連載
#6 辺境旅
マニアもビビる…キングオブ酷道「425号線」で見た日本の「原風景」
狭い道幅、時に命の危険も感じるワイルドさ。国道なのに「酷道」と呼ばれる道があります。これまでに32万キロ、地球8周分の道路を走破した猛者が「あそこまで酷い道はなかなかない」と太鼓判を押すのが国道425号。いったいどんなドラマが待っているのか、意を決して挑戦。そこで見た光景は……?(朝日新聞記者・井上裕一)
教えてもらったのは、茨城県在住の佐藤健太郎さん(47)。「ふしぎな国道」「国道者」といった国道のうんちくをまとめた著書があり、国道マニアの間では有名人です。
全国に459本ある国道のうち、数本を除いてすでに走ったという佐藤さん。1日で500キロぐらい走ることもあり、これまでの走行距離はなんと32万キロ。地球1周は約4万キロですから、実に8回も地球を回った計算になります。
そんな佐藤さんですら「あそこまで全線酷い道はなかなかない」というのが国道425号です。
2日かけて実際に走ってきました。
425号は和歌山県御坊市と三重県尾鷲市を結び、紀伊半島を横断する道です。
御坊市を出発してしばらくはのどかな道が続いていたのですが、和歌山県田辺市龍神村を進むと、「転落死亡事故多発」との看板が出てきました。車1台がぎりぎり走れるほどの道幅で、対向車がきてもすれ違えません。舗装状態も悪く、車はガタガタと上下に揺れながら水たまりを乗り越えていきます。
道路の真ん中に直径30センチほどの石が転がっており、ひやりとすることも。道路わきはすぐ崖なのにガードレールはなく、少しでもハンドル操作を誤れば即転落です。「酷道」を楽しむ余裕なんてなく、ひたすら神経をすり減らすドライブが続きました。
そんな道を10キロ以上走り、奈良県十津川村に入って間もなくでした。紀伊山地の奥深く。見渡す限り山々が広がる地で、道路わきの急斜面にへばりつくように民家が並んでいました。
「迫西川(せいにしがわ)」という集落で、現在の住民は20人ほど。かつては林業が盛んで、425号も林道として使われていたそうです。
いまは「酷道」とも呼ばれていますが、住民にとっては買い物や通院に欠かせない道です。村の中心部まで車で1時間ほどかかり、不便なようにも見えますが、集落に住む85歳のおじいちゃんは「よそから来る人から『これが国道か。村道でもないで』と笑われるけど、慣れな、しゃあないから」と淡々と話します。
近くの家に住む90歳のおばあちゃんは、21歳のとき、この集落まで歩いて嫁いできたそうです。「おり慣れたら、そう苦にもならんです」と笑顔で話してくれました。
425号はその先も、紀伊山地を縫うように走り、集落と集落を結びながら続きます。何本ものトンネルをくぐり抜け、見晴らしのいいダムやつり橋を渡ると、途中、シカやサルの姿も。そこには確かに、変わらぬ日本の暮らしや豊かな自然があり、「酷道」の先にある魅力を垣間見ることができました。
佐藤さんは、「楽しみ方は人それぞれです。この道はどこまで続き、何のためにつくられたのか。そんなことを考えながら走ってみると、また味わい深いですよ」とアドバイスしてくれました。
ただし一言、「あまり酷い道は本当に危ないので、推奨はできませんが」とのこと。冬季は路面の凍結もあるので、運転が不慣れな人は酷道は避けた方がよさそうです。
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