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軍事マニアと呼ばれても…石破氏が「安全保障」にこだわる理由
12月22日、政府の2018年度予算案が閣議決定されました。防衛予算は過去最大の5兆1911億円です。一方、軍事の話は専門的で、国会の中でも「マニアの世界」だと思われがちです。政界きっての軍事通の石破茂衆院議員は、国会でもっと兵器について議論するべきだと言います。国を守るための予算をどう考えればいいのか。石破氏に聞きました。(聞き手、朝日新聞政治部記者・相原亮)
――11月にアメリカのトランプ大統領が来日した際、「非常に重要なのは、首相はアメリカから膨大な量の兵器を買うことだ。我々は世界最高の兵器をつくっている」と発言しました。こうしたバイ・アメリカン(アメリカ製品を買おう)的な発言をどうみますか?
「トランプ大統領は『アメリカ・ファースト』だから、『俺が雇用と所得を作ったぞ』というのが大事なわけで、にらんでいるのは来年の中間選挙だと思う。安全保障環境をどのようにして、より良きものに変えていくかという発想がないわけではないだろうが、主は雇用と所得だろう」
――国内向けの発言だったと?
「トランプ氏は、大統領になる前には色んな事を言っている。『日本には兵器を買わせるのみならず、アメリカの航空母艦の建造費も負担させる』とも言っていた。大統領になってもその主張をする可能性はあったので、『そんな負担はできません』というロジック(論理)を考えないといけないと思っていた」
「空母『ニミッツ』にせよ、『ロナルド・レーガン』にせよ、莫大(ばくだい)な建造費がかかっている。兆円単位のとんでもない額の空母が、アメリカの納税者の負担によってできており、(横須賀を拠点とする)第7艦隊だけでもすごいものがある。『日本の負担は駐留経費だけでは足りない。この建造費も払うべきだ』とか言い出したら大変だな、と思っていた。今後言い出さないとは限らない」
――近年、日本がアメリカ製兵器を導入する際の取引形態であるFMS(有償軍事援助)の額が急増し、国会でも議論になっています。「アメリカの言い値で不透明だ」と問題視する声がある一方、日米同盟を結んでいる点からも、FMSの急増は仕方ないとの声もあります。
「兵器は近代化するに従って高額になっていく。そしてアメリカしか作れないモノがたくさんあるというのも、否定はできない」
「しかし、お金を払ったのにモノが来ないとか、勝手な向こうの都合でラインが閉じてしまったとか、部品をもう作らなくなったとか、そういう弊害はある。その改善は日本政府として、アメリカに対して相当強力に申し入れていくということになるだろう。小野寺(五典・防衛)大臣はそこに強い問題意識を持っておられると思う」
――それでは、どうしていくべきなのでしょう?
「アメリカは日本とだけFMSで契約しているわけではなくて、同様の形で百数十カ国と取引している。であれば、アメリカにお金を払ったのにモノが来ないとか、部品の調達がうまくいかないとか、そういうことで困っている国々は他にもあるはずだ」
「だから、日本がアメリカとFMSを結んでいる他の国々と連携して、それぞれの国において納税者の利益を代表し適切な調達をするということは、もっとやっていくべきことだと思う」
※米国から防衛装備品を導入する場合、実は一般的な「購入」という形ではなく、有償の対外軍事援助「FMS」という方式をとります。軍事技術の流出を防ぐため、日米両政府間で取引するもので、日本政府が代金を前払いし、防衛装備品の導入とあわせて技術支援も米政府から提供してもらいます。
――自衛隊の装備にアメリカ製が多くなることについてはどう考えますか?
「ヨーロッパの装備も、真剣に検討することが必要だ。自衛隊の新戦闘機の選定時も、なぜ(アメリカ製の)F-35になったのか、明快な理由は示されなかったと記憶している」
「当時は民主党政権だったが、日本が元々欲しかったのはF-22だった。F-22とF-35は、似て非なる戦闘機だ。F-22は基本的には邀撃(ようげき=迎撃用)戦闘機であり、F-35は対地(地上攻撃用)攻撃機。ステルス性は低いが攻撃力が上なのは、むしろ(ヨーロッパ諸国が共同開発した)タイフーンではないか」
「タイフーンとの優劣は防衛省内の検討としては行われただろうが、少なくとも国会でそんな議論が行われた記憶はない。米国以外の国の装備品にもいいものはたくさんあるし、国内生産基盤の観点も落としてはならない」
――石破氏は防衛大臣時代に、防衛装備品の調達について、商社が介在している日本独自のシステムを見直す考えを示したことがあります。
「あまりに商社の果たす機能がいわば『便利』すぎて、防衛省独自に色々な情報収集をすることなく、商社に丸投げしていたところがあったのではないか。防衛省は装備品についても自前の分析能力を持つべきだが、その能力が商社にお任せすることによって落ちてはいませんか、という問題提起だった」
「商社は慈善事業でやっているわけじゃないから、もうかるか、もうからないかという価値判断もある。それは民間企業だから当然のこと。だからこそ、日本の国益に資するか否かを判断する能力だけは、(防衛省側が)もっていないといけない」
――その能力は当時より磨かれていますか?
「(2015年に)防衛装備庁ができて磨かれたと信じている。FMSがすべて悪いとは言わないし、商社が介在するのも決して悪いとは思わない。どちらにも長短があり、その弊害を除去する努力を放棄して良いものではないだろう」
「私は国会において自衛隊の制服組が説明することがあるべきだと思う。装備についての議論が予算を審議する国会で行われないことは、決して健全な文民統制とは思っていない。制服組が議会で発言しない国はどこにもない。しかし、兵器について国会議員が語れば、『軍事おたくが訳が分からないことを言って』といわれる」
――来年、日本の防衛政策の基本方針が見直されます。「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と、それに基づいて自衛隊の装備体系を記した「中期防衛力整備計画(中期防)」についてはどのようにお考えですか?
「私は(自衛隊の装備調達の数値目標を明記した)いわゆる大綱別表について、あまり意味が無いと思ってきた。防衛省としては『別表に書いてあるんだから(導入しろ)』と財務省に対して言いやすいとの思いがあるので、別表をやめようという話はほとんど出てこない」
「大事なことは、ここに書いていることは何を意味するか、ということを政治の場で議論すること。彼ら(防衛官僚や自衛隊幹部)はプロだから、立派な別表を作る。それが素人の国会議員には分からない」
「私は別表自体をやめろと言っているわけではないが、『別表に書いたものは絶対に達成するんだ』といって、その後事情が変化しても変えない『別表絶対主義』は、柔軟な防衛態勢整備の障害になる部分があると思う。同時に別表に書いている内容をきちんと理解できる能力を、国会議員が持たないといけないと思う」
――防衛省・自衛隊では、防衛大綱の見直しは、自衛隊の装備調達の数値目標を明記した「別表」をめぐる戦いとも言われます。陸海空のバランスをめぐる争いだと。
「私が防衛大臣の時に防衛省改革を手掛けたが、『個別最適の総和は全体最適ではない』ということをずっと言ってきた。陸は陸で、海は海で、空は空で『これが一番!』とか『絶対に譲れない』と言っても、足してみたら全体最適ではないことがありうるからだ」
「(陸海空の三自衛隊の)運用が統合なら、防衛力整備も統合だ。統合運用と表裏一体である防衛力整備を目指すべきだと今でも思っている」
――当時を知る防衛省幹部は、「石破さんがそう言った途端、削減されると思った陸上自衛隊が一斉に身構えた」と振り返っています。ただ、そこを政治がどう議論していくかが大事だと思いますが。
「陸海空の予算のシェアが1%動いたら担当者のクビが飛ぶとか、0.1%でもダメだとか、そういう発想から脱却しないとダメだと思う」
「防衛力整備は努めて運用を前提とした統合的なものであるべきで、輸送能力の増強なども全体を見ながら考えねばならない。国全体の安全保障という観点において、防衛力整備は更に改善していく余地があると思う」
――国会では、FMS、防衛大綱などの議論において、軍事知識に基づいた議論がなかなかできていない印象があります。
「先ほども述べた通り、ともすれば『石破さんは色んな兵器のことを知っていて、軍事マニアは嫌だね。あの人、戦争好きかもしれないね』と言われてしまうから、国会議員もあまりそういう話はしたがらない」
「しかし与党も野党も揚げ足を取ったり片言隻句で追及したりするのではなく、安全保障委員会で兵器体系についてきちんとした議論が行われる環境を作ることは、文民統制の観点から最も重要なことだと思う」