはサポート体制の弱さです。

離婚前に子どもについて話し合うための支援が広がりつつあります(写真はイメージ=PIXTA)
離婚前に子どもについて話し合うための支援が広がりつつあります(写真はイメージ=PIXTA) 出典: PIXTA

目次

 離婚と同時に、子どもをめぐって夫婦が争うケースが目立つなか、まだまだ離婚を「プライベートな問題」と考える意識は根強く残っています。夫婦の対立がそれほど深刻ではないケースでも、子どもについて話し合う機会が見逃されている場合があります。背景にあるのはサポート体制の弱さです。行政や民間企業では、離婚を考える夫婦を支援する取り組み輪が広がりつつあります。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子)

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見落とされがちな「その間のケース」

 家族法に詳しい早稲田大学の棚村政行教授は、子どもを持つ夫婦の離婚には「3つの層がある」と言います。

 ひとつは自分たちで話し合って、今後の養育方針などをふたりで決められる層。もうひとつは、夫婦の葛藤が非常に高く、第三者を入れて厳密な条件をつけた交流や養育などを検討していかなければならないパターンです。

 棚村教授が課題を感じているのは「その間のケース」。

棚村教授は「その間のケース」が見落とされがちと話す(写真はイメージ=PIXTA)
棚村教授は「その間のケース」が見落とされがちと話す(写真はイメージ=PIXTA)

 本当は第三者のアドバイスや関与があればうまくいく場合でも、話し合わないまま離婚したり、司法の場で争ってかえって関係が悪化したり、ということに陥りやすくなります。

 棚村教授は、「改正民法で、『子どもの利益を最優先して養育費や面会交流を協議する』という条文が組み込まれても、夫婦間の合意を形成したり、合意を守ったりするための支援態勢が十分ではない」と指摘します。

子どもの養育プラン、「離婚前」に

 そんな中、離婚を考える夫婦に対して、独自の支援を行っている市があります。

 子どもを核としたまちづくりを掲げている兵庫県・明石市。2014年から、離婚届を取りに来た人全員に「こどもの養育に関する合意書」や「こども養育プラン」など、夫婦で離婚後の子どもの養育について話し合うための参考資料を配布しています。

 養育費の額や毎月の支払い期限、面会交流の頻度や連絡方法など、手引きに沿って空欄を埋める形式になっています。月に1回、専門家による相談も受け付けています。

明石市が配布している「こどもの養育に関する合意書」の記入例
明石市が配布している「こどもの養育に関する合意書」の記入例 出典:明石市のホームページ

 合意書の印刷や面会交流のコーディネートなど、できる限り市の職員の手で行うことで、事業費も抑えてきました。この取り組みは注目され、問い合わせは全国の自治体から集まっているといいます。

 合意書の提出は強制ではなく、提出数なども開示していませんが、合意書を手に窓口に相談に来る親もいるそうです。

 棚村教授は「明石市のような取り組みや、家庭裁判所が開催している、離婚を考える夫婦を対象に子どもの心理を知ってもらうための『親ガイダンス』など、支援が全国的に行われれば理想的です。せめて合意書の参考書式やパンフレットの配布など、運用でできるところから広がってほしい」と話しています。

「離婚しても親は2人」という意味を込めて

 また、行政だけではなく、民間企業でも取り組みが始まっています

 リーガルフロンティア21(東京都千代田区)は、今年2月、離婚した、あるいは離婚を考えている夫婦の子どもの養育費と面会交流の取り決めをサポートするサービス「Paren2(ペアレンツ)」のα版(テスト版)のユーザーの募集を開始しました。

「Paren2」のサイトより
「Paren2」のサイトより 出典:「Paren2」のWEBサイト

 α版ではLINEやFacebook Messengerを使用。子どもの年齢や自分の年収、面会の希望など、投げかけられる質問に答えていくと、養育費の額や面会交流の頻度などを提案してくれるという内容です。お互いに合意した内容は証明書として書面化が可能です。養育費の決済や、面会交流のスケジューリングなどもサービスとして提供し、夫婦が直接連絡する必要はありません。

 α版は弁護士が対応し、今年8月開始予定の正式版では、やりとりがある程度自動化されるといいます。

 企画・監修に携わった大江哲平弁護士は「相手と関わりたくないという理由で、取り決めが行われなかったり、したいと思ってもどうしたらいいかわからなかったり、という夫婦の養育の手助けになればいい」と話します。

「Paren2」の企画・監修に携わった大江弁護士(中央)
「Paren2」の企画・監修に携わった大江弁護士(中央)

 正式版の料金はまだ検討中だそうですが、α版は月額980円。募集を開始すると、想定を上回る数の問い合わせと申し込みがありました。現在もユーザーの募集をしていますが、定員に達した場合、途中で募集が締め切られる場合もあります。

 「Paren2」というサービス名には「離婚しても親は2人」という意味が込められています。

 「考え方が違っても、子どもを思う気持ちは両親ともに一致しているはずです。そういったマインドセットを持って使っていただけたら」(大江弁護士)

連載「平成家族」

 この記事は朝日新聞社とYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。家族のあり方が多様に広がる中、新しい価値観と古い制度の狭間にある現実を描く「平成家族」。今回は「離婚」をテーマに、3月28日から3月31日まで計4本公開します。

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