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カーリングブーム「4年に一度のやつ…」今ならわかるマリリンの真意
また「4年に一度」で終わってしまうのでしょうか。それともメダル効果で、過去数回のブームとは違う継続的な人気が高まるのでしょうか。平昌五輪で日本女子が銅メダルを取ったカーリングの話です。カーリング担当記者として五輪で2度、現地取材をした立場として、ブームで終わらせないための方法を考えました。(朝日新聞スポーツ部記者・平井隆介)
平昌五輪も終盤を迎えた2月下旬、LS北見を立ち上げた主将、本橋麻里選手(31)の言葉が注目を浴びました。「カーリングが注目されている? 4年に一度起きるやつですよね」
「マリリン」こと本橋選手は、2006年トリノ、10年バンクーバー五輪はチーム青森の一員として出場し、人気を博しました。
優先的にカーリングに打ち込める恵まれた環境で臨みながら、結果は7位と8位。バンクーバー五輪の直後、青森を離れて、生まれ故郷の北海道・常呂に戻って自らチームを立ち上げる決意をしました。
その時、取材で聞いた言葉が今でも心に残っています。「恵まれている分、本当に考えるカーリングが出来ていなかったから、五輪本番で力を出し切れなかった」「単純に言うと、カーリングしかしていなかった。でも海外のチームを見ていると、カーリングだけじゃないんです」
本橋選手が衝撃を受けたのはバンクーバーの選手村で見た風景でした。スウェーデンチームは選手村のカフェテリアで家族全員で和気あいあいと食事を取っていました。それを見て、「負けたな」と思ったそうです。
「彼女たちはカーリングが好きで、自分の人生を輝かせるためにカーリングをやっている。家族全員でひとつの夢を追いかけている」。それに比べ、「こっちには心に余裕がなくて、何に向かって戦っているんだろうなあという気持ちになった」。
誰もが五輪の舞台に立てるわけではありません。でも誰もが、あるスポーツを愛し、生涯をかけて楽しむことはできます。スウェーデンやカナダ、カーリング発祥の地のスコットランド(五輪では英国)の選手たちは「何よりカーリングを愛している」と本橋選手は感じました。
日本でカーリングが愛されるためには、圧倒的に「場所」が足りません。平昌五輪期間中、「東大式 すべらないカーリング観戦術」のインターネット解説を手がけてくれた東大OBらからなるチーム東京のみなさんは、週末に往復6時間かけて長野・軽井沢のリンクまで練習に出かけます。五輪のたびに注目を浴びるとはいえ、悲しいかなマイナー競技。東京圏にはそもそも練習できる場がないのです。
チーム東京の橋本祥太朗さん(30)は「日本のカーリング界がさらに発展するためには施設の拡充も必要です。大都市に施設がないと、愛好者を含めたカーリング人口の増加は期待できない」と嘆きます。そうした下支えがないからこそ、これまでは一過性のブームで終わってしまってきたのではないでしょうか。
夏の五輪で日本ではマラソンのテレビ視聴率が高いのは、日本に数多くの市民ランナーがいることと、恐らく無縁ではありません。レベルの高低にかかわらず、自分が取り組んでいる競技は応援したくなるものです。
その意味で、やはり多くの人にやってもらう必要があるんです。
例えば、ボウリング場で一般愛好者がカーリングを楽しむようにすることはできないでしょうか。氷を張ると値段も張りますが、昨今は表面が樹脂で出来たスケートリンクも広まり始めています。こうした技術を利用し、ボウリング場やレジャー施設で気軽に楽しめるようになると、競技を取り巻く環境は変わるに違いありません。
「4年に一度」で終わった前回のソチ五輪までとは違い、今回はメダル効果もあり、「自分もやってみたい」というニーズは絶対に高まっているはずです。
日本で野球やサッカーほどにカーリングの競技人口を増やすことは、恐らく永遠に難しいでしょう。ただ、カーリングは、激しいトレーニングや苦しい練習を積まなくても、とりあえず始められるので、生涯スポーツとして楽しむには絶好の競技です。
「人生を輝かせるためのひとつのツールとして、カーリングをやっている」。マリリンこと本橋選手が掲げる高い理想に少しでも近づくことが、ブームを乗り越えるための第一歩だと思います。
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