話題
中国「失われた世代」との付き合い方 20代の社長続々、仕事は大変…
中国は、経済だけでなくSNSなどITの発展も進んでいます。そんな中国では、20代、30代の社長も次々と生まれています。ビジネス上、欠かせない相手になっている中国。特に若い世代とはどのように付き合えばいいのでしょう? 日本について紹介した中国語の動画が30万回以上再生されるなど、日中の若者に詳しい石谷祐真さん(27)に、中国で「失われた世代」と言われる90年代、2000年代生まれの世代について聞きました。
現在、中国系のコンサルティング会社「株式会社中国市場戦略研究所」で働く石谷さん。山形県蔵王出身で、高校2年の時、経済が急成長している中国への語学留学をすすめられました。
「実は、高校時代に蔵王の温泉やスキー場でアルバイトをしていた時、中国人観光客のマナーについて少しマイナスなイメージがあったんです」と明かします。
それでも「 特に失うものもない」という理由で、中国の可能性を感じ、留学を決断したそうです。
留学したのは北京外国語大学です。2009年4月、北京に行き、最初の3カ月は英語で授業を受け、9月から正式に1年生として勉強が始まりました。専攻は「経済貿易」でした。
「とても広いと感じました。2008年にあった北京オリンピックの直後だったので、街はとてもきれいでした。最近はスモッグが問題になっていますが、当時は、空気も特に悪くなかった印象です」
2011年ごろからは、尖閣列島(中国語:釣魚島)問題で中国各地で反日デモが発生。北京でも例外ではなく「最も怖い思いをした」のもこの時期だったそうです。
たまたま、日系のケーキ屋さんにケーキを予約し、取りに行かなければならなかった石谷さん。その時にデモ隊に遭遇してしまいます。
「さすがにやばいと思い、とっさの判断で、デモ隊に参加したんです。一緒に十数メートルを歩きました。その後、こっそり抜け出すことができました」
また、タクシーを拾うのも大変だったそうです。日本人だと分かると、乗車拒否されることが多く「韓国人を嫌う中国人ドライバーもいたりして、その後、タイ人と名乗りなんとかなりました……」と振り返ります。
一方、こうして経験をしたからこそ、中国の事情をよく分かったという石谷さん。「やはりそれも中国だったので、とても貴重な経験でした」。
石谷さんは1990年生まれです。中国でも1990年以降に生まれた世代は「90後」と呼ばれています。
中国の「90後」は一人っ子世代で、生まれた時から経済が成長し、あまり苦労をせず、携帯・スマホなどを使いこなしてきた世代です。
その一方で、辛抱強さや逆境を乗り越える強さに欠けているという理由から、中国では「壊れた世代(失われた世代)」と呼ばれることもあります。
ただ石谷さんは「そんなこともないです」と否定します。
「各世代にギャップがあるのは確かです。ハングリー精神が足りないとか、対人コミュニケーションが苦手な人が多いなどはあると思います。若者がスマホを駆使し、ネットでのコミュニケーションが増えたので、口で自分の意見主張を伝えない面もあるかもしれません。でも『90後』の若者にしかできないこともたくさんあると思います」
その代表として、石谷さんが挙げるのがITベンチャーの経営者たちです。
「中国では20代30代の社長が多くいて、日本でも同じ世代の若い社長がユーチューバー(動画)に目を付け事業を起こし成功している人がいます」。
その一方で「新しいビジネス分野は、上の世代に知識がないため、若者が若者のニーズに合わせ、新しいビジネス分野を開拓しています」と話します。
「若者やネットの世界がよく分からず、ビジネスとしても参入もできない『大人』世代が理解できない。そのため『失われた世代』と呼ばれているのではないでしょうか」
石谷さんは、そんな風に見ています。
石谷さんは注目するのは、「90後」よりさらに若い、2000年以降生まれた「00後」です。
中国で人気の動画アプリ「抖音」(ドウイン)。日本では「Tik Tok」(ティックトック)として知られています。15秒ぐらいの音楽付きショートビデオを撮影し、シェアできます。いわば「動画のインスタ」です。
「アプリに投稿される動画は、日本も中国もトランジションという撮影方法で作成するショートムービーで、おもしろ系、可愛い系が人気です。つまりデジタル上で日中の若い世代は、趣味趣向が似てきて、共通の感覚を持っているのです」と石谷さん。
「日中の壁がなくなれば、日本が中国に進出するだけでなく、中国の流行や文化などが日本に浸透してくる可能性も十分あります」
昨年12月、「日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと」というタイトルの記事が話題を集めました。書いたのは、石谷さんと同世代で26歳の藤田祥平さんです。
記事は、日本の高度経済成長と同じ光景が、深センで起きていることを伝えるルポでした。
石谷さんは、記事について「深センの電気街やIT業界に、いきなり日本人が飛び込んだら同じ感想を持つでしょう」と言います。
「アリペイ、WeChat Pay、シェアリングバイク。中国の『最先端の部分』が目立つようになったのは、実はごく最近のことです」と言う石谷さん。
「そして、少し古い中国も、あります」と付け加えます。
「まだ、日本のことをよく知らない上の世代がいるし、中国国内でも地域格差、世代格差がすごくあります。中国は一言で簡単にまとめて語ることができないのです」。
記事では、経済において中国に「完敗」した日本は、若い人材を積極的に送り出すよう提案しています。
石谷さんは人材輸出について「基本的に賛成です」と考えます。
「優秀な若い人材は環境に適応しやすいです。輸出した人材が中国のスピード感、チャレンジ精神、楽観主義、とにかくやってみよう精神など物事の進め方を学習します」
「そして日本の優れた組織マネジメント力、リスク管理、物事を丁寧に進めようとするきめ細かさ、チームで協力する協調性などの能力をバランスよく活かして仕事ができれば、より優秀な人材になれるはずです」
「もし、日本の若者が中国に行くのであれば、徹底的に中国人の生活に浸かって、中国人とコミュニケーションしてほしいです」
一方で「人にはよりますが、中国人との仕事は大変です」と言う石谷さん。
中国人を相手に仕事をする際にはコツは必要だと強調します。
「例えば最初はすごくノリがよくても、仕事を進めているうちに向こうのペースになります」
「今、ご飯食べているから後で連絡すると言われて来ないのは当たり前。納期に間に合わないのは当たり前。明らかに相手に落ち度があるのに、謝罪はなしで、よく分からない代替案を言ってきて適当にごまかそうとするのは当たり前。少し厳しく言うと逆ギレされるのは当たり前……」
そのため大事なのは「自分のペースを保つこと」。
「中国人は食事を大切にするので、こっちも都合悪かったら、今は外食しているから、後で連絡すると言ってごまかしたりすることもあります(笑)」
もう一つ、情緒に寄り添うことも大事です。嫌なことを頼む際は、自分の意思ではなく、第三者を立てるとうまく進むそうです。
「基本的に私はあなたの気持ちを理解していると伝えます。その上で、第三者が言うから、本当は私も嫌だし、あなたと同じ考えだけど、なんとかやってもらえない? そんな感じで、第三者のせいする。そうすると中国人は、『あなたも大変だよね。任せて!』という感じで頑張ってくれることが多いです」
そして「中国人が持ってるアプリを全部インストールして」というアドバイスします。
中国語版LINEの微信、中国語版ツイッターの微博、ECサイトのタオバオ(淘宝)、動画サイトの「愛奇芸」「bilibili」、ニュースアプリの「今日頭条」などをすべてインストールすべきだと言います。
「これからは中国の若者が経済を引っ張っていきます。同じ若者として、中国の若者が触れているものすべてに触れてほしい」と石谷さんが力説していました。
1/40枚