話題
合コンより野宿 大学探検部に入る理由って?「一見無意味でも…」
渋谷で合コンより、島で野宿。スマホが生まれSNSが浸透した今も、あえて荒々しい自然と向き合う大学探検部に入る学生がいます。新歓コンパは離島合宿。なぜ探検を追い求めるのか。どんな集団なのか。実態を探りました。
話を聞いたのは早稲田大学探検部です。今年8月、ロシア極東・カムチャツカの未踏峰登頂を果たしました。
早大探検部を語る上で、外せないキーワードの一つが「海外」です。1959年の創部から続いてきた海外遠征は、今回で155回を数えます。過去の活動も、「どうやって行ってん」と思えるものばかり。ナイル川全域踏査、コンゴでの幻獣探し、タクラマカン砂漠横断……。中には、世界初の調査だったものも。挙げ始めるとキリがありません。
そんな恐れ知らず(?)が集まる部には現在、他大学の学生を含め男子30人、女子9人が所属しています。他大学では部員不足が進む中、同部はここ20年で一番の大所帯に。
3年の大越森平幹事長(20)によると、近年の新入生勧誘に力を入れた成果とのこと。SNSを活用したほか、ロープを使って登った木からチラシを配ったり、新入生の通り道で流しそうめんをしたり……。発想力と自由さのなせる技です。
早大探検部を表すもう一つのキーワードが「個人」です。活動計画の審議を行う週1回の部会と新入生歓迎(新歓)合宿、数回の訓練以外、全員が集まる機会はありません。各自がやりたいことを考え、挑む。その達成のために集団の力を使う。そんな緩やかさが、バラエティーに富んだ活動を生み出す源のようです。
部には、半世紀に渡って続く唯一の伝統行事があります。それが、新歓合宿(4月下旬から5月初め)です。「日本一クレイジー」と銘打った、その名も「サバイバルオリエンテーリング」。
伊豆諸島の神津島を舞台に、2年生1人、1年生2、3人からなる数チームが地図を頼りに4日間、海に潜り、山や崖を登り、森に入ってチェックポイントを回ります。テント、火、電子機器(携帯、GPS)は使用禁止。食料は持参した缶詰やシリアル。夜は寝袋で寝ます。新入生たちは体力的にも精神的にも極限状態に追い込まれます。
探検を体感するとともに、今後への覚悟を問われる場なのです。大越さんは「強烈な記憶を共有することによってバラバラになりがちな部員たちをつなぐ重要な役割を持つ。横のつながりに加え、OBとも体験を共有でき、部の縦の軸の役割も果たす」とその意義を語ります。内容に驚きつつ、行ってみたい気も。わずかばかりの探検心がくすぐられます。
そもそも、なぜ探検部に?
大越さんは、部を「アウトサイダーな集団」と表します。元々、山登りは好きでしたが、入部のきっかけは「アウトサイダー(反体制的)な世界」への憧れでした。「探検は本質的に、世界の地図を塗り替える力を持つ。つまり、既存の体制を打破して新しい価値を生む可能性がある。パラダイムシフトの引き金となりうると考えています 」。なんかすごいです……。
しかし、「新しい価値への挑戦」に4年という時間は短すぎます。そのため(?)、「4年で卒業しない人は多いですね」。ウソか真か、早稲田界隈では、「演劇・麻雀・探検に走ると留年する」なんて話も。
カムチャツカ遠征隊を率いた井上一星さん(21)は、「探検は子ども時代の延長」と言います。
「子どもの時って、みんな探検家だったと思うんです。隣町に行ったり裏山に登ったり。大きくなるにつれてやめていくけど、自分は続けたかった。もっと世界を広げるチャンスができる気がして」
だから、入学後、勧誘チラシを見て衝撃を受けたそうです。「こんな訳分からん所に行って結果を出してる学生がいるなんて。ここで勝負したいって思いました」
探検部で活動する以上、危険は付きもの。そのため、入部の際には、過去の事故について理解し、山岳保険の加入などを誓約する署名を提出することになっています。また、過去の事故を機に作られたという部則には、部のルールや海外遠征を行う際の留意点などが細部まで定められており、毎年更新されています。
安全対策について聞くと、大越さんの言葉に力がこもります。「現場で出来ることは限られます。事前に最大限リスクを減らすことで、活動の実現性や幅が広がります」。だからこそ、活動計画書の審議は真剣勝負。全部員が関わり、突っ込みを入れながらリスクを洗い出し、不安要素をつぶしてきます。
訓練も欠かせません。探検をする上で必須の技術「読図」を鍛えたり、「もしも」に備え、崖から落ちた人の救助や負傷者の搬送方法などを確認したり。「使える道具や時間が限られる中で、最大限の処置が出来るように」(大越さん)現場で使える力を養っています。
「探検とは何か」。1年生の入部式で初めて問われて以降、部員たちはこの問いと向き合い、個々の「探検観」を深めていきます。
「地図上の空白地」がほぼ消滅した中で、どのように探検に価値を持たせるか。今まで以上に問われていると考えるからです。
早大探検部は今年8月、ロシア極東・カムチャツカの未踏峰登頂を果たしました。現地の地理協会からも認定され、現在、「ワセダ山」と名付ける手続きが進んでいます。
大越さんは未踏峰登頂への思わぬ反響を例に、「価値を事前に予想し切ることはできない」と言います。
「一見無意味と思われることでも、積み重ねることで思わぬ価値を生み出す可能性がある。だからこそ、効率とか実利に走らず、早大探検部は行動し続けないと」。それが、新たな探検的価値につながる。そう期待して、次なる未踏の地を探し求めます。
1/29枚